第8話

文字数 4,153文字

「まぁ確かに、幸せと感じるかどうかは人それぞれの内心の自由だ。その人が幸せだと思えば幸せなのだろう。だがしかし、それは何者かの思惑によってそう思わせられたとしたら、それは偽物の幸せではないのだろうか?だとしたならば、それは不幸でと言う方が正しいのではなかろうか?レイカくん、私の言っている意味が分かるかい?」
「よくわかりません」
「まぁいい。だが顔を見ればその人と成りがだいたい分かるのだよ。君は素直でいい子だが、いつも判断を人任せにする分、自分の頭で考える習慣が出来ておらんようだな」
「なんかズバリ当てられてる気もするけど・・・もしかしてわたしのこと凄い馬鹿にしてます?」
「いやまさかそんなつもりはないよ。誤解を与えたのならば私としても遺憾だ。気を悪くしてくれるな。だが一方ヨウコくん、君は敏い子だ。ここが普通の場所でないともう確信しているようだね?」
「それを説明してくれるってわけ?」
「まぁそうだね。だが話すよりも見たほうが早いだろう。ほら後ろを見てみなさい」
ビルのオーナーを名乗る老人の言葉に促されるれ、ヨウコとレイカは振り返って自分たちがこの部屋に入ってきた方を見た。だがそこにこには合ったはずのアーチ型の入り口はなく、一面がすべて白一色のただの壁だった。
「はっ!?」
「あなたがやったの?」
「ああそのとおり・・・私には特別な力がある。それは本のページを一気に多数ペラペラとめくるように、幾重のも時空を軽々と超えることを可能にする偉大な力さフフフ」
「あの子たちを操るのもその力のおかげってことなのね?」
「あの子たちとは、私の娘たちのことかな?君は本当に賢い子だ。察しが良すぎると短命に終わるとも言うが、私は君の事が気に入ったよ。私が言う前に説明してくるようだ。それではヨウコくん、私の力の正体は何だと思うかな?」
「悪魔と取引をした、とか?」
「悪魔ときたかいフフフ・・・若かりし頃にゲーテのファーストを読んから興味はあったが、残念ながら私もメフィストフェレスに会う方法は知らないね。にしても君は想像力も豊かなようだね。他にもなにか思いつくかな?」
「その手に持っている杖が魔導師の杖?」
「ほう、魔導師の杖に見えるかい?それでは手に持って近くでよく見たまえ」

 老人はそう言うと腰を起こして、自分の持っていた杖をヨウコの前に差し出した。


 ヨウコは老人の意外な反応に少しぎょっとした様子だったが、気を立て直し杖を受け取ると、それをぐるぐる回しながらじっくりと調べはじめた。

 ぱっと見た感じ自然の造形をしておらず、木製ではないようだ。それは人工的で美しい直線的な長い円柱の杖で、取っ手部分は持ち手に合わせて膨らんでいて、角度を変えながらの複数の多角形の面で構成された幾何学的な形状をしていた。手に持った感じ重すぎるわけでもなく、手によく馴染む感じのごく普通の杖と言った感じだ。材質はわからないが全体的に象牙のような乳白色をしていた。

「特注して作った高級ぽい杖だけど、特別変なところはないかなぁ・・・」
「ああそのとおり。見た目は普通の杖だ。でもねぇ・・・それは地球に残された唯一無二の存在、知れば誰もが驚天動地、紛れもない魔法の杖なのだよ」
「え?」
「ハハハ・・・まぁそう言われて信じられないよね?当然だ。それじゃ杖は返してくれたまえ」
「そう言われたら簡単には返せないんですけど」
「ようだよ!返しちゃダメだってヨウコ!!」
「ハハハ・・・君たちが持っていても意味がないのだよ。閉じた扉は開かいないし無論帰ることもかなわない」
「まぁ確かにそうかも」
「なんで?返しちゃダメだって・・・・」
レイカががっかりした様子でそう言ったがもう遅い。
「ありがとう。この杖は以前から随分古い時代のものだとはわかっていたが、普段使いでちょうど良いと思って長いあいだ普通に使っていたのだよ。しかしそんな中で私が偶然この杖の真の力に気づいたのは、まったく私の気まぐれ偶然の成り行きだったのだ。まさかそんなやり方で神話の時代のとてつもない偉大な存在が施した封印が解けるなどとは誰も思わないのだから」
「なにそれ?鍵って」

「それは簡単には教えられないよ。君が私の家族になり、いづれこの力の後継者になる、というのもやぶさかではないがね」
「後継者なんて絶対無理だし・・・」
「で、その力でここにあなたの城を作ったわけなの?」
「城ではなくビルディングだがね。私はここでもビルのオーナーなのだよ。このビルは大小169室あり、地下3階地上10階で構成されている。設計図は自分の頭の中ので構成した意思とこの杖を作った偉大な文明の叡智が螺旋を描くように自動創世されるのだ。全く信じられない脅威の力だ。この空間自体我々が元いた地球、つまり東京とは違う違うとある別の概念世界だ」
「なんか狂気の沙汰にしか聞こえないんだけど、たしかにそうとしか思えない。あなたのいう別の世界っていう意味はつまり異次元てこと?」
「ああ異次元という言葉で片付けるならそのとおりだ。しかしそもそも異次元の概念を君は理解しているのかな?」
「数学的になら縦横奥行きで三次元、時間で四次元、そして異空間の5次元。ならわかるけど、概念はわからない」
「素晴らしい!君は何か特別な教育を受けているのかい?」

「いやちょっと前に興味あって、科学系YouTuberの動画見ただけだけど」
「そうか、いまはなんでもインターネットで学べるものなのだね。しかし皮肉なことに、そのインターネットによって人が狂気に侵されているわけだがね。とにかく確かに多次元の数学的な説明ならば君の言うとおりだ。しかし数学の世界で異次元と呼ぶものは仮に人間が想像しやすくしたモデルに過ぎない。今君たちがいる世界は、人間が理解していた物理学の法則や地球上に既知されている文明の常識をはるかに超えている。この杖に宿る魔術的な力は真に神秘の力なのだよ。この杖の封印をたまたま私が解いてしまった時に、強烈なショックと共に情報の津波が私を襲ってきたのだ。この杖に内在していた無機質的な遺伝子のようなきめ細やかな煌めく螺旋状の波が止めどなく私の魂に入ってきたのだ。それが何なのかをいちいち今とうとうと君たちに説明するのは無粋だし無理な話だ。ただ君のような理知的な女性に言えるのは、この杖を創った者達の文明は今ある人間の始祖に当たる生命だと言うことだ。彼らは人間ではない。それだけは言える」
「なんかめちゃくちゃ長いし、よくわけわかんないけど、それってよく月刊誌ムー的な地球外生命体とかそういうこと?」
「地球外生命体か・・・。たしかにそうなのかもしれないね。しかし残念ながら人間の始祖の起源までは記録されていなかった。私にはまだその情報クリアランスが足りないか、もしくは私たち人間にはあずかり知れない神秘なのだろうとも思う。ところで君は、ヒトゲノムという言葉をしっているだろうか?つまりそれは人間の遺伝子情報の事だが、実はそのなかで、不明または誤解されたまま放置された遺伝子情報が残ってことを知っているかな?」
「いや知らないよ普通」

ヨウコは感情を抑えているのかあっさりした様子で話している。


レイカは二人の会話にきょとんとするばかりだ。

「通説である人類が猿から進化したというのは、つまり猿と符合する遺伝子を持っているからだ。単純に言えばそうだが、私には短絡的な理屈に思えるのだよ。ヨウコ君はどう思うだろうか?猿から人間なるには大きなる飛躍があるとは思わないか?」
「確かにそうかもってちょっと思うかな?」
「そうだろう?私はその疑問に答えることが出来る。実は猿に人間性を植えつけた存在が居るのさ。実はその存在は人類が誕生した紀元前100万年ほどの時代この地球上の始祖人間として存在していたのだよ。しかしながら人類が生まれた後に、何故か彼らは、一人残らずこの地球上から消えてしまった。誰も居なかったの様に。だから考古学でどれだけ地面をほっても彼らの残骸は出てこないし、不明の遺伝子はそのまま未解明なのだよ」
「それでつまりあんたの杖は、その人間の始祖の存在が作ったもので100万年前に地球に忘れていった杖だってわけ?」
「君は本当に素晴らしい!ますます気に入ったよ。そのとおりだ。人類を産んだというか、猿に知性をもたらした彼らは、その後間もなく文明ごと地球から消えた。他の空間に幽霊のように消えてしまったのだ。理由は私もよくわからない。ただ彼らの残した杖がたまたま私の元にやって来て、蓋然性を秘めた偶然が重なって封印を解いてしまった私は、彼らの尋常ならざる時空をも操る力を得たのだ。」
「なるほどね。それで私たちをどうするつもりなの?」
「ここにいて、我々の家族になってもらいたい。私たちが元いた世界はもはや人が多すぎる。野心と欲望は右肩上がり、空気は汚れ、異常気象による熱波に各大陸には甚大な森林火災、世界規模の人の移動によって新型の疫病が生み出され流行し、複合的なフラストレーションによる紛争と戦争がこれからさらに増えるに決まっている。もしかすると始祖たちはあらかじめ、こうなる事態を予期して去っていったのかもしれない。しかしながらこの世界に居る限り、君たちには充足した生活を保証しよう。無限のパーソナルスペースと、地球にいた頃のような、いつも何かに追われるような生活をする必要はない。いずれ必ずここに来てよかったと思うようになるだろう」
「嫌だよ!私は絶対に帰りたい」
しばらく黙っていたレイカは怒気のこもったつよい声で言った。
「最初は皆同じくそう言うんだ。しかしだんだんと気持ちが変わってくる。以前の世界で自分が感じていた常識や感情は押し付けられたものだったと気づくようになる」
「ヨウコこの人の話に乗っちゃダメだよ!絶対頭おかしいって!」
「・・・・」
ヨウコは返事をせず、黙ったまま何かを考えているようだ。
「どうやらレイカくんは不都合な真実をつきつけられて少しヒステリーを起こしたようだね。まぁ落ち着き給え。時間はたっぷりあるんだ。ゆっくりと考えればいい・・・フフフ」

ややこしい会話が続いたけど、ここで途切れしばらく沈黙の時間が過ぎていった。


To be continued.

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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

コタロー。村山台の地域猫でナレーションができる猫である。

君島キリト。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はキー坊。ディレクションかつカメラ担当。映像クリエイーターを目指しエンタメ系の専門学校にかよっているなか、高校時代の友人だった牛山シオンと組んで動画配信を始めた。YouTube登録者数17万人のチャンネルを運営していて、視聴者の投稿を頼りに全国の有名廃墟や、未発掘のいわく付き物件を探しては遠征している。

牛山シオン。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はウッシー。MC担当。テンションの高さとフィジカルの強さが自慢。ピザ屋の配達と引っ越し業で鍛えた体で各地の危険な場所にも前のめりに潜入する肉体派。YouTuberとして有名になった後でも、引越センターに頼りにされおり、筋トレ代わりに引っ越し業でこなしている。

廃墟ビルディングの五階の部屋に突然現れた杖を突く老人。オーナーと自称しているが詳細不明な謎の老紳士。

囚われている謎の少女

正体不明の声

ユカと呼ばれる謎のメイド少女。

この辺りのボス猫で結構な年齢のオス猫。名前は助蔵。コタローの後見人的な存在でもある。

謎の種族。

逃げるネズミA

逃げるネズミB

黒い球体

耳と目の球

スーパーコタロー。

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