第15話 賢者の石から(2)

文字数 714文字

「わが身体を動かしている何ものかがあることは、疑えない事実であるのに、その姿を目にすることはできない」(「荘子」斉物論篇)

 その「何ものか」は、何なのか。それこそ「自然」にほかならない。
 自然は、もともと「他然」に対する言葉だった。他者によって動かされることなく、それ自身がそれ自身に内在するはたらきによって、それ自身となり、そうなっているもの ── それが自然というものであることは、ブッダを通じて私は知った気になっていた。

「それは人為という異質的なものの介入を許さず、それ自身の同質性を保持するものである」と森三樹三郎さんは言う。
「この自然の定義は、そのまま必然の定義にも共通する。自然とは、いいかえれば必然のことなのだ。自然が人為を排除するように、必然もまた人為を拒否する。人為を越えた必然、それは運命のことではないか? 運命とは、人間の営みを越えた必然の力であり、人為の入り込む隙がない、自然の動きのことである」と。

「いかんともすべからざるを知りて、これに安んじて命にしたがうは、ただ有徳者のみこれを(よく)す」(「荘子」徳充符篇)

「運命とは、自然の別名である。とするならば、運命を支配したり、主宰したりするものは、存在することを許されないことになる。もし運命が、神という他者によって動かされるとしたら、それは他然とつながり、自然でなくなるからだ」── 森さんの絶妙な言葉が続く、「運命が自然である以上、あくまでもそれ自身に内在する力によって、自己展開するものでなければならない」

「人力では、どうすることもできないと悟った場合には、運命のままに従うことこそ、至上の(はたらき)であるといえよう」(人間世篇)

 … 私は、何も言えなくなる。
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