第4話

文字数 1,742文字

ヨウコが先に立って玄関を覆うベニアを脇に寄せて隙間を作った。その隙間を中へ入り込むと、その後に続いてレイカもくぐり抜けた。

廃墟になってどれくらい経ったのか、ビルの中に人間の匂いはしない。当然電気は止まっている。窓の外からまばらに光が差し込んでいるが基本的に暗い。猫は十分でも人間は自分の足元もよく見えないだろう。

最近降った長雨で何処かに雨水がたまっているのか、落ちた水滴が床を叩くような音が建物の上のほうから反響して聞こえてくる。



玄関スペースから先に延びる廊下に進みでたヨウコは、自分のスマホを取り出すとライトを点灯して辺りを照らした。


その明りが照らす先の床の上に、古いブラウン管のディスプレイ、錆びついた業務用の什器うあ金属製椅子、それに普通の家庭にあるような電子レンジや電化製品に乱暴に置かれていた。誰かが捨て置いたのだろうけど、その他にも元のフォルムを失った廃墟にふさわしい劣化した物体たちが様々無造作に床にぶちまけられていて、それらはところどころ湿っていて黒光りしていた。


ライトを床から上に向けると、天井の石膏ボードはところどころ朽ち落ちていて、その奥の暗闇の中に電気配線や水道管がむき出しになっているのが見えた。

「やっぱり入るのはまずくない・・・?」

「今さら何いってんの?レイカが先に興味もったんでしょ?」



「そ、そうだけど・・・やっぱヤバい気がして」
「もう入っちゃったんだから、スマホカメラで動画でも撮っておけば?」
「動画?・・・痛たっ!何かの角にぶつけた!!」
「カメラの前にスマホのライトつけなよ。たぶん転がってるガラクタ誰かが持ち込んだ廃棄物だよ。こういうのって、誰かひとりやると他大勢がゴミ置き場とだと思い始めるんだよね」
「うん・・・そうする」
そして二人は床の瓦礫郡に気をつけながら先へと進んでいった。廊下の先に行くと大きな空間が広がっていた。
「ここがメインのテナントスペースかな?外から見た感じよりより中は広いね」
「うんうん、昔は結構繁盛してらしよ。一階は花屋だったって叔母さんが言ってた」
「そっかぁここ花屋さんだったんだ。でも今はもう面影なし・・・。上の階には会社とかそういうの入ってたのかな?」
「うん、いろいろ入ってたみたい。企画会社とかパソコン関係とかあと託児所あったって聞いたけど」
「レイカ詳しいじゃん。ちゃんと事前リサーチしてたんだね」
「親戚に会ったときついでに聞いたんだ。「村山台駅の駅のホームで電車待ってると正面に古い雑居ビルの廃墟あるんですけど知ってます?」みたいな感じで」
「まあ確かに廃墟って悪目立ちするよね」
「そうそう、どんどん劣化して見た目どんどんヤバくなっていくし!本当に出てきてもおかしくないよ」
「何が?」
「何がって幽霊に決まってるでしょ! てかヨウコは怖くないの?」
「まぁたしかに暗いし陰気だし湿っぽいし怖いっちゃ怖いけど、逆に私ってこういうところワクワクするのかも」
「ワクワクって・・・」
「それに入ってみれば案外ここそこまで危なく無いみたいだしさ。建物の作り自体まだぜんぜん大丈夫ぽいよ」
「いやいや私が言ってるのはそういう意味の怖さじゃなくて〜! ヨウコも見たでしょ!? さっきのYouTube動画の中に出てきたあの老人、ガチで気狂ってさぁまだこの廃墟の何処かに隠れているかもしれないじゃない? ホームレスって可能性もあるし」
「ホームレスねえ・・・ワンチャンありえなくはないけど、私たちはただ確かめに来ただけだから。五階まで行ってみて万が一何かあったらすぐにダッシュで逃げるよ。なんか遭ったらそのときは警察呼べばいいしさ」

「たしかに相手は老人だし、こっちが本気で走ったら追ってこれないか・・・」
「そうそう心配いらないってば。あとこの角の右側に階段あるよ。これを上って行けば五階まで行けるんじゃないかな」
「いやヨウコあっち見てよ。廊下の突き当りの扉、エレベーターじゃない? でも電気通ってないから動かないか・・・?」
「電気通ったとしてもどうせ壊れるって!階段で行こう」
「うん・・・足元注意してね」
そして少女二人は、互いのスマートフォンのライトを点けながらお互いの足元を照らしつつ、階段を一段一段慎重に上がりながら廃墟の奥へと歩みを進めた。
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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

コタロー。村山台の地域猫でナレーションができる猫である。

君島キリト。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はキー坊。ディレクションかつカメラ担当。映像クリエイーターを目指しエンタメ系の専門学校にかよっているなか、高校時代の友人だった牛山シオンと組んで動画配信を始めた。YouTube登録者数17万人のチャンネルを運営していて、視聴者の投稿を頼りに全国の有名廃墟や、未発掘のいわく付き物件を探しては遠征している。

牛山シオン。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はウッシー。MC担当。テンションの高さとフィジカルの強さが自慢。ピザ屋の配達と引っ越し業で鍛えた体で各地の危険な場所にも前のめりに潜入する肉体派。YouTuberとして有名になった後でも、引越センターに頼りにされおり、筋トレ代わりに引っ越し業でこなしている。

廃墟ビル五階に現れた杖を持つ老人。自称ビルオーナーと名乗るが正体不明の老紳士。

囚われている謎の少女

正体不明の声

ユカと呼ばれる謎のメイド少女。

この辺りのボス猫で結構な年齢のオス猫。名前は助蔵。コタローの後見人的な存在でもある。

謎の種族。

逃げるネズミA

逃げるネズミB

黒い球体

耳と目の球

スーパーコタロー。

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