第26話

文字数 1,245文字

 何日かぶりに外に出た僕は気ままに散歩を楽しんでいた。

 お団子を食べて元気を出そうとチカが提案してくる。

「うん、美味しそうだな……」

 みたらしと蓬団子を三本ずつ注文する。

「毎度ありー!」

 団子屋の主人が注文した団子を差し出してくれた。

 お茶を飲みながら団子を食べる。こんな日常が訪れるようになるとは思っても見なかったことだった。チカも横で美味しそうに団子を頬張っている。

 すると団子屋の主人がこんなことを言い出した。

「いやー、旦那。近頃こんな噂をご存知ですかい?」

 僕は団子屋の主人の話に耳を傾ける。

「噂とは?」

「この辺りで夜な夜な妙な現象が起きるって噂でさあ。なんでも夜になると通りかかった人を片っ端から襲って、魂を喰らうという妖怪がでるらしいとか」

「この店の常連なんですが、運良く助かったという人が震えながら話してくれたんですがね」

「いや、全く気味が悪い話でござんすよ」

「その妖怪とはどんな?」

「なんでも、その妖怪が言うには、わしは信長様の魂が欲しい、そして魔王様の為にその力を使ってやりたい! と叫んで回っているそうだとか」

 !!

「店主、その話は本当なのか?」

「本当でございますとも。いやね、だれも信じてくれないと思って最近までだれにも話さなかったんですが、先日、信長様が喧嘩騒ぎを収めてくだすったでしょ。その時に人混みに紛れて信長様を狙っていた人がいたとかいうことを話す人が現れたのでさ。これは不謹慎だと言うことで私もこれを話すことに決めたのです」

「いや、全くとんでもない話でございますよ」

 すると、チカは団子を頬張りながらこんなことを言い出した。

「おい、ミロク。これはひょっとしてお前のことじゃないのか?」

「え?」

 なんでなんでと僕はチカに身振り手振りで、合図を送った。

「だってお前、ついこないだ謙信と一緒にいた時、こんなんで信長を討てるのだろうかと独り言を言っていたよな。それを影で聞いていた奴がいたんじゃないのか? それだよ。きっと。大丈夫かなあ、心配になってきたぞ」

「それと妖怪と一体何の関係があるんだよ?」

 僕は素直に疑問をチカにぶつける。

「いや、それはわからないけれどな」

「わからないんじゃないか!」

 いくら何でも小声だったし関係ないだろうと僕は首を横に傾げる。だったら夜に謙信と一緒にこの辺りに出てみようぜとチカの提案に僕は賛同した。

「そうだね……もしかしたら魔王を討つ手がかりになるかも知れないな」

 そうだよ! とチカが急に張り切り出す……一体なんだと言うのだろうか。

 妖怪退治なんかやったことないぞ。でもそれはそれで楽しそうだと僕はお経を唱えるための経典を準備をする。果たして妖怪相手に効くのだろうか。

「ミロクの初めての妖怪退治だな!」

「でもいいかい? 本当に妖怪に出会したらチカも手伝ってくれよな? 土壇場で逃げ出したりしたら一生恨むからな?」

 分かってる、分かってるとチカは張り切っている。どうなることになるのか。僕は一生分の勇気を妖怪退治に向けることにした。
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