第4話
文字数 1,742文字
廃墟になってどれくらい経ったのか、ビルの中に人間の匂いはしない。当然電気は止まっている。窓の外からまばらに光が差し込んでいるが基本的に暗い。猫は十分でも人間は自分の足元もよく見えないだろう。
最近降った長雨で何処かに雨水がたまっているのか、落ちた水滴が床を叩くような音が建物の上のほうから反響して聞こえてくる。
玄関スペースから先に延びる廊下に進みでたヨウコは、自分のスマホを取り出すとライトを点灯して辺りを照らした。
その明りが照らす先の床の上に、古いブラウン管のディスプレイ、錆びついた業務用の什器うあ金属製椅子、それに普通の家庭にあるような電子レンジや電化製品に乱暴に置かれていた。誰かが捨て置いたのだろうけど、その他にも元のフォルムを失った廃墟にふさわしい劣化した物体たちが様々無造作に床にぶちまけられていて、それらはところどころ湿っていて黒光りしていた。
ライトを床から上に向けると、天井の石膏ボードはところどころ朽ち落ちていて、その奥の暗闇の中に電気配線や水道管がむき出しになっているのが見えた。