第九話

文字数 386文字

重たい雨が降っている

明け方 五時

バケツの底を打つような音が
部屋中に
鳴り響いている

ぼとり ぼとり

ずしり ずしり

生きるとは
こんなにも
過酷なことなのだろうか

押し流され
濁流に飲み込まれるが
如く

働いて
対価を得て
食べて
寝て
起きて

そして
また働いて

今日 明日を
どう切り抜けるか
どう乗り切るか

そればかり考えている

次第に
思考は質量を増し……

鉄砲水のように
防壁の
脆弱な部分を狙って
一気に噴き出るネガティブな感情は

増幅し
無秩序に
頭の中で嵩を増しながら
私の支配下から逃れようと目論んでいる

人生には
無駄
だといえる時間が
一番必要なんだ

部屋に
明かりがさしこみ
突如
天啓が舞い降りる

何の意味も為さない時間
それを浪費するのが
一番の贅沢なんだ

それを
持てないような奴は
楽しめない奴は
何をやっても駄目さ

不意に
カラスが調子外れな鳴き声を上げたかと思うと
時 経ずして
スズメの浮かれたような囀りが聞こえてきた

雨が
止んだのだ

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