第11話

文字数 3,864文字

今日も油断なくゆっくりだがしっかりした足取りで歩く。吾輩の名前は助蔵。この村山台周辺ののボス猫だ。


この通りは昔は人も猫も賑を見せた商店街だったが、今は新しいビルがたちな並ぶ割に人通りがめっきり減ってしまった。最近は表通りでは野良の猫姿もまばらになったが、ひと目に隠れた場所は昔よりもことに困らない。だが人が思いもつかないようなところに安らげる場所を見つけてはひっそりと暮らしを営んでいる。


ふと人間の若者が二人、通りから奥まった方に入っていく姿が目に入った。あれはたまに儂らも立ち寄る建物だ。人に見放されて空き家になったはいビルディングの前に立ちはだかるフェンスを二人の若者はかぶれた金網を見つけてそこからすり抜けて中へと入って行く。


「あぁ〜マジでまた来ちゃったよ」
「どうしたウッシー?テンション低いじゃないか」
「そりゃだってさぁキー坊、ここは冗談抜きでヤバいってお前だってわかってるだろ?」

「ああ、わかってるさ」
「前回ここに来た時に開いてたエレベーターってさ、後からよく考えてみればあの先にあった大きな空間はビルの外壁の向こう側だぜ。つまりその向こうは空気があるだけのただの外ってことだよ。ありえないだろ?アップロードしたあとけっこう瞬発的バズり方はしたけど、結果「釣りのヤラセ動画」って云われる始末・・・・。おまけでおれのXwitterアカウントは、詳しく説明しても火に油を注いだようなもんで、今もプチ炎上しっぱなしだよ」
「だから今回は動画抜きで来てるんだよ」
「てか触らぬ神にたたりなしって言うだろ?それに触れないでいればそのうちみんな忘れるとおもうぜ。それより最近もらったフォロワーからの情報にあった、小田原の山奥にある旧華族の豪邸だった、とかいう廃墟がよくない?なんでもそこって90年代に撮影されたあるホラー映画のロケで使われた場所らしくてさ、その時の映像の中で幽霊が実際に映ってしまったっていう曰くつきなところらしいよ。いまは所有者がいない状態らしい。よっぽどそっちに行ったほうが、撮れ高があると思うんだけどなぁ」
「それは確かにそうかもしれない。だがそれは後々行くとしてさ、やっぱりこのビルは他の何にも代えがたい特別な場所だよ。あのとき五階で見てしまったものは、僕たちにとって強烈な出来事だった。あれは実際にこの目で見た、本物の超自然的現象じゃないかと思うんだ。しかしあまりに強烈で、かつ現実的だったし、なによりもまったく予想してなかったから、あの場でリアルタイムに起きてることを理解することができなかった。そして結局は、あの自称ビルのオーナーと名乗る謎の老人にペースを握られてて、結果はヒヨって逃げ帰ったわけだけど」
「まぁおれも正直ビビったよ。でもあれが幽霊とは思えないんだよね。現実にありえない存在を見たのは確かなんたけど、今もたまにあの爺さんの嫌な笑い方が、リアルに蘇ってくるんだ」
「僕もだ。あの老人の鋭い眼光と・・・・床に横たわった震える少女の姿。あの光景が脳裏から離れないんだ。俺たち3年前に、エンタメ以前に純粋に超常現象を追求したい気持ちが意気投合してこれを始めたじゃんか。だからあの現象の真偽を確かめな意限り、これから先怪異シーカーは名乗れない気がするんだよ」
「確かにそうかもな・・・。キー坊、お前の気持ちと決意の硬さはわかったよ。それじゃ、気合入れてもう一階行ってみっか」

「よし!行こう」

 二人若者は、何か決意を新たにして、廃墟ビルの中へと入っていった。


 猫丸が前に言ってた、不思議な廃墟ビルとはここのようだな。彼らはここで何をするつもりなのだろう?私は用心深く後についていくことにした。


 廃墟の中に若者たち以外に人は誰もいない。何処かに潜んでいるネズミの生臭さと、廃墟特有のホコリとかび臭い匂いが漂う以外に変わった所のない虚ろな空間だ。静まりきった空間に二人の足音の乾いた音がよく響く。私は音もなく彼らの後について切って、特になんの問題もなく五階フロアまで辿り着いた。

「ここだ。このエレベーターだよ」
「残念ながら閉まってんな。このエレベーターは壁際にあるよな。だから扉が開いていてもその先に通じる入り口なんてあるわけないんだよな・・・?」
腕組みしながら壁を見つめるウッシーが気のない声でそれに答えた。
「そりゃそうだ。あのとき見たものは、僕らの気の迷いって言ったとしても、あの映像にはこの先に広い部屋が映ってるからね」
「視聴者にあの動画は、意図的にCG加工したフェイクだって思われてる。完全に本物なんだけどな。でもいったいどう説明すればいいんだろうな」
ウッシーは両手を広げてお手上げと言った様子だ。
「偽物と言われようが、今回は映像という本物の証拠が残ってる。でもなによりも僕たち二人の自分の目を信じようぜ。何か必ずトリックがあるんじゃないかと思うんだ」
「それじゃまずはどうする?」
「一応今回はいろいろ持ってきたよ。電磁波測定器と放射能測定器そしてサーモグラフィカメラも」
「できることは全部やってみるってわけか。さすがキー坊!用意がいいな」
「壁際に赤外線カメラ・・・・よし、これで設置完了だ。ウッシーはガイガーカウンターを持ってくれ。俺は電磁波の変化を測定してみる」

「OK、まかしてくれ」
二人はそれぞれ何か機械を持ちながら、部屋の中を移動して何かを測り始めた。壁の前でも丹念に機械をかざして注意深く見ていたが、期待した感じではなかったようだ。
「特に電磁波に異常はない・・・正常だ」
「放射能も正常値だよ。サーモグラフィはどうだ?」
「残念ながら特に温度に変化はないね。外壁だからかなり冷えてるけど、通常範囲の状態だと思う」
「打つ手なしか」

「そうだね・・・・いやでもこの前見たものが心霊現象でなくて物理現象であるなら、何かトリックがあるかもしれない」
「トリック?」
「ああ、物理的なトリックなのか、または心理的に虚を突くような仕掛けなのかわからないけど、何かある気がするんだ」
「なるほどそういう意味か。うーむ、むむむ・・・・」
「エレベーターの扉やその周りの壁に何か小さな異変でもいい。何かないか?」
「いや、俺の目には・・・古びたただの壁にしか見えないなぁ」
「だね。残念ながらトリックとか特にさそうだ。みたところなんの変哲もない、人に放置されて長い時間が経過しただけの傷んだコンクリートの壁だ・・・」
「そうだなぁ・・・・キー坊言ういうとおりトリックだとして、デカイ鏡とかプロフェクトマッピングとか、そういうワードが頭に浮かんだけど、そういう装置も特に無いね」
「トリックじゃなくて、仮にあれが本物の奇跡か何かだったとしたなら、何か痕跡の残されているかもしれない」
「痕跡?」
「ああ例えば、奇跡といえばキリスト教の聖書に出てくる奇蹟だけど、必ず印やスティグマとか云われる烙印があったりするんだ。だからこの壁にも何かあるかもしれないと思って」
「なるほど痕跡かぁ。さすがキー坊は俺と違って、いろいろとものを知ってるな」
と言うウッシーは膝を床に付いて、四つん這いの姿勢になって床や扉の下部をじっくりと眼を近づけて観察し始めた。


そしてしばらくいろいろ試しているうちに、右手の掌を壁に手を当てながらウッシーは異変に気づいた。

「あれ!?おい!これを見てくれ」

「どうしたウッシー?」
「あれ?・・・・おかしいな」
「どうした?」

「いや・・・・いま俺の手が扉を突き抜けた気がしたんだよ。でも気のせいなのかな?やっぱり壁が立ちふさがってるだけだ」
「どれどれ・・・・この辺りか?」
キーも膝まづいて、その手を扉に当てた。
「そう!その辺りだ」
 言われた場所に左手を付いたキーも、エレベーター扉から本来押し返される反作用の反発力を感じることなく、一瞬自分の手がするりとまるで吸い込まれるような感覚に陥った。
「すり抜けた!だけどすぐに壁の感触戻ってきて、押し戻された感じだ」
「だよな!一瞬すり抜けただろ?」
「ああ、だがどういうわけだ?」
「よくわからないけど、信念は鉄の扉すらも突き抜けるってことじゃないのか!?」
「そんなバカなことがあるわけ・・・。だがもしこの前見たあれが超常現象だったすれば、ウッシーの言うとおり念ずれば花開くみたいな、見えざる扉も開かれる、みたいなこともワンチャンあり得るかもしれない。!よし、それじゃ今度はさ、二人同時に手をおいて押してみないか?」

「OK!」

二人は息を合わせるように協調しながら両の手を壁に手をおいて、4つの手で扉を開けるように体重を乗せて押していった。するとどういうわけか、彼らの体は扉の中へ吸い込まれるようにその反対側へと消えていってしまった!


そしてわしの役目はここまでのようだ・・・・。

「うわあぁぁ!!」
「んだあっ!?」

 二人の若者が、まるで幽霊のように分厚い白壁をぬるっと通り抜けて、こっちの世界に姿を現した。


 彼ら自身、自分の身に起きたことがしばらく理解出来ないといった様子で、呆然とその場に立ち尽くしていた。その後この部屋の状況を確認しているうちに、部屋の反対側に見覚えのある姿、杖を持つ白髪頭の老人がいることがわかると、なぜか彼らはすこしホッとしているようだった。

「ヴァ、バカな!・・・・どうして君たちがここに!?」

招かざる侵入者を見て、老人は似合わない素っ頓狂な声を上げた。その若者たちの顔に見覚えがあるようで、動揺が隠せないのか、つえを持つ老人の手は少し震えていた。


To be continued.

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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

コタロー。村山台の地域猫でナレーションができる猫である。

君島キリト。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はキー坊。ディレクションかつカメラ担当。映像クリエイーターを目指しエンタメ系の専門学校にかよっているなか、高校時代の友人だった牛山シオンと組んで動画配信を始めた。YouTube登録者数17万人のチャンネルを運営していて、視聴者の投稿を頼りに全国の有名廃墟や、未発掘のいわく付き物件を探しては遠征している。

牛山シオン。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はウッシー。MC担当。テンションの高さとフィジカルの強さが自慢。ピザ屋の配達と引っ越し業で鍛えた体で各地の危険な場所にも前のめりに潜入する肉体派。YouTuberとして有名になった後でも、引越センターに頼りにされおり、筋トレ代わりに引っ越し業でこなしている。

廃墟ビル五階に現れた杖を持つ老人。自称ビルオーナーと名乗るが正体不明の老紳士。

囚われている謎の少女

正体不明の声

ユカと呼ばれる謎のメイド少女。

この辺りのボス猫で結構な年齢のオス猫。名前は助蔵。コタローの後見人的な存在でもある。

謎の種族。

逃げるネズミA

逃げるネズミB

黒い球体

耳と目の球

スーパーコタロー。

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