CARD 45

文字数 2,986文字

(でも疲労状態になっている! 私のターンで除去すればいいだけのこと!)

 その思いに応えるかのように、デッキは菖蒲にカードを引かせる。

「よし! 私はコスト七の《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》を召喚! そしてあなたの《災害竜メテオフォール》に攻撃!」

 コストで上回ってはいるものの、デメリットのせいで相手にダメージは発生しない。しかし、厄介なドラゴンを破壊することはできた。

「われのターン」

 不気味なのは、枝垂の表情。さっきから出したドラゴンを返しのターンにことごとく破壊されているのに関わらず、眉一つ動かすことすらしない。

「われはコスト七で、スペルカードを発動。《フューチャー・ディザスター》!」
「何、それは…?」
「説明しよう…。《フューチャー・ディザスター》は次の自分のターンのスタートステップでドローしたカードが災害竜だった場合、コストを支払わずに場に出せるカード! 違った場合は何も起こらん」

 本来、この手のカードはデッキトップを操作するカードと組み合わせてから使うべきである。だが枝垂はそうしなかった。確信しているのだ、自分の次のドローは災害竜であると。
 ターンは菖蒲に回った。エネルギープールは八枚まで貯まる。大型のドラゴンを出して攻めることもできるのだが、

(ここはまだ、様子見……。と言うか、もしも枝垂が今引きで災害竜を引いたら、それに対処しないといけない! 盤面を強化しておかないと!)

 安定を取って、コスト六の《ビオランドラゴラ・シトロネロル》を召喚する。そして攻撃は行わずにターンエンド。
 そして枝垂のターンの、スタートステップ。この時に災害竜を引ければ、タダで出せる。

「悪いな、菖蒲……。われと災害竜は一心同体。裏側のカードが何であるかまではわからぬが、引けることだけは確実じゃ!」

 引いたカードを確認することもせずに、何と枝垂はそれを場に出した。

「ま、ま、ま、まさか! そんなことって…!」

 それは、《災害竜ライトニング・ストライク》。こんな序盤に、コスト十のドラゴンである。

「効果を発動! デッキより、災害竜を一体リクルート。われが呼ぶのは、《災害竜タイダル・ウェーブ》! その効果で一枚ドロー!」

 さらにまずいことに、枝垂はこのターンまだエネルギープールのカードを使っていない。だから手札のドラゴンを場に呼び出せるのだ。

「《災害竜ランドスライド》を出しておこうか。そして場に災害竜が出たことにより、効果を発動……」
「この瞬間に、トリガーカードを発動!」
「うむ?」

 メインステップで発動したドラゴンの効果を無効にし、破壊できる《アルカロイドパニック》。ただし、一体しか選べないので、止められるのはリクルートかドローの片方のみ。

「私が無効にするのは、《災害竜ライトニング・ストライク》! これであなたはデッキからドラゴンを出せなくなった!」
「………」

 効果を止められたというのに、枝垂は少しも焦っていない。何故なら、

「ちょうど良かろう! 手札の《災害竜サイレントスプリング》の効果! スペルカードまたはトリガーカードの効果で相手がわれのドラゴンを破壊した場合、コストを支払わずに場に出せる!」
「別のドラゴンを展開した…?」

 実は、そのドラゴンは手札で腐っていたのだ。相手が誰に関わらず、破壊は基本的にドラゴン同士の戦闘か、ドラゴンの効果が多い。そして発動条件は受動的であり、自分から使えるわけでもない。言わば念のために入れている一枚。それがここに来て、光ったのだ。

「《災害竜タイダル・ウェーブ》の効果は無効になっておらん。だから二枚ドローじゃ」

 盤面は最悪。《災害竜タイダル・ウェーブ》が場にいる限り、枝垂は災害竜を出せば出すほど手札が潤うという意味不明の状況。だが、《災害竜ライトニング・ストライク》の効果も凶悪なので、菖蒲が無効にすべきドラゴンを選び間違えたわけでもない。

(つ、強い…! 《災害竜ライトニング・ストライク》を失っても、新しいドラゴンを場に出すことができる……つまりはドラゴンを破壊されることも全て想定内ってこと…?)

「……そうじゃ! われはあらゆる状況を考えてカードをプレイしている! そなたに、その隙が見つけられるかな…?」

 まだ枝垂のターンは続くのだが、特に何もせず、そして攻撃も行わずにターンエンド。

(焦る必要はない。確実にトドメを刺せる状況にしてから、一気に総攻撃! それまでは場を整えることに徹せよ! 基本中の基本じゃな…)

 そう。意外にも枝垂のプレイングは基本に忠実。それがゲームで勝つことに繋がると理解しているのである。勝負には、特別派手なことは必要ない。勝ちたいのであれば、純粋に攻めればいい。ただそれだけ。それに徹する彼女の姿勢は、優勝者の器に見えないかもしれない。

(だが! ここでブレるから負けるのじゃ。勝利という目的のために、無駄に脱線しないこと、蛇足を付けないこと……それが一番肝心で、それでいて難しい! そして最初の姿勢を貫けば、それを止められる盾はない! ドラゴンを並べて、勝てる時に攻める! たったそれだけのこと!)

 その姿勢を貫き通した結果、彼女は目の前に立ち塞がるドラゴンテイマーを全て、打ち倒してきたのである。

「さあ、そなたのターンじゃ!」
「わ、私のターン、ドロー!」

 エネルギーチャージも済ませれば、もう九枚も貯まっている。

「《ビオランドラゴラ・アントシアニン》を召喚!」

 これはいい。ドロー力が高いのは枝垂だけではない。菖蒲もこのターンに、相手を縛るキーカードを引けたのだ。これでコストを支払わないで枝垂がドラゴンを出したら、一ターンに一度だけそれをエネルギープールに送れる。

「ほう? これは……」

 一見すると、《災害竜ライトニング・ストライク》がいなくなった後、それに《災害竜サイレントスプリング》を踏み倒された後に《ビオランドラゴラ・アントシアニン》を出しても、意味がないように感じる。しかしそれは素人の発想。実は【災害竜】はドラゴンの効果に限らず、コストの踏み倒しが多いのが特徴。だから場にいることに困ることはない。それにこの時、枝垂は場を見た後に手札を見た。既に《災害竜フォトンベルト》を握っていたのだが、リクルート効果は《ビオランドラゴラ・アントシアニン》に潰されてしまうのでそれが無駄になった。

(枝垂は攻撃を仕掛けては来ないか…。こちらから攻めるのはちょっと危険だけど、相手のドラゴンが増えていくことを防ぐには……)

 このターン菖蒲は攻めようとしたものの、枝垂の場にいる《災害竜ランドスライド》がそれを躊躇わせた。疲労状態でもブロックできるためである。菖蒲の場に、コスト八以上のドラゴンはさっき出したばかりの《ビオランドラゴラ・アントシアニン》しかいないし、その攻撃を《災害竜タイダル・ウェーブ》で防がれる可能性もある。ここは、温存を選択。

「われのターンじゃな…」

 枝垂も均衡状態は好ましくないと考えている。ので、あるカードを引ければ……と考えた。

(許されざる過ちなら、この状況を打破できるが……)
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