第1話

文字数 3,862文字

そのとき僕は武蔵野郊外の路上で日課のコースをパトロールしていた。そのすぐ横を乱暴な運転のクルマが通過して行った。その風圧をもろに受けた僕は不覚にもビビってしまったのだった。


意図せず尻尾が天を向きながら一瞬固まっていたらしい。一歩間違えたらお陀仏だったと思いながら、改めてその暴走を目で追って消え行く姿を睨みつけていると、道路を挟んで反対側の歩道を歩く制服を着た少女二人組がおしゃべりいている姿に気づいた。あの色と柄はたしか雛城高校の生徒で、村山台駅へ向かって下校中なのだろう。


彼女たちは、しばらくそのまま道なりに歩いて行くと、道路沿いにある喫茶店に入っていった。


僕はゆっくりと油断なく後をついて行って、喫茶店の前てま立ち止まって、背なかをくーっとひと伸びしてから店内を見上げてみると、あの少女らはガラス越しのテープルに着いて外の方を向きながら、おしゃべりの続きを始めた。

「ヨウコ最近ドラマとか見てる?」
「 私は割とラブコメとか好きかな。レイカ最近見たのでなんか面白いのあった?」
「うん!ちょうど今あたし、ネトブリで見てるんだけど恋する”メンヘラキャンパス”っていうの知ってる?」
「 中身は知らないけど、確かに細菌はやってるらしいよね。でもタイトルからして学園ラブコメみたいな感じ?」
「そうそう!主人公がちょっとメンヘラで、富等井セイラちゃんていうんだけど、彼女が大学サークルの先輩に密かに恋をするんだ。彼女はちょっと陰キャに夢見系はいっててツンデレぽいところもあるんだけど、メンヘラだからストレートに伝えても付かず離れずって感じで。そんな感じで主人公のセイラはつかず離れずを続けて、一方イケメン先輩は心配症だから、彼女の策にハマるようにどっちかって言うと先輩の方がドハマりしちゃうのよ。それでサークルの他の人たちを二人の恋のすれ違いに巻き込むわけ。でも先輩の心配も全部無意味で、主人公の彼女はメンヘラこじらして鍵付の精神病院に入院したらしいと噂を聞きつけて、面会に行った先輩は彼女が入院していたのは確かだったんだけど、もうそこにいなくて失踪してしまったと聞かされて、その場で我を忘れて泣き崩れちゃうの。その後のエピソードしばらく主人公不在なわけよ。もうハチャメチャな展開だけどさ、周りを固める脇役やモブが光っててさ、そっちのほうがキャラ立ちしちゃってるんだよね。名作に迷惑役ありとか言うでしょ?そのメンヘラ主人公が失踪しちゃった次の回なんてまるまる一話主役不在でさ、スピンオフでもないのにそれで通し切ったからね。私キモオタ瓶底メガネ役の一颯隻之丞くんのファンになっちゃつたもん。話し長くなっちゃったけど、総合的にはミステリ要素もあるラブコメって感じかな?」
「たしかそれ「花子と俊雄」で連載中の漫画だよね。それ原作クラッシャーて云う以前にシナリオ崩壊してる気がするけど…。でもなんかその壊れっぷりは逆に興味出てきた。でその、お目当ての先輩ってどんな人なの?」
「先輩は超イケメンで優しくて面白くて完璧な人なんだけど、実は隠してる秘密があってさ」
 「秘密? 」
「そうそう劇中の秘匿設定なんだわ」
「なに秘匿って?」
「ええー?それ言ったらネタバレになっちゃうから言えないよ~」
「教えてよ!気になるじゃん」
「だめだめ!自分で見なって」
 「わかった見るからさー、せめてヒントくらいいいでしょ?」
 「うーん、ヒントかぁ。じゃあ、ひとつだけ教えてあげる…。あのね、先輩の家族が実は国家機密を抱える訳アリの家庭なんたまや」
「国家機密?それはもしかして、その先輩の兄弟が裏社会のフィクサーで、つまり外事警察の汚れ仕事をしてる掃除屋で、先輩は隠密に国の安全保障に関わっている兄の手伝いをしていて、兄は日々外国からのスパイを抹殺して死体がつきつぎ先輩の家に運ばれてきて、先輩は夜な夜なしたい処理を引き受けているとか?」
「な、なんかそれ凄いね。その想像力どっからくるんだよ。でももこれ以上あたし言わないよ〜自分でドラマ見て、答え合わせしてよね~」
 「もうやだ!気になるわ。まあ今日帰ったらすぐにても探してみるかな」
「ちょうど今日は木曜日だから、新エピソード更新だよ!」
「よし!それじゃ私もお母さんのアカウントで見せてもらうかな」
「ところでさぁ今日は数学テストあったじゃん。ヨウコはどうだった?」
「そこそこかな。でもあの素因数分解はマジで死ぬほど難しかったよね。あんなクソ長い数式は多分一回死んで生まれ変わらない限り無理だよ」
「うん、私もわからなかった。後で何人か聞いたけどあの問題は誰も解けなかったんじゃないかな?」
「え、マジで?数学の際田って共感性欠如だし、ディヒカリティセンスも狂ってるじゃん。あれは生徒に嫌われるタイプだわ」
「たしかにそうかも。でもその分採点は甘くしてくれんじゃないの?」

「あんたは楽観てか甘すぎるよ。あいつの目鼻立ちは間違いなく人の心がわからない典型的なサイコパスっ気質だよ」


「それはヨウコ言い過ぎてか決めつけは良くないよ。そういえばサイコパスで思い出した!村山台駅の近くにある廃墟ビルってわかる?」
「え?廃墟なんてあった?」
「この噂はねバスケ部のミカリンから聞いた話なんだけど、村山台駅のホームから真正面に見える古いビルがあるのわかる?あれ昭和の建物らしいんだけど、もうかなり長い間放置されてるでしょ?あそこの噂で、夜中に誰もいないはずのビルの中から女の子が助けを呼ぶ声が聞こえてくるっていうんだよね…」
「村山台なんか毎日使ってる駅だよ。都心から往き来する利用者も多いし廃墟だからって都市部で出るとかあり得んて。古い廃墟見れば脊髄反射で出るんだ!っとかすぐ無責任に言う奴いるよね。困ったもんだよ」
「いやいやヨウコ、村山台駅ってさ実は昔から心霊系の噂が絶えないんだって。でも今回は駅じゃなくて廃墟ビルについての噂がなんだけどね。そこで昔事件にあった女性が助けを呼ぶ声が実際に録音されたり、動画に映ったりしてるんだって」
「ほんとかな~?…でもたしかに嫌だな思った事件あった記憶があるなぁ。ちょっとなんだったか思い出せないけど…。でもそれって本物なの?録音っていうけど、いまスマホアプリとかで音声加工とか簡単に出来るでょ?」
「たしかにそういう細工みたいな可能性もあるけど、ネットに上がってるものを見ると、結構リアルなんだってば。『殺人鬼に無残に殺された女の子の声が!!』みたいなこれとかさぁ」
「 これって何?YouTubeの動画?」
「うん。怪異SEEKER!Keye(キー)&UCCy(ウッシッシー)っていう配信者なんだけどね。日本全国にある廃墟探索とかオカルト調査とか勢力的にやってるんだよ」
「で、その廃墟ビルディングにその人たちが行ったわけ?」
「そうそう。そうなんだけど、ちょっと待って…。うーんとね……これ! この動画の後編を見てみて!夜中にそのビルに侵入して中で探索してる動画なんだけど・・・・」
「…うわっ!ガチ廃墟じゃん。夜中はさすがにえぐいな…」
「まぁそうなんだけど、この動画の5分20秒くらいから、奥の部屋に進む途中にどこからか、女の子の声が聞こえてくるんだよ…」
「マジで?どれのこと…?ん!?……確かに……なんか言ってるね!」
「 でしょ!めっちゃ怖いでしょ!しかもさぁ~その後誰もいないはずなのに、一番奥の突き当たりの非常階段に抜けるドアがバタン!って突然閉まっちゃうんだよ」
「それ怖!っていいたいけど、誰かが外で開け締めしてんじゃないの?」
「いやいや!キーとウッシーが最後に外から非常階段を確認しに行くんだけど、そこには誰もいなかったんだって!」
「うーん……あとからCGいじるとか編集でごまかしたりも出来んじゃないの?」
「確かに実際はどうだかわからないけどね。一応この動画は一切加工してないって言ってるよ。録音もそのままだって」
「まぁどこまで本当かしらんし、あんまり信じられんな」

「あたしも信じたくないけどさ…これは本物だってもう一人のあたしが言ってるの!それに他にもね、この廃墟ビルを撮影した動画を、他の配信者も投稿してるみたいだでかなり噂が広まってるみたい。それがすぐそばにあるんだよ?実際に見たくない?」
「レイカ…なんかあんた目が怖いね。まぁ私はいいけど、間違ってそんな声聞いちゃったりしたら、あんた今日夜寝られなくなっちゃうんじゃないの?」
「たしかに私ってホラー耐性低いけど、オカルトの怖面白い誘惑には勝てんよ」
「まぁあんたの純粋なオカルト探究心はわかったよ。…まぁでもそろそろここはもう出よっか」
「そうだね」
そんな感じでおしゃべりを終えた彼女たち二人は、喫茶店を出て道なりにしばらく行くと、もう村山台駅の手前まで来た。

目の前の四ツ辻をこのままを直進すると駅入り口。右手に曲がって少し歩いた右手に、噂の廃墟のビルディングがあるはずだ。
「せっかくだからちょっとだけ見に行っちゃおうか?」
「えっ・・・なになに?なーんだヨウコもやっぱ結局興味あるんじゃん」
「聞いちゃったからには実物をこの目で見てやってもいいかなって思ってさ・・・・で、その廃墟ビルってたしかこっちの方だったよね」

「うん、こっち!」

二人は四ツ辻をストレートに駅に向かわずに、なにかの引力に引気寄せられるかのように右へ曲がって廃墟ビルの方へと行ってしまった。僕もこの後どうなるかを見届けるつもりだ。


ということで


To be continued.

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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

コタロー。村山台の地域猫でナレーションができる猫である。

君島キリト。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はキー坊。ディレクションかつカメラ担当。映像クリエイーターを目指しエンタメ系の専門学校にかよっているなか、高校時代の友人だった牛山シオンと組んで動画配信を始めた。YouTube登録者数17万人のチャンネルを運営していて、視聴者の投稿を頼りに全国の有名廃墟や、未発掘のいわく付き物件を探しては遠征している。

牛山シオン。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はウッシー。MC担当。テンションの高さとフィジカルの強さが自慢。ピザ屋の配達と引っ越し業で鍛えた体で各地の危険な場所にも前のめりに潜入する肉体派。YouTuberとして有名になった後でも、引越センターに頼りにされおり、筋トレ代わりに引っ越し業でこなしている。

廃墟ビルディングの五階の部屋に突然現れた杖を突く老人。オーナーと自称しているが詳細不明な謎の老紳士。

囚われている謎の少女

正体不明の声

ユカと呼ばれる謎のメイド少女。

この辺りのボス猫で結構な年齢のオス猫。名前は助蔵。コタローの後見人的な存在でもある。

謎の種族。

逃げるネズミA

逃げるネズミB

黒い球体

耳と目の球

スーパーコタロー。

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