CARD 31

文字数 2,462文字

 ここで輝明は場を再確認する。今、コストが六になった《サラマンフリート・プロミネンス》と元々六である《サラマンフリート・バーナー》を越えるドラゴンは、佳樹の場にはいない。ボードアドバンテージでは差を付けられてはいるものの、このターンに攻撃を行えばひっくり返せる。

「まずは《サラマンフリート・バーナー》の効果だ! 俺は《サラマンフリート・プロミネンス》を選択し、そのコストを二、上げる! これでコストは八になった!」

 それからバトル。だが、

「その前に、僕はトリガーカード、《ピンポイントスナイプ》を発動。その効果で自分のジャバコアトルを一体墓地に送り、相手の場の、最もコストが高いドラゴンを一体選んで破壊する!」
「な、何?」

 攻撃に移る前に、《サラマンフリート・プロミネンス》が除去されてしまった。佳樹はその効果で、《ジャバコアトル・テリア》を墓地に。

「さあ? 残ったサラマンフリートで攻撃を行うかい?」

 挑発的な発言。これは相手を舐めているから言ったわけではない。事実、輝明は攻撃に移れない。《サラマンフリート・バーナー》はブロックされればそれまでで、しかも《サラマンフリート・ヴァイオレット》は《ジャバコアトル・パトリオット》と《ジャバコアトル・マーベリック》を越えることができないのだ。

「俺はターンを終了する…」
「では、僕のターン!」

 ここまでで貯めた、佳樹のエネルギープールは十枚。

「既に僕の勝利は決まったようなもの! ここで召喚する、《ジャバコアトル・ピースキーパー》を!」

 コスト十のドラゴンが場に現れた。

「来るか…いよいよ!」

 一斉攻撃に移るのだろう。そう思ったが、

「変な思い違いをしているな…?」
「いいや? 勝つためには俺の体力三十点を削り切らないといけない。ここから本格的に攻めてくると考えるのは常識だろう?」
「フフ…」

 佳樹は馬鹿にしたような笑い声を漏らした。

「何がおかしいんだ?」
「僕は攻撃して勝利なんて求めていない。ジャバコアトルの真骨頂はここからだ。僕は《ジャバコアトル・ピースキーパー》を疲労状態にして効果を発動。このドラゴンに王冠カウンターを一個乗せる!」

 カウンターとは、特定のカードの効果によってカードに置かれる目印である。よくあるカードゲームでは広く採用されており、カード・オブ・ドラゴンも例に漏れない。ただし、カウンターはゲームに必ずしも必要なものではないために、準備する必要はない。逆に言えば、必要になった時にそれとわかるものを相手の許可を得て使用するのである。クリップやコイン、デッキに入っていない余ったカードなどを使用する場合が多いが、佳樹はわかりやすさ重視でサイコロを《ジャバコアトル・ピースキーパー》に乗せた。目の数は一で、これは王冠カウンターが一個乗っていることを意味している。

「何だこれは?」
「せっかくだから教えてやろう。《ジャバコアトル・ピースキーパー》に三個目の王冠カウンターが乗った時、僕はこのゲームに勝利する!」
「そ、それは……! まさか、エクストラウィン…!」

 別名、特殊勝利。普通、カードゲームでは相手の体力を削る、もしくはライブラリアウトに持ち込むことで勝負が決まる。これは基本的なルール。しかし、その規則の範疇に収まらないカードもある。それが特殊勝利である。この場合、お互いの残り体力及びデッキの枚数に関係なく、条件を満たした場合、その時点で勝負が決まるのだ。

 佳樹の扱うデッキ、【ジャバコアトル】の正体。それは特殊勝利を狙うデッキなのだ。

「ただし、王冠カウンターは《ジャバコアトル・ピースキーパー》の効果でしか置けず、その効果は一ターンに一度しか適用できない。だからあと、二ターンだ」

 普通なら、そう言われて焦るだろう。だが輝明は違う。

「何だよ、二ターンもあるのか…! ならそこが勝負!」

 希望は常に捨てない。

「俺のターン!」

 エネルギープールを七枚疲労させて、《サラマンフリート・ステラー》を召喚した。

「ソイツには、すぐに退場してもらおう。トリガーカード、《サモンキャンセル》。相手がドラゴンをコストを支払って召喚した場合、それを破壊する。その後、相手は一枚のドローかエネルギーチャージを行える」
「く…。なら俺は…」

 手札は五枚と潤っている。だから輝明はエネルギーチャージを選んだ。

「だが、《サラマンフリート・バーナー》の効果! 自身のコストを二、上げる!」

 これでコストは八。

(単純だな…。次のターンにコストをさらに二、上げて十。《ジャバコアトル・ピースキーパー》と相打ちを狙うんだろう? だがそう簡単に行かないのが、カードゲーム!)

 輝明のターンは終わり、佳樹が自分のターンを始める。

「僕は《ジャバコアトル・ピースキーパー》の効果発動! これで二個目の王冠カウンターを乗せる」

 サイコロの目を二にした。

「だが! 俺も手札のトリガーカード、《火刑》を使えるぜ!」

 それは、選んだ相手のドラゴンを破壊するカード。当然選ぶのは《ジャバコアトル・ピースキーパー》。

「しかし、僕の場の《ジャバコアトル・タロス》の効果を忘れたのかい? 他のジャバコアトルが破壊される場合、代わりにこのドラゴンを破壊できる…」
「……わかってはいる。だが、その身代わり破壊が終わったタイミングにもう一枚、トリガーカードを俺は発動する! 《バックドラフト》だ!」

 実は、こっちが本命のカード。自分の場のサラマンフリートのコストの合計以下のコストを持つ相手のドラゴンを破壊できるのだ。今、輝明の場には二体のドラゴンがおり、そのコストの合計値は十三。

「これはかわせないだろう? 俺はもちろん、《ジャバコアトル・ピースキーパー》を選んで破壊!」

 致命的な破壊効果が飛んできているというのに、佳樹は表情を崩さないのだ。
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