第49話
文字数 1,309文字
僕はあの時計を置いてきた仏像の前で土下座をしていた。
「お釈迦さま、申し訳ございませんでした。今までの僕の業をどうかお許しください。もう僕は一切悪いことは致しません……。だからこのような試練はもう……僕には……」
すると仏像が光り輝き、変化を見せる。
(ミロクか……久しぶりだな、元気でいるか?)
「はい、お釈迦さま。ご事情は全てご存知だと思いますので敢えて何も申し上げる事はございません。ですが今一度、僕にチャンスを下さい。やり直す為の、チャンスを……」
(何を言っているのだ……おまえは?)
……。
「へっ?」
(今までの事が本当に夢だとでも思っておったのか……? 大体、あんなデタラメな本を信じてしまうとは……おまえらしいと言えばそうであろうな……)
「そ、それは一体、どういう事なのでしょうか?」
(あれは、観世音菩薩が書いた完全な創作だよ。おまえは観世音に完璧に騙されていた訳だ。腕時計というのも本当はタイムリープする力なんてない。大体、本当にそんな事が現実で起こると思っておったのか?)
僕は絶句したまま言葉が出てこなかった。
(おまえは引きこもっている間、十年間ずっと同じ夢を見続けておったのだ。不思議な夢をな、しかし最後に見た夢というのは極楽の力で見せた幻に過ぎんのだ。おまえはまんまと観世音の修行に一緒に、付き合わされたという訳だ、つまりな……)
お釈迦さまが言うには、引きこもらせていたのは観音様の慈悲であって、この末世から守って貰っていただけらしい。本当に悪い世になった為の仏天の妙案だったとか……。
ここ一年でのタイムリープでの出来事は、確かに夢なのだが、それは一年の間、僕は毎日同じ夢を見ていただけらしいのだ。
(おまえ、この一年の間、ロングスリーパーになっておっただろう。一日の睡眠時間が十八時間を超えていたな? どれだけストレスが掛かっていたのかは知らんが、わしは本当に心配だったんだぞ……?)
僕は放心状態になった。そ、そうか、そうだったのか。そういえば……。この一年間、現実で動いた記憶があまりないのだ。ずっと夢を見ていた様な……。夢遊病という奴なのか?
そ、そんな……。そんなことって……。
「じゃ、じゃあチカは!? あいつと会ったことも全部夢だったのでしょうか!?」
(……知りたいのか?)
「は、はい……少しは」
(うむ……それはな)
するとお寺の玄関から僕のよく知る声が聞こえてきた。
「ただいまー」
……。
「お父さん、久しぶりに帰って来たよ。誰か弟子を作ったんだって? どんな人なのかなー? 早く会わせてよ!」
僕はその声を聞いた途端、心臓が飛び出そうになり、トイレに駆け込んだ。
トイレから身動きが出来なくなった僕は、ただその聞き馴染みのある声だけを黙って聞いていた。
「ははは、慌てるな。今度の弟子は凄いぞ? お前と同じ歳でなんと結跏趺坐を組む事が出来るんだ」
「え! 凄いね! 楽しみだなー。そうだ、名前は何て言うの?」
「弥勒君と言うんだ、いい名前だろう? 何と、あの弥勒菩薩と同じ名前だ。千佳とはきっと良い友達になれるぞ」
「……真実不虚……真実不虚……」
僕は謎の呪文を、ただ繰り返し唱えていた。
「お釈迦さま、申し訳ございませんでした。今までの僕の業をどうかお許しください。もう僕は一切悪いことは致しません……。だからこのような試練はもう……僕には……」
すると仏像が光り輝き、変化を見せる。
(ミロクか……久しぶりだな、元気でいるか?)
「はい、お釈迦さま。ご事情は全てご存知だと思いますので敢えて何も申し上げる事はございません。ですが今一度、僕にチャンスを下さい。やり直す為の、チャンスを……」
(何を言っているのだ……おまえは?)
……。
「へっ?」
(今までの事が本当に夢だとでも思っておったのか……? 大体、あんなデタラメな本を信じてしまうとは……おまえらしいと言えばそうであろうな……)
「そ、それは一体、どういう事なのでしょうか?」
(あれは、観世音菩薩が書いた完全な創作だよ。おまえは観世音に完璧に騙されていた訳だ。腕時計というのも本当はタイムリープする力なんてない。大体、本当にそんな事が現実で起こると思っておったのか?)
僕は絶句したまま言葉が出てこなかった。
(おまえは引きこもっている間、十年間ずっと同じ夢を見続けておったのだ。不思議な夢をな、しかし最後に見た夢というのは極楽の力で見せた幻に過ぎんのだ。おまえはまんまと観世音の修行に一緒に、付き合わされたという訳だ、つまりな……)
お釈迦さまが言うには、引きこもらせていたのは観音様の慈悲であって、この末世から守って貰っていただけらしい。本当に悪い世になった為の仏天の妙案だったとか……。
ここ一年でのタイムリープでの出来事は、確かに夢なのだが、それは一年の間、僕は毎日同じ夢を見ていただけらしいのだ。
(おまえ、この一年の間、ロングスリーパーになっておっただろう。一日の睡眠時間が十八時間を超えていたな? どれだけストレスが掛かっていたのかは知らんが、わしは本当に心配だったんだぞ……?)
僕は放心状態になった。そ、そうか、そうだったのか。そういえば……。この一年間、現実で動いた記憶があまりないのだ。ずっと夢を見ていた様な……。夢遊病という奴なのか?
そ、そんな……。そんなことって……。
「じゃ、じゃあチカは!? あいつと会ったことも全部夢だったのでしょうか!?」
(……知りたいのか?)
「は、はい……少しは」
(うむ……それはな)
するとお寺の玄関から僕のよく知る声が聞こえてきた。
「ただいまー」
……。
「お父さん、久しぶりに帰って来たよ。誰か弟子を作ったんだって? どんな人なのかなー? 早く会わせてよ!」
僕はその声を聞いた途端、心臓が飛び出そうになり、トイレに駆け込んだ。
トイレから身動きが出来なくなった僕は、ただその聞き馴染みのある声だけを黙って聞いていた。
「ははは、慌てるな。今度の弟子は凄いぞ? お前と同じ歳でなんと結跏趺坐を組む事が出来るんだ」
「え! 凄いね! 楽しみだなー。そうだ、名前は何て言うの?」
「弥勒君と言うんだ、いい名前だろう? 何と、あの弥勒菩薩と同じ名前だ。千佳とはきっと良い友達になれるぞ」
「……真実不虚……真実不虚……」
僕は謎の呪文を、ただ繰り返し唱えていた。