CARD 25

文字数 1,952文字

 今新たに出されたドラゴンのコストは九。《チーロン・トライアル》はコストで負けている。こうなると攻撃は中止するしかないが、そうした場合このターン《チーロン・トライアル》には攻撃する権利がなくなる。そうすると、このターンに決着をつけられなくなってしまうのだ。
 しかもそれだけではない。《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》はエネルギープールのカードを墓地に送れば、相手のドラゴンの攻撃を無効にできる効果を持っている。今それは疲労状態ではないので、効果が生きているのだ。

「……攻撃はしないで、ターンエンド…」

 弱い方向に唯は動いた。流れが変わった。そして菖蒲の返しのターン。

(き、来たわ!)

 ここでキーカードを引き当てた菖蒲。どんな状況を築かれようと勝負を諦めない心に、デッキが答えてくれたのだ。

「コスト八! 《ビオランドラゴラ・ジギトキシゲニン》を召喚! その効果! 召喚時に自分のエネルギープールのカードの枚数が相手よりも多い場合、相手の場のドラゴンの効果は無効になる! 私のエネルギープールは十二枚。でもあなたは十枚!」
「………むぅ」

 これで、《チーロン・パニッシュメント》の効果をすり抜けることができる。

「でも、コストでは負けている。ブロックすれば私のドラゴンが勝つ…」
「残った五コストで、スペルカード、《消化液(しょうかえき)》を発動! このターン、私の森のドラゴンが相手のドラゴンとバトルする場合、バトルの結果に関わらずその相手のドラゴンをエネルギープールに送る! さらに相手は可能ならブロックしなければいけない!」

 そして菖蒲のアタックステップ。ドラゴンたちの狙いは唯だが、ブロックを強制している。普通なら自爆しかしないが、今は厄介なドラゴンたちをエネルギープールに送れる。

「まずは《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》で攻撃! 場にいる限りこのドラゴンのコストは、自分と相手のエネルギープールの枚数の差分アップする!」
「……………」

 唯は迷った。この攻撃を誰で止めるべきか。

「…《チーロン・イリーガル》でブロック…」

 コストで負けている唯のドラゴンは、《消化液》の効果で墓地ではなくエネルギープールに送られる。

「続いて、《ビオランドラゴラ・メントール》でも攻撃!」

 普通ならこんな攻撃は通しても問題ないが、今は強制的にブロックする。コストでは勝っていてもスペルカードの効果で、《チーロン・ジャッジメント》が場から消えた。
 さらに続く。《ビオランドラゴラ・ジギトキシゲニン》の攻撃。これも唯は《チーロン・トライアル》でブロックする。

「よし、ターンエンド!」

 このターン、唯は三体のドラゴンを失ってしまった。残されたのは、《チーロン・パニッシュメント》のみ。しかし菖蒲の場は健在、《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》と《ビオランドラゴラ・ジギトキシゲニン》がいる。

「ドロー」

 引いたカードは、トリガーカードである《断罪(だんざい)》。次の自分のアタックステップをスキップする代わりに、場のチーロンの数まで相手のドラゴンを破壊できるカード。

「…来るのが遅かったか……」

 唯の手札には、展開できるカードはない。今なら《チーロン・パニッシュメント》で二体いるビオランドラゴラの内片方を倒せるが、疲労状態になってしまうと強力な抑制効果が失われてしまう。そうすると、《ビオランドラゴラ・フコキサンチン》の効果でエネルギープールのカードを墓地に送ってこちらの攻撃を無効化されてしまう。

(デッキの声が聞こえる…。それは励ましのエールじゃなくて、悲鳴…)

 唯の瞳から勝負の熱が消えた。そして、

「……負けたわ」
「ええ?」

 彼女は投了した。まだドラゴンも残っており、体力もあるのだが、降参したのだ。

「どうして?」

 菖蒲は聞いた。すると、

「もう私の意思が傾いちゃった。これじゃあもう勝てない。ドローも乱れて…。そうわかったの。だから負け」

 カード・オブ・ドラゴンにおいては、降参は認められている。図らずも菖蒲は勝利することになった。

「…」

 本当に今のは勝負があったのか。そう思った菖蒲はデッキトップをめくった。するとそれは、二枚目の《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》。

「それじゃあ、続けていても私の負けだわ」

 唯は潔く負けを認めた。

「あんたにも自分にも負けちゃった。残念だわ、ここまで来るのに苦労したのに。あんた、私の分まで頑張んなさいよ」


 二回戦、菖蒲は苦戦したが、勝つことができた。遠ざかっていく唯の後ろ姿を見ていて菖蒲は思う。

「次も頑張んないと! 唯の分も!」
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