CARD 55

文字数 2,404文字

 先に展開をしたのは、井筒の方である。先攻一ターン目、彼はコスト一のドラゴンを場に出した。

「召喚だ、《ヌークリア・ウェポン・ドラゴン》…」
「ヌークリア? 聞いたことがないカテゴリーね……。まさかこれは、創造者たる井筒さんオリジナル?」
「そうではない。三か月ほど後に拡張パックで登場予定だ。そのサンプル実機が私の手元にあるだけさ」

 これでターンは終了。

「私のターン!」

 ここは負けじと展開しておきたいところだが、あいにく菖蒲の手札にあるドラゴンはコストが軽くても三である。

「……《エネルギー・ギフト》を使ってターンエンド…」
「では私のターンを始めさせてもらおうか…!」

 コスト二の、《ヌークリア・ジェネレート・ドラゴン》を召喚し、ターンは終了。菖蒲の場はがら空きなのだが、攻めには行かない。
 返しの菖蒲のターン。《ビオランドラゴラ・メントール》を召喚してエネルギーチャージをする。

「そう言えば、君のデッキは【ビオランドラゴラ】だったな。確かエネルギーチャージに長けるようにデザインした記憶がある…。私もエネルギーチャージをしておかないと、テンポアドバンテージに差を付けられてしまうな」

 今、井筒のエネルギープールは二枚。対する菖蒲は四枚。

「私のターン…。ドロー」

 このスタートステップでエネルギーチャージをしても三枚。しかし逆転の札は既に握られている。

「スペルカードを使わせてもらう。《ラジオ・アイソトープ》! この効果により、場のヌークリアを二体選ぶ。片方の効果を無効にし、もう片方の効果をそれに与える」

 井筒の場にはヌークリアは二体しかいない。まずは無効にするドラゴンだが、これに選ばれたのは、元々バニラである《ヌークリア・ウェポン・ドラゴン》。それに、《ヌークリア・ジェネレート・ドラゴン》の効果が付与される。

「バトルに入ろう。《ヌークリア・ウェポン・ドラゴン》で直接攻撃を行う」
「《ビオランドラゴラ・メントール》でブロック! これでコストの低いあなたのドラゴンは破壊!」
「そうだ。だがその時、与えられた《ヌークリア・ジェネレート・ドラゴン》の効果! 破壊される場合、代わりにエネルギープールに送られる…」

 これが狙い。このために二体のドラゴンを温存していた。そして後続の《ヌークリア・ジェネレート・ドラゴン》も攻撃してくるが、対象は《ビオランドラゴラ・メントール》。自爆特攻を選んだ。

「もちろん私は一点のダメージを受けるが、それでも《ヌークリア・ジェネレート・ドラゴン》はエネルギープールに送られる…。これで五枚…!」

 エネルギープールの枚数だけを見れば、互角である。だが結果としてエネルギープールを肥やすためだけに、井筒は二体のドラゴンと一点の体力を失っている。

(このプレイングに何の意味が?)

 困惑する菖蒲。もし相手が普通のドラゴンテイマーであれば、ただのディスアドバンテージの行為。だが相手は、このカードゲームの創造者。意味のある行為に間違いない、と考えてしまう。

「まあいいや…。私のターン!」

 コスト五の《ビオランドラゴラ・スクアレン》を召喚し、さらにアタックステップに移る。

「私は《ビオランドラゴラ・メントール》でこう……」
「トリガーカード発動、《マンハッタン・プロジェクト》」
「…?」

 相手の場のドラゴンのコストの合計以下のコストを持つヌークリアを一体、デッキから自分の場に出せるカードである。ただし、自分の場にドラゴンが存在しないことが条件。

「君の場の合計コストは、八。よって八以下のヌークリアを私の場に呼び出させてもらおうか」
「は、八以下……!」
「安心しろ。この効果で呼び出されたドラゴンは攻撃できない。この状況、そのドラゴンによる直接攻撃から身を守るだけさ」

 井筒が選んだのは、コスト五の《ヌークリア・プロポージョン・ドラゴン》。

「コストが軽い…?」

 これには別の意味で驚きを隠せない。普通、こういう踏み倒し系のカードを使うのなら、大型のドラゴンを呼び出したいところである。だが出て来たのは、軽めのドラゴン。

「さて……私の場にはコスト五のドラゴンがいるが、それでも攻撃は続行するかな?」
「……しない。これでターンエンド…」
「そうかそうか。じゃあ私のターン。ドロー。そして、《ヌークリア・プロポージョン・ドラゴン》の効果発動! スタートステップでドローする枚数を一枚、増やせる」

 よって、井筒は二枚カードをドロー。しかしデメリットで、この効果を発動した場合、このスタートステップでエネルギーチャージは行えない。

「……いいのさ、そんなことは。私はこのドラゴンを召喚する。《ヌークリア・エネルギー・ドラゴン》だ」

 コストは四。だが、自分のヌークリアを召喚するコストを二減らすことができる優秀なシステムクリーチャー。これがいれば、エネルギーチャージできないデメリットも気にならない。

(井筒さんの狙いがわかった! 序盤は手札補充に努めて、後半で巻き返す戦法!)

 菖蒲の目が光る。だいぶいい線を行っている考えだ。

「まだ私のターンは終わっていない。《エネルギー・ギフト》を発動してから、終えよう」

 そしてターンは菖蒲に移る。

(ならば先に私が大型のドラゴンを出して、リードすれば…!)

 エネルギープールは六枚。コスト六のドラゴンを出せる。

「召喚、《ビオランドラゴラ・フェランドラル》!」

 さらにアタックステップ。《ビオランドラゴラ・フェランドラル》で攻撃する。菖蒲は、この直接攻撃が通るとは思っていない。ブロックされるだろう。だがそうすれば戦闘になり、《ビオランドラゴラ・フェランドラル》の効果でエネルギーチャージが行える。
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