第13話

文字数 1,656文字

私はまだ廃墟にいた。


五階の問題の壁を調べていた。人間の若者二人がまるで幽霊みたいに体がすり抜け向こう側に消えていった辺りの壁を手で押したりしてみたけど、ただの堅い壁に過ぎなかった。一体どうやって彼らは抜けていったのだろうか?人間が壁をすり抜ける技を身につけたのか?いやそんなバカな・・・。


そういえば猫丸が言ってた、この廃墟に複数の人間が出入りして、変な事起きているって話はつまりこういうことをいっていたのか!?

そして私は再び誰かがその壁をすり抜け戻ってくるとか起こることを期待して、しばらくその大きな部屋に残って様子を見ていたが、それはまったくの時間の無駄だった。


結局その後何も起きないまま、外はすっかり夜の帳が降りてきて真っ暗くなってしまったし、つまらぬ時を過ごしてしまった、と思っていた時だった。

五階から離れようとしていると、背後で何かが動く気配を感じた。その小さな気配は猫にとって馴染みのある種類の動きで、振り返ると思った通りそれは一匹のドブネズミだった。そいつもちょうど私に気づいて、その場で恐怖に硬直したように固まっていた。

そいつの後ろの壁に小さな穴が開いていて、ちょうどそこからまた別のネズミが走り出てきやがった。なんというこだろう!こんなところで一度に二度おいしい幸運をいただくとは思わなかった!!

瞬間的に私は捕食者としての本能に動かされて、腰を低くしながらしずしずとネズミとの距離を詰めていった。

「キュッキュッキュ!」

「キィーキィー!」
ネズミは小さくも大きな悲鳴を上げると、仲良く二匹揃って壁際に沿って走り始めた。私もその後を追って猛然とダッシュを仕掛けた。私はあっという間に距離を詰めて、捕獲の間合いに入り、ネズミも捕獲されまいと本気の走りを見せながら、不意に急にブレーキをかけた。私も反射的に足を止めたが、ネズミどもも若く素早いフェイントを使いながら進路を小刻みに変えて逃げ続ける!狭い空間に逃げられる前に仕留めなければ!私は焦る気持ちを抑えながら、ネズミたちの動きを先読みしてしんがりを走るネズミに噛み付いた。芯を食っては居なかったがガブリを噛み付いて、歯を食い込ませながらもまだ殺しはしない。私は久しぶりにネズミを仕留められたことににその場でニンマリしていると、その油断を付かれたのか後ろ足の端っこの指に強烈な痛みが覚えた。

見ると、残り一匹のネズミが噛み付いていてそいつの鼻にはなぜか一筋の血が滲んでいた。鼻血を出してるネズ公が生意気に私の足にかじりついたのだ。私は怒りと共に思わずあんぐり口を開けてしまい捉えていたネズミは九死に一生を得たと一目散に再び駈け出した。

私は遊びをやめて今度は完全に殺すつもりで追い込みを開始した。私の殺気を察知してか彼らの動きも研ぎ澄まされ神がかった動きで私の手から逃れる。しかし徐々に部屋の一角の隅に追い詰めていき、彼らの逃げ場はなくなっていた。さてどちらか一方は確実に仕留めてやれ!と私はそう決心して跳びかかろうとしたその時、ネズミどもと私の間に信じられないものがまた現れたのだった。
「ᚠᚡᚢᚣᚤᚥᚦᚧᚨᚩᚠᚡᚢᚣᚤ」
そいつは黒い玉のような物体で宙に浮きながらまったく意味不明な何か音の羅列のようなものを発し終わると、夜に強いはずの猫目でも適わない暗闇に覆われたように私はやられた。完全にブラックアウトしてしまい本当にまったく何が起きたのかわからなくなってしまった。そのあと少してすぐに通常の視界が戻ったが、そこにはもう謎の黒い玉もネズミ二匹もいなくなっていた。

 いったい何がどうなっていやがる!?私は完全に肝を冷やしてとにかく一刻も早くここを立ち去ろうと思って駈け出した。必死をこいで走り続けながら、もうどこをどうやって逃げたかも覚えていないほどぶっ飛んだ早さで逃げた。そして地上に戻ると外の一階付近の路上から黒くそびえる不気味なこの建物を仰ぎ見て、「もう二度と訪れはしまい」と私は己の肝に銘じてその場を離れたのだった。


To be continued.

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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

コタロー。村山台の地域猫でナレーションができる猫である。

君島キリト。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はキー坊。ディレクションかつカメラ担当。映像クリエイーターを目指しエンタメ系の専門学校にかよっているなか、高校時代の友人だった牛山シオンと組んで動画配信を始めた。YouTube登録者数17万人のチャンネルを運営していて、視聴者の投稿を頼りに全国の有名廃墟や、未発掘のいわく付き物件を探しては遠征している。

牛山シオン。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はウッシー。MC担当。テンションの高さとフィジカルの強さが自慢。ピザ屋の配達と引っ越し業で鍛えた体で各地の危険な場所にも前のめりに潜入する肉体派。YouTuberとして有名になった後でも、引越センターに頼りにされおり、筋トレ代わりに引っ越し業でこなしている。

廃墟ビル五階に現れた杖を持つ老人。自称ビルオーナーと名乗るが正体不明の老紳士。

囚われている謎の少女

正体不明の声

ユカと呼ばれる謎のメイド少女。

この辺りのボス猫で結構な年齢のオス猫。名前は助蔵。コタローの後見人的な存在でもある。

謎の種族。

逃げるネズミA

逃げるネズミB

黒い球体

耳と目の球

スーパーコタロー。

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