第５話

　新しい朝が僕を迎えてくれる。何かとても、清々しい気持ちだ。

　お母さんの手作りの朝食を食べる。

　そうそう、懐かしいな。こんな味だったっけ。

　そして、僕は学校に行くための準備をした。

　玄関のドアを開けると、眩しい日光が体中を包む。

　久しぶりの通学路を歩いた。

　学校は新学期が始まろうとしていた。

　ダイヤルのメモリの目算は当てることができた。

　そのタイムリープは成功して、見事に中学三年生の十四歳から開始されていた。

　しばらく歩くとクラスメイトに遭遇した。やはりと言うべきか、何というか。

　僕の顔を見て笑ってくるのである。ふん、今に見てろ、僕はこれから凄いことをやってやるのだから。

　徒歩二十分のところに学校はある、僕のことを色々な花や緑の木々が迎えてくれた。

　懐かしい景色を通ると学校の校舎が見えた……。さて、気合入れていこう、こういうときは最初が肝心なのだ。

「おはよー」

　黄色い声が聞こえてくる、この挨拶は当然僕に向けられたものではないのだが、嬉しくてつい顔がにやけてしまう。僕は精一杯の勇気を出し、その生徒に話しかけようと試みる。

「おはよう」

　僕は自然にそのクラスメイトに声を掛けることができていた。

「えっ？」

　そのクラスメイトの女の子は、僕が声を発したことに驚いたらしく、何とも言えない、戸惑いを見せている。

「お、おはよう」

　そう挨拶を交わすとその子はサッと校舎に逃げ込むかのようにして姿を消していった。

　……分かってはいたんだけどショックだなあ、こんな軽薄な関係性だったのか。

　これじゃ、道端の人と挨拶を交わす方が楽なくらいだ。今どきコンビニエンスストアの店員とでもこんなやり取りはありえない。いや、今が昔なのか、何だかこんがらがって来た。

　さて、いい加減に僕も校舎に入ろう。

　そうして朝のチャイムが鳴る前に教室に辿り着いた。

「おはよう、みんな！」

　その瞬間、波打つかのように教室がざわめきだした。

「おう、元気あるね、何か良いことでもあったの？」

　そう、僕に答えた人物は、にやにやとこちらを見ながらあっけらかんと答えた。

「おう、まあな！」

　そのクラスメイトは少し怪訝そうな顔を見せて、なんだこいつ……といった顔で見てくる。

　まあその反応は当然だろう、いつも大人しくて静かだった僕がいきなりこんな大胆な挨拶をしたのだ、戸惑うのも当然である。

「まあ……元気なのは良いことだよな」

　何やら余裕そうな顔を見せた僕は、教室の机の椅子に着席した。

　そして、そんな僕を試すように遠くからこんな会話が飛び出してくる。

「ミロクー、おまえ彼女でもできたのかあ？」

　すると、教室中がゲラゲラと笑いの声で充満する……。だがそんなことでは挫けない。昔の僕とはもう既に内面から別人の様に違うのである。

「まだ、だけど、今学期中に作るつもりだよ！」

　僕は教室中にそのことを大声でアピールした。

　すると、当時ではまるで考えられないリアクションが教室の中で起き始めた。

「……」

「おいおい、おまえマジで？　どうしちゃったの？　おまえってそんなキャラだったっけ？」

　やるねー！　といった声や、勇気があるなあ……といったクラスメイトからの賞賛の声が聴こえた。

「ミロク……おまえ、何か悪い物でも食べたの？　まあいいや、これからは仲良くやろうぜ！」

　リーダー格のクラスメイトが新学期に恒例ともいえる挨拶をしてくる。背中をバンバンと叩いてくる。

　ふむ、掴みは成功かな……しかしこんなにプレッシャーが少なかったものだったかな？　まあ当時と今とを比べたら当然の結果なのか。

　さて、だけれど大変なのはこれからだ。僕の敵はこの学校中の全て。クラスメイトだけじゃない。それこそ別のクラス、下級生や、部活のメンバー、先生すらも丸めこまなくてはいけないのだ。これは大仕事なのだ。

　そして……僕がずっと気になっていた子。

　僕がタイムリープをした最大の目的とは、その子が因縁のヤツと付き合うことを止めさせて、この僕に振り向かせることなのだ。

　さあて、やるぞ！

　僕は心の中で叫んでいた。