第48話

文字数 1,233文字

 ……道ができた。

 お寺に通わせて貰えることになった。この気持ちをどう表現したらいいか分からず、僕は家に帰り、夢の中でも通った仏教の専門書店に向かっていた。

 人生のレールから脱線してしまったけれど、こうして僕にも無事に道が見えた。

 無事、師僧を見つけれた訳だけれど、何故かなかなか実感が湧かない。

 やっと念願だった、出家の道が見えて来たというのに。

 専門書店に着いた。お爺ちゃんはまだ元気でいるだろうか?

「いらっしゃいませ」

 別な店員だった。あのお爺ちゃんはどうしたのだろうか……。

「あ、あの」

「はい?」

「あの……お爺さんはどうなされたのですか?」

 店員はお爺さんと聞くと少し怪訝そうな顔を僕に見せたが、ああ……と何かに気づいた様でこう答えてくれた。

「亡くなりました、今は孫の私が店の跡を継いでやっているんですよ」

 亡くなった……。

「ああ、そうですか。すみません、急に失礼な事を聞いてしまって……」

「ああ、大丈夫ですよ」

「本、お買い求めになりますか?」

「あ、はい」

 ああ、本当に諸行は無常だと思う。こうやって時代が変われば、あらゆるものは移り変わっていくんだ……。雲の様に同じ形を留めることなく。

 小さい頃からずっとこの本屋にお世話になっていて、あの元気だったお爺ちゃんが居なくなってしまった。

 僕は店を出ようかとも思ったが、せめてお爺ちゃんが大好きだった本だけは買っていこうと思った。

 すると、不意に不思議な感覚に襲われた。

 僕の身に驚くべき出来事が起こる。

 ……この本は。

「タイムリープして未来に現れるとされる弥勒菩薩」

 夢で見たのと同じ本? まさか。

 こんな事がある訳がない。

 果たして僕はまだ夢を見続けているのだろうか?

「……この本、買います」

 僕はそそくさとレジで会計を済まし、外に出た。

 家に帰り、机に座り本を開く。

「間違いない」

「……夢で見たのと同じ内容だ」

 あれは夢ではなかった?

 もしかしたら、あの観音様と修行した日々は現実に起こった出来事だったのだろうか。

 僕は、まだ開いてなかった項目を開いた。

 ……。

 最終章〜修行を終えた弥勒菩薩、マイトレーアはタイムリープした世界から無事に現代に戻り、自分が転生した事が夢でなかった事に気づく。タイムリープマシンが旧知の友のお寺にある事が分かった弥勒菩薩は未来へと転生する。巻き戻した時代と同じ年数だけ……。

 ……。

 そういう事か、ははははは。

 そうか、僕はまだ夢を見ていたんだ。

 本で見たことがある。

 夢から目覚めていたと思っていたらまだ同じ夢を見続けている……多重夢というものだ。

 あなたがまだ現実で受け入れたくない何かがある時に見る夢であるらしい。

 今度は……僕は未来へ行かなくてはいけないのか? やり残した事をやる為に……。

「タイムリープマシンが……あの腕時計が師僧のお寺にある……」

 確か夢の中ではお釈迦さまの仏像の前で置いて来ていたんだ。

「多分、そこにあるんだ」

 僕は駆け足で宗泉寺まで急いだ。
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