第16話

文字数 4,800文字

ヨウコと僕は、壁に開いた大穴を抜けて、もとの廃墟ビルディングに戻った。人間の始祖とか言う謎の人類のによって命じられ追従して来た不思議な黒い球もニ体、空中に浮いていた。


そこは来た時と同じく五階のメインフロアで、そこは相変わらずカビ臭さと埃っぽい空気が滞留していた。ところどころ割れた窓ガラスを通して、遠くのどこかを走り抜けるクルマの走行音や、線路を走る電車の駆動音が聞こえてきた。そして外は静かに雨が降っているらしく、アスファルトやコンクリート面を打つ弱い雨音が聞こえた。あいまってなんだか自然と安心感が湧いてきた。

「おまえも戻ってこれたんだね」
「にゃ〜」
「よかったけどさ、レイカとYouTuberの二人は・・・」
彼らの姿はなかった。

YouTuberのキー&うっしーはこっちの世界に逃げて行ったはずだ。老人の魔力でネズミに姿を変えられてたから、側溝か草むらなんかを見つけて隠れたのかもしれない。



見つけたら次は仕留めよう!

なんて思ってると、空に浮いている二つの黒い球の振動音が大きくなってきて、音の間隔も次第に短くなってきて、何かヤバいことを始める気配がジンジンと伝わってくる。

すると黒い球の中央付近に小さな点が生まれた。球自体も回転を始めた。開いた点のような穴を中心に、ちょうど閉じた傘を開くように、マジックで突然現れた傘みたいな感じで、しかしながらそれは傘ではなく、空間そのものが新たに展開されて元あるこの廃墟空間に混ざり合うように、黒い球の周囲を覆っていった。
「これも魔法かなんかなの!?」

次の瞬間二つの球の一方の下に、一人のセーラー服姿の少女が横たわっていて、それは紛れもなくレイカだった。もう片方の黒い球の下には二人の男が横たわっていた。なぜか二人とも全裸で暗いし誰だかわからないけれど、たぶんあのYouTuberだろう。彼ら三人共意識を失って倒れている。

「レイカ!」

ヨウコは倒れたレイカの元に駆け寄って背中に手をやって彼女を抱き起こした。レイカの頬を叩いて起こそうとしている。



二つの黒い球のうちの一つが、壁に開いた大穴の中へと戻っていった。白い部屋へ入るための異界へのゲートであるその大穴を塞ぐように、黒い球は穴の中心で薄く伸ばされた煎餅のように潰れていって、黒い急から二次元の丸に変化していって、気づけば完全に穴を塞いでいた。そこにはいつもの薄暗く汚れたコンクリートの壁があるだけだった。

「レイカ!起きてよ!!」
「うっ・・・・うーん」
「生きてる?」
「ん?ヨウコ・・・?ど、どうしたの?」
「よかった!大丈夫?」
「大丈夫だけど・・・ここ何処?」
「村山台駅近くの廃墟ビルだよ」
「廃墟ビル?なんでこんなところにいるの?」
「もしかして記憶消されたとか?学校終わった帰りにあんたがこの場所の話をしたんじゃん。わすれたの?」
「記憶消されたってか・・・・え!?なんでヨウコがいるの!?」

レイカは突然何かハット気づいたみたいで、まるで幽霊でも見たかのように怯えだし、ヨウコの手を振りほどくとササッと後ずさりした。

「な、なに?どうしたの?」
「だって死んだ・・・はずでしょ?」
「えっ?死んだはずってどういうこと?」
「だってあの日、ヨウコたち家族はみんなで新宿に出かけてたって・・・・そしてその日の午後ニ時に落ちた爆弾でみんな跡形なく死んでしまったって聞いたよ・・・」
「爆弾!?」
「だって核戦争のせいで東京まる焼けになっちゃったでしょ。核爆弾の一発が新宿に落ちて・・・も、も、もしかして死んだことも気付かないで幽霊になっちゃったの?・・・・本当にゴメン・・・・うっうっうぅ・・・・私なにも出来ないし・・・」
「ちょ、ちょ、ちょっとまってよ!私生きてるから!!」
「えっ?もしかしてどこか安全なところに隠れてたの!?」
「いやちょっとそれも違うんだけどさ。えーとなんて言ったらいいか・・・てか一応核戦争が起きたって話は私も知ってたんだけど、今の話だと核爆弾が新宿に落とされたってこと?それで東京都民どうなったの?」
「23区全部ほとんどの人たち燃えて亡くなったよ。黒い炭になっちゃって聞いたよ・・・・落ちる前に頑丈な建物にいたり、地下鉄大江戸線みたいな地下深くに逃げて助かった人もけっこう居たらしいけど、外は放射能がきついし食料や水が放射能でダメになってしまってるから、けっきょく少数の人たちしか生きらないて聞いたよ・・・」
「マジで起きちゃったのか・・・ってあれ?・・・あのさぁレイカ覚えてる? 杖を持った白ヒゲ白髪のいかつい顔した老人て言って」
「え?誰?」
「理屈で論破最強みたいな、すげぇ嫌な感じの話し方する老人でさぁ、あんたもそいつに騙されて核戦争後の世界に行っちゃったでしょ?」
「いったい何のこと言ってるかよくわかんないんだけど、なんかそれって異世界転生アニメの中盤辺りにでてくr悪役みたいな奴だね。それヨウコ冗談で言ってるよね・・・?」
「やっぱり知らない?」
「うん、そんなおやじ知らんて」
「ってことはもしかしてこれレイカ違いなんじゃあ・・・?」
「ん?なんのこと??」

レイカはちんぷんかんぷんといった様子でその場でまごついていたが、そのうち自分の近くに全裸の若者二人が倒れている姿に気づいて、更にびっくりしたようだ。あたふたしながらもそっちに駆け寄って行って彼らの様子を覗い始めた。


ヨウコのほうは、何か重大なことに気づいたみたいで、すっと立ち上がると、ひとつ残って空中に浮いている黒い球へと近づいていった。

「ねぇちょっと話しできる?」
「Booooom....Booooom.... Booooom....」
黒い球はあいかわらず低周波の振動を鳴らしながら、静止画のように滞空している。
「ちょっと黙ってないでさぁ、話がちょっと違うんだけど! レイカはレイカだけど、別レイカじゃないの?」
すると黒い球は振動音を変化させると共に、光沢ある綺麗な球面に波紋が立ち始めそれがいびつに歪み始めて、だんだんそれはなにかの形状に整っていって最終的には表面に浮かび上がる黒い耳と口になった。
「はい聞こえています。どうやら人違いだったようですねぇ・・・。ヨグ=ソトース、つまりこの黒色球形有機体の呼び名ですが、判別を誤って元々その世界に居るべき方のレイカさんを連れてきてしまったようです」

「だよね! やっぱそうだよね!間違った人を連れて行くのはまずいんじゃないの?」
「おっしゃる通りです。しかしヨグソトースには二人のレイカさんの違いを見分けることが出来ないようです。いやぁ困りましたね、、、」
「何とかして!元いたレイカを救ってもらわないとこっちが困りますって!!」
「ふーむ・・・そうですねぇ・・・それじゃこうしましょう。そのクロネコに特殊な能力を付与します。その力によってあなたは猫のコタローと共に、次元を隔てた核戦争後の世界にも行くことが出来るようになるでしょう」
「猫にそんなことが出来んの?」

と言ってヨウコは僕の方を見た。


僕にそんな事出来るわけ無いのだが・・・。

「はい、しかもその猫はなんの因果か蓋然的素質を持っていて、どうやら人間の話を理解できるようです。改造ついでに話も出来るようにしてやりましょう。それでは・・・・ウムラウトウラヤヴィウラカ・・・」
謎の文言を呟きはじめた耳と口の付いた不気味な黒い球は僕の方に近づいて来ると、黒い口の中から黒い触手が生え出て来てそれは僕の体を絡めとった。なぜか気色悪いその手を避ける気にならず受け入れてしまった触手が喉をさすり、背中の毛並みを試すようしながら全身に触れていった。僕が成すがママにしているといままで感じたことのない不思議な感覚を覚えそれは一瞬で全身を駆け抜けていった。視界が一回白く明滅して、視力が回復しても別に何が変わったのかわらなかった。何か新たな力が身についたのだろうか・・・。
「ちょっとあんたの頭に何かついてる!!」
「え?僕が?どうなったって?」
「ちょっすごっ!」
「え?猫が喋った!?」
「僕話せてる!?話せるようになったの?」
「すご!あんたの言葉ちゃんと聞こえてるよ!しかもサイバーパンクみたいな頭になってるよ!フハハッ」
「これでその猫の猫丸が必要な道へと導き連れて行ってくれるでしょう。向こうの世界で目的であるレイカくんを見つけて来るのです。そして今ここにいるレイカくんも元の世界に帰すために連れて行ってやってください」
「わかった!でもどうやってレイカを見つけるわけ?」
「手法はとやかく私が言葉にせずとも、覚醒した猫の猫丸君が共に行けば必ず見つけられるでしょう」
「でも、レイカを連れて帰れたとしても、ここにいるレイカはどうなるの?そんな酷い世界で生き続けないといけないの?」
「ん?・・・私って二人いるの?それってもしかしてドッペルなんとかってやつ!」
レイカは黒い球とヨウコを交互に見て実際に起きてるこの状況をちゃんと飲み込めない様子だった。
「その世界で起きてしまった核戦争をなかったことには出来ません。しかし君が言った後にそこで何かをしてやりたいと思うならべつにそれを私は止めません。そのへんはあなたと猫くんにまかせます。私は基本観測するだけで関与しませんから」
「わかったよ。それじゃ行くしか無いね・・・」
ヨウコは僕の方をみてそう言って、僕はそれに黙って頷いた。
「どうなるってんの!?変えるとか変えられないとか・・・この世界はやっぱり異世界ってこと?てことは異世界ヨウコ!?」
「うん、そんな感じ」
「え!?わたしガチで異世界転生してるってこと?ヤバ!!」
「私はあんたの知ってるヨウコとは違う別の世界のヨウコ」
「まさか本当にそんなことが起きるなんて信じられないけど・・・・であの裸の二人は誰なの?」
「あれはさ・・・まぁほっておいていいよ。あのまま丸出しで起きられても困るでしょ?」
「ま、まぁそうだね。なんかよくわかんないけど・・・」
「よし!それじゃ行こうか。準備はOK?」
「まぁ僕はいつでもいいけど、黒い球の人は?」
「私はことはお構いなく。君たちの決めるままに行ってください」
「あっ!そう言えば、キー&ウッシーの服と持ち物が壁の向こうの世界に落ちたままだよね?それだけでも二人に返してやってよね」
「あぁそう言えば忘れていたねぇフフフッ。この後すぐ回収して彼らに返しておきますので、ご心配なく」
「それじゃお願い!レイカも準備OK?」
「う、うん・・・・なんかもう少しここに居てみたい気もするけどね」
「まぁそりゃそっかぁ・・・核戦争後の世界なんてやだよね。そんな中でもなんとか生きる方法を一緒に見つけようよ。私も手伝うから」

「わかった、ありがとう。なんか違う世界のヨウコっていってもヨウコはヨウコなんだね」
「その言い方褒めてんのかようわからんけど、まぁいいや!それじゃ行くぞ!!」

と言ってヨウコは強い意志が込められた目で僕を見た。


僕は特に何も教えられてるわけでもないのに、目がぐるぐる回るような感覚の後に、頭の芯に激しい光が駆け巡りまばゆい謎の光景が明滅した後気づくと僕は空を飛んでいた。

それは核戦争後の世界での廃墟ビル上空であって、僕のの脳内に映し出されたビジョンとして鮮明に浮かび上がった。爆心地の新宿から30キロ離れたその場所も被曝していたが、ビルのコンクリート構成はなんとか保たれていた。そのビジョンはぐんぐんビルに接近していってやがれ傷だらけのビル外壁をズームアップにした。そしてビジョンは壁を突き抜け五階内部のメインフロアにアングルが変更された。どうやら僕の新たな能力は、僕自身の意思や動作に関係なくオートマティックにその世界へと導くようだ。このあとどうなるのだろう?ヨウコやレイカはついてこれるのだろうか?

だけど、その後の話はまた別の編にて・・・・。

天国と地獄編 End
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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

コタロー。村山台の地域猫でナレーションができる猫である。

君島キリト。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はキー坊。ディレクションかつカメラ担当。映像クリエイーターを目指しエンタメ系の専門学校にかよっているなか、高校時代の友人だった牛山シオンと組んで動画配信を始めた。YouTube登録者数17万人のチャンネルを運営していて、視聴者の投稿を頼りに全国の有名廃墟や、未発掘のいわく付き物件を探しては遠征している。

牛山シオン。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はウッシー。MC担当。テンションの高さとフィジカルの強さが自慢。ピザ屋の配達と引っ越し業で鍛えた体で各地の危険な場所にも前のめりに潜入する肉体派。YouTuberとして有名になった後でも、引越センターに頼りにされおり、筋トレ代わりに引っ越し業でこなしている。

廃墟ビル五階に現れた杖を持つ老人。自称ビルオーナーと名乗るが正体不明の老紳士。

囚われている謎の少女

正体不明の声

ユカと呼ばれる謎のメイド少女。

この辺りのボス猫で結構な年齢のオス猫。名前は助蔵。コタローの後見人的な存在でもある。

謎の種族。

逃げるネズミA

逃げるネズミB

黒い球体

耳と目の球

スーパーコタロー。

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