第41話

文字数 1,315文字

 そして、四人での半年の修行が終わった。

 夢の中とはいえ、なかなか長い期間の様に感じた僕はこの後、お釈迦さまが大変な試練に遭われることに対して、ただ祈っていた。必ずお釈迦さまが勝つということが、分かっていたとしても、身震いがする思いがするのであった。

「観音様、お釈迦さまがパーピマンと戦われるのはいつ頃になるのでしょうか?」

 観音様はいつ頃になるのかはまだ分からないが、苦行生活の最後だということをはっきり示してくれた。

「苦行生活の最後……すると四十九日間の断食の後ということになりますね」

「弥勒、それでは腕時計を使って、タイムリープをしましょうか。弥勒もお釈迦さまをしっかりサポートするんですよ」

「はい、任せてください」

 いよいよかと腕時計のタイムリープマシンを動かす。

 お釈迦さまがパーピマンと戦われることになるのは、確か、六年後だったはず。僕は間違えないように腕時計のダイヤルを慎重にいじり、目算を合わせてセットした。

 ……ぐわん、ぐわん、ぐわん。

 ……。

 アーラーラ・カーラーマの教団と、ウッダカ・ラーマプッタの教団で学び終えたシッダールタ大菩薩は、苦から脱する方法を自身で探すことを決意しました。歯を食いしばり続けたり、呼吸を止め続けたり、お腹の皮が背骨に達するまで、絶食を続けるなど、苦行によって自身の体を極限まで痛めつけました。

 六年の大苦行の末に菩薩が導き出した答え。

 それは肉体を極限まで痛めつける方法は悟りを開く道ではないと考えました。

 その時、菩薩は農耕祭の事を思い出しました。

 閻浮樹の下で初禅に至り、安堵や歓喜、静寂などの感覚を得た時のことを。

 菩薩はその感覚こそが悟りを開く道であると気づいたのです。

 その瞬間、菩薩の耳にピンの音色が聞こえてきました。

 一本は張りすぎたために弾いているうちに切れてしまいました。

 それはまるで肉体を極限まで痛めつけたかのようで、ただ疲れるだけの無駄な修行であり、解脱への道とはなり得ませんでした。

 もう一本は、緩すぎた為に何度弾いても音が出ませんでした。

 それはまるで悦楽に溺れ、堕落したかの様で、これもまた、解脱への道とはなり得ませんでした。

 最後の一本は心に響く音色を奏でました。

 そこで適度な状態である中道に思い至り、それが解脱への道であると悟ったのです。

 その考えに至った菩薩は苦行を辞め、食事を取ることにしました。

 菩薩が大悟する日、東を向いて宝座に座ると宣誓しました。

「たとえ、血と肉が枯れ果て、皮と骨だけになろうとも正覚を得るまでは決してこの座を離れない……」

 ……。

「弥勒、準備はいいですか?」

 僕は覚悟を決め、はっきりと答える。

「はい、できております」

「この後、菩薩がパーピマンの大軍勢と戦います。あなたは影から見守り、もしピンチになったら助けてあげてくださいね」

「はい、あり得ないとは思いますが、その時は頑張ります」

 それでは頑張るんですよ……。

 そう言って観世音菩薩様は姿を消した。

 ……この半年の修行は無駄にはなっていないはず……。僕で役立てることがあるのならば、喜んで奴らと戦おう……。

 そうして弥勒は、パーピマンと戦うことになるのであった。
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