第13話 荘子の魅力

文字数 917文字

 往来で、一風変わった体をした人が歩いているのをたまに見掛ける。セーラームーンの服装をした若い男。女装した初老の男。魔女のような恰好をして、自転車を走らせている初老の婦人。
 奇異には映るが、「変わった人」が、そんなにめずらしいことではなくなった。私の住む、奈良界隈の話。
「これが不良(!)だ」=「何か悪いことをしそうな人」が、分かり易い時代があった。40年位前は、リーゼントとか、学生服のダボダボ・ズボンとか、それらしい姿で一目でそれと分かったものだ。
 ふらふら書き続ければ、「他己」を自己として生きている人がいる。私がそうで、他己とは、〈 他者から自分はこう見られているだろうと思う自分 〉、それを自分とする自分だった。
 だから、たとえば「こいつはダメだ」と、職場で上司が私に評価を下したならば、ほんとうに私はダメになった。逆に、「こいつはデキる」と見られたならば、やたら張り切って仕事をした。

 昔の恋人や知人から、「そのままの、真っ直ぐなあなたがいい」といったニュアンスの言葉を、好意的に言われたこともあった。親しくなった人の多くは、私をそのように見ていたようだった。
 すると私は、実際の自分はどうなのか分からないまま、〈真っ直ぐな自分〉を意識して、そこに力点をおいて生きようとしたりした。
 ところで、その私は何に対して真っ直ぐだったのか? 窮極のところ「自分を自分の思い通りにさせたい」欲求に対する真っ直ぐなのであった。
 結果、相互作用として、曲がったことが好きでない人間のように、私は人から見られていたのではないかと思う。
「荘子」を読むにつけ、そのこだわっていた自分は何だったのかと、考えざるをえないことになる。
 生来のほんとうの自分のままであれ、と言われ、「ホレ、べつに、特段たいしたものでもないだろう」と私は私を見せつけられる気がする。そう言われると、気が楽になる気がする。

 荘子を読んでいる時はとても心地良く、荘子の世界に私は飛んでいる。その荘子について、私はここで言葉にしようと躍起になっている。舞い上がったまま、その魅力について書こうとすると── うまく着地できない。まるで何も、その魅力を書けない気持ちに苛まれる。
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