第63話 死兆星ののろい

文字数 7,176文字

 大王が何か、言いかけた時だった。突如として、頭上が暗くなったかと思うと、

次の瞬間、立っていられないほどの強風が吹き荒れた。

おいらたちは、地面に這いつくばるようにして安全な場所へ避難しようとした。

「大鳥が、こっちへ向かって飛んで来る。何やら、不吉な気配がいたす」

 月天心が、空に弓を向けるとさけんだ。

 低空飛行していた巨大な鳥が、大王のからだを捕らえると空の彼方へ飛び去った。

ふいに、阿字王の方を見ると、いつのまにか、阿字王たちは、姿を消していた。

思った通り、あの巨大な鳥の正体は阿字王なのかい? 

おいらが確信しかけた時、乙津がさけんだ。

「大王様をさらったのは、大鳥鬼(おおとりき)だ! 

大鳥鬼は、大風を巻き起こすといわれている九鬼なんだ! 」

 おいらたちは、大鳥鬼の行方を捜しまわった。

「なんだ? あれは? 」

 乙津が、迫りくる黒い塊をみつけてさけんだ。

「ぎゃああ! 」

 八聖騎士団の大軍のあちこちから、驚愕のさけびが響き渡った。

何事かと思い見ると、八聖騎士団の大軍めがけて、

凶暴な山犬たちが、群れをなして襲いかかって来ていた。

「やっておしまい! 」

 宝徳狗が、山犬軍団の前にひらりと舞い降りたのが見えた。

(もしかして、山犬軍団は、宝徳狗の差し金かい? 

そうだとすると、あの黒い塊はなんだい? )

「カラスだ! 討ち落とせ! 」

 月天心が、弓矢部隊に命令を下した。

「あれは、ただのカラスではない。ミサキだ! 」

 乙津がさけんだ。

「山犬とカラスは、わしらに任せて、おまえは、大鳥鬼を追うんだ! 」

 月天心が、おいらたちに向かってさけんだ。

「あとは任せた! 」

 おいらたちと乙津は引き続き、大鳥鬼を追跡した。

「きゃああああ! 」

 丘の近くに来た時、聞き覚えのある女の悲鳴が聞こえた。空を見上げると、

大鳥鬼が、丘の上に見えるストーンサークルめがけて急降下するのが見えた。

おいらたちは急いで、ストーンサークルへ向かった。

驚いたことに、大小、いろんな形をした石が

不規則に置かれている広間の中央で、

主・サカ王女・タレ夫人・ひをむしの4人が、

白い石でつくられたお棺を運んでいるのが見えた。

「いったい、こんなところで何をやっているんだい? 」

 おいらが4人に近づこうとした時、見えない壁に思い切り、鼻をぶつけた。

目の前に立ちはだかる壁は、押しても引いてもびくともしない。

「どうやら、結界が張られているようだ。

結界の向こう側の様子を見ることが出来ても、

中へ入ることは出来ぬというわけだ」

 乙津が冷静に告げた。

「あのお棺には、誰かが入っているのかい? 」

 おいらが、乙津に訊ねた。

「さあ、そこまではわからない」

 乙津が答えた。

「見ろよ! 主たちがお棺を運んだところに、なぜか、あの3人が‥‥ 」

 おいらは、主たちがお棺を運んだ場所に、

本誓将軍・護王猪麿・鳥熊山人の3人が

棒のようにつっ立っているのを見つけてさけんだ。

どう見ても、示し合わせて集まったメンバーではない。

「阿字王と鬼麻呂が現れた」

 乙津が、遠くを見つめると言った。

(主たちのいる場所から少し離れた高台に、人影が3つ見えた。そのうちの2つは、

阿字王と鬼麻呂だとすると、あとの1つは、いったい、誰なんだ? )

「氷輪か!? 」

 いつのまにか、奇寅が、おいらの隣に立っていた。

「え? 今、何と言ったかい? 聞き間違えでないのならば、

阿字王たちといるのは氷輪なのかい? 」

 おいらは、戸惑いを隠せなかった。

「あれは、奇蓮ではないのですか? 氷輪はすでに、この世にはおらず、

奇蓮が、そのからだを借りているはず」

 乙津が、奇寅に言った。

「氷輪は、死んだと偽ってどこかで生きているはずだと、

ずっと、思っていたが、わしの勘は衰えていなかった。

あれが、氷輪だとしたら、大王様の御身が危うい! 

氷輪は、あの儀式を行うつもりかもしれぬ」

 奇寅が神妙な面持ちで言った。

「あの儀式と言うのは、死兆星(しちょうせい)の呪いと関係していますか? 」

 乙津が、奇寅に訊ねた。

「さもあろう」

 奇寅が答えた。

「死兆星の呪いって、なんのことだい? 」

 おいらが、乙津に訊ねた。
 
 おいらの問いかけに答えるように、乙津が説明した。

 死兆星というのは、北斗七星を形成している星のことをいう。

ストーンサークルに集められた者たちはそれぞれ、

生まれ年の干支にあわせて「北斗七星」を形成する星にあてはめられているという。

(北斗七星)
 
 貪狼(どんろう)‥本誓将軍 巨門(こもん)‥護王猪麿 
 禄存(ろくぞん)‥鳥熊山人 
 文曲(もんごく)‥浄香 廉貞(れんじょう)‥タレ夫人 
 武曲(むごく)‥ひをむし 破軍(はぐん)‥サカ王女

 特に、後者4人(文曲・廉貞・武曲・破軍)は、

にみたてた北斗七星の

升の部分の「死兆星」という重要な役目を担っている。

「死兆星の呪いというのは、遠い昔の異国で起きた奇怪な事件が物語っておる」

 奇寅が語りはじめた。

 遠い昔、異国に、後世に暴君と呼ばれた大王がいた。大王は、私利私欲にまみれた

失政を強いて民を苦しめていた。ある日、悪王を倒して平和を築こうとする

北斗七星の星を家紋とする騎士団が、彗星のごとく現れた。

民衆は、彼らを救世団として崇めた。

同じころ、偽りの神託をしたとして、

王命により国を追放された都一と評判の魔術師がいた。

祈祷師は、北斗七星騎士団の人気と正義を利用して、

憎き王に報復することにした。魔術師の真のねらいを知らずして、

北斗七星騎士団は、その魔術師の力を借りることにした。

それは、北斗七星騎士団の攻撃を恐れた王が、

王室御用達の陰陽師に命じて居城の周りに、

虫1匹入ることが出来ない強力な結界を張り巡らしたからだった。

北斗七星騎士団ではない殺気を感じ取った王室御用達の陰陽師は、

術をかけたストーンサークルの内側に王を隠すことにした。

この中にいる限り、その姿を見つかることはなかった。

ところが、都一の腕を持つ魔術師は、ストーンサークルを魔術を使って破壊した。

破壊されたストーンサークルに侵入した北斗七星騎士団の手により、

大王はあっけなく、囚われてしまった。

王室御用達の陰陽師は、大王が捕らわれた責めを負い処刑されてしまった。

捕らわれた大王は、民衆の面前で行われた公開裁判により罪を裁かれて、

死ぬまで出ることの許されない刑に処されて孤塔に閉じ込められた。

孤塔に閉じ込められた大王はのちに、自ら命を絶ったという。

その時、大王の亡骸は、石棺におさめられた後、地中深くに埋葬された。

そして、霊魂が蘇り、2度、この世に出ないために死兆星の呪いがかけられた。

それから100年後。何者かが、大王の墓を暴いて死兆の呪いを復活させた。

その死兆の呪いにより、ある国で疫病が蔓延して多くの犠牲者が出た。やがて、

その国は滅びたという。偶然か否か、その国の王は、

北斗七星を崇拝して国の印としていたという。

「大王の墓を暴いた者が、どこで、どのようにして、死兆星の呪いの封印方法を

知ったのかはわからぬが、わしら一族には、

死兆星の呪いという裏の術が存在していることは確かだ。

じゃが、それを使う時は、悪政をしく君主が出現するなど

国が滅びる前兆とした時。今はその時ではないはず」

 奇寅が神妙な面持ちで言った。

「まさか、氷輪は、ここに集められた人たちを利用して

大王様に死兆の呪いとやらをかけるつもりなのかい? それにしたって、氷輪がなぜ? 」

 おいらが、奇寅に詰め寄った。

「その答えは、本人に訊ねるが良い。術をかけたから、結界の中に入れるはずだ。

何としてでも、氷輪を止めるんだ」

 奇寅が、おいらにそう言うと、おいらの背中を押した。

すると、おいらのからだは、いとも簡単に結界をすり抜けて、

気がつくと、主たちのすぐ目の前にいた。

「ウー。助けて! 」

 主が、おいらに気づいて助けを求めた。

「氷輪! そこにいるんだろう? どういうわけなのか説明してくんないか? 」

 おいらは、高台にいる人影に向かってさけんだ。

「どうやって、ここに入った? 」

 阿字王の声が聞こえた。

「奇寅が、おいらに術をかけてくれたからすり抜けることが出来たのさ」

 おいらがさけんだ。

「阿字王。なぜ、我らをここに連れて来たのだ? 」

 護王が、高台にいる人影に向かって訊ねた。

「己の胸に聞けばわかるはず! 」

 阿字王ではなく、女の声が答えた。この声に聞き覚えがある。

氷輪の声だ! やはり、奇寅の言う通り、氷輪は生きていたんだ!

「心当たりがないから、聞いているのではないか? 」

 本誓将軍が、いらだったように声を荒げた。

「君は、いったい、誰なんだ? 」

 鳥熊山人がさけんだ。

 すると、袈裟を身に着けた高貴そうな見知らぬ尼が、

阿字王と鬼麻呂を伴って姿を現した。氷輪とは姿が異なる。

いったい、どういうことなんだい?

「火蛇の国の尼将軍、闇天誄様であられる。皆の者、頭が高いぞ」

 阿字王がさけぶと、7人が頭を下げた。本意ではなく、

術により、無理矢理、頭を下げさせられたという感じで、

男3人は、苦肉の表情をにじませていた。

一方、サカ王女以外の女3人は、今にも泣きそうな表情をしていた。

(火蛇の国と言えば、先住民の国と言われている。

賊軍の総大将というわけかい? だいたい、尼が将軍など聞いたことがないぜ)

「声は氷輪だけど、姿はまったくの別人だぜ。

いったい、何が、どうなっているんだい? 」

 おいらが首を傾げた。

(するってぇと、なにかい、氷輪は死後、

他人の亡骸に乗り移り生き延びたというわけだい? )

「氷輪という人間はもうこの世にはおらぬ。氷輪だった時の因縁を絶たねば、

本当の意味で再生することが出来ぬと悟った」

 誄が低い声で告げた。

「別の人間になったというのであれば、

別の人生を歩めば良い話ではないのかい? 」

 おいらが、誄に訊ねた。

「そういう理屈は通用せぬ。物事は、おまえが思うほど簡単ではないのだ」

 誄が答えた。

「さっきから、ずっと、気になっていたのですが、

このお棺の中には、どなたか入っているのですか? 」

 主が、自分たちが運ばされた白い石でつくられたお棺をじっと見ると言った。

「さあ、とくと、ご覧あれ」

 誄が両手を頭上に広げると、白い石でつくられたお棺の蓋が、

宙に浮いた後にお棺の横に落ちた。おいらは、そのお棺に駆け寄ると、中をのぞき込んだ。

「誰か入っているのか? 」

 ひをむしが、おいらに訊ねた。

「大王じゃねぇか!? 」

 おいらが答えた。

「きゃあああ! 」

 おいらが答えると、タレ夫人が悲鳴を上げた。

「冗談でしょう? 大王様は、生きているわよね? 」

 主が、おいらに訊ねた。

「顔色が悪いし、身動きひとつしないけれど死んではいないと思う」

 おいらが答えた。

「大王様の身に何かあってみろ。タダではおかぬぞ」

 護王がさけんだ。

「それはどうかな? タダで済まぬのは、貴様らの方ではないか?

最後には、貴様らが、罪をかぶることになるんだ」

 阿字王がほくそ笑んだ。

「それは、どういう意味だ? なぜ、我らが、罪をかぶらねばならない? 」

 護王が、阿字王に訊ねた。

「とぼけるな! 貴様がしたことと、同じことではないか? 」

 誄が声を荒げた。

「何を言っておる? 私が、誰かに罪をかぶせたという

証はどこにあるのか申してみろ! 」

 護王がわめいた。

「もうろくしたか、悪党めが! 貴様は、罪のない者を

神馬卿殺害の犯人と偽ったではないか? 」

 誄が声を荒げた。

「あの時は、ああするしか他になかった。それがどうしたというんだ? 」

 護王がやぶからぼうに言った。

「そのせいで、あの方は亡くなった。全部、貴様のせいだ! 」

 誄がわめいた。

「もしかして、君は、あの者の恋人だったのか? 」

 護王が、誄に訊ねた。

「恋人ではなく、命の恩人だ。あの方がいなければ、

私は、この国で生きることは叶わなかっただろう」

 誄が答えた。

「なぜ、そうだと言わなかったんだい? 」

 おいらがさけんだ。

「そうだと言って、何か変わったか? あの方はもう、帰って来ない」

 誄が言った。

「あんたの隣にいる阿字王は、あんたの恩人が、無実の罪で処されることになった

原因をつくった浄の実の父なんだぜ。

なぜ、仇であるはずの男と結託しているんだい? 」

 おいらは矛盾点を指摘した。

「浄は人殺しではない。神馬卿を殺めたのは私だからな」

 誄が真相を暴露した。

「それは、いったい、どういうわけだ? 」

 ひをむしが、誄に訊ねた。

「浄も、神馬卿を殺めたいと思っていた。

だから、罪をかばうことを承知してくれた。

私と浄は、利害関係で結ばれていたわけだ」

 誄が答えた。

「浄を利用したと聞いて、何とも思わないのかい? 」

 おいらが、阿字王に訊ねた。

「吾輩の目的は、この国を変えること。そのためには、誄様の力が必要なんだ。

浄は、親孝行な息子であった」

 阿字王がしらじらしく、言った。

「親子そろって、どうかしているぜ」

 本誓将軍がつぶやいた。

「貴様ほど、罪深き男は他におらぬ」

 誄が皮肉を言った。

「それは、どういう意味だ? 」

 本誓将軍が反論した。

「貴様は、名誉とカネのためだけに、

たいした志もないまま大王の言いなりとなって

罪なき人たちの命を容赦なく奪った! 」

 誄がさけんだ。

「この国の軍人であれば、征討に加わり闘うことはあたりまえだ。

君だって、忍びとして、多くの人間の命を容赦なく奪ってきたのではないか? 

だいたい、君とは、直接、関係なかろう? 逆うらみされる筋合いはない! 」

 本誓将軍が声を荒げた。

「私は、罪なき者の命を奪った覚えはない。

貴様のような薄汚れた人間と同じにされたくはない」

 誄が言い返した。

「お2人を陥れた理由は理解した。じゃが、わしには心当たりがない」

 鳥熊山人が言った。

「貴様は、己が出世したいばかりに政敵となりえる旧友を裏切り見捨てた。

大きな罪ではないか? 」

 誄が冷ややかに告げた。

「旧友を裏切り見捨てたことはない。そんなに言うのであれば、

どこの誰なのか、ここに連れて来て証言させなさい」

 鳥熊山人が咳払いすると言った。

「あいにく、証人はすでに、この世にはおらぬ。

だが、その遺族の証言を聞かせることは出来る。

何を隠そう、その遺族というのは、私のことだ。私の父は異国の地で死んだ。

何度も、帰国を願い出たが却下された。

どれだけ、祖国に帰りたいと願ったことかしれない。

帰国して、父の帰国に反対した者がいたことを知った。

その人物こそが貴様だ! 鳥熊山人! 」

 誄がそう言い放つと、鳥熊山人の頭上だけが、突然、暗くなって雷が落ちた。

雷の直撃をくらった鳥熊山人は、全身が黒焦げの状態でその場に崩れるようにして

倒れたまま動かなくなった。

辺りに、生臭さと焦げ臭さが交じり合った異様な匂いが立ち込めた。

「鳥熊殿! 」

 近くにいた本誓将軍と護王が同時にさけんだ。

「死んでる」

 護王が悲痛な声を上げた。

「ここにいたら、我らも同じ目に遭わされる! 」

 本誓将軍が取り乱した。ところが、その場から逃げ出そうとしても、

術をかけられているのか、足が地面にへばりついていて離れないらしく、

地面にバタンと倒れた。

「大事ないか? 」

 護王が、本誓将軍に訊ねた。

「ああ。額を打ったが命は取られていない。私としたことがとんだ、失態」

 本誓将軍が顔を上げると答えた。

「3人の罪状はわかった。ところで、我らにも何か罪があるのか? 」

 ひをむしが冷静に訊ねた。

「鳥熊様が直に、殺めようとしたわけではないのに逆うらみもいいところですよ」

 タレ夫人が涙を流しながら言った。

「そうさのう。直に手を出さずとも、結果的に、最悪な事態になったことも事実だ。

君の親族とて、鳥熊とたいして、変わらん」

 阿字王が冷ややかに言った。

「阿字王。故人に対する敬を忘れたのか? 」

 王女が低い声で告げた。

「あのおなごの親族のせいで、大切な仲間や倅を失ったんですよ。

大神官たちが、しゃしゃり出てこなければ、

鶏麻呂・青嵐。そして、浄が消えることもなかった」

 阿字王が訴えた。

「青嵐は、風婆鬼となって、大神官たちを殺めた。

復讐は済んだのではないのかい? 」

 おいらが言った。

「それは、本当ですか? 」

 タレ夫人が、おいらに訊ねた。

「真実じゃ」

 おいらが答える前に、サカ王女が答えた。

「王女様もご存じだったのですね。それで、私と距離をお取りになったのですか? 

九鬼を倒すことは大王様の願いですから、私の親族が犠牲となったことを知れば、

鬼神退治もやりづらくなりましょう」

 タレ夫人が告げた。

「とにかく、大神官たちは犠牲者なんじゃ。逆恨みされる覚えはない」

 王女がきっぱりと言った。

「王女様も直に関わってはいませんが、王女様のお父上にあたる高武大王が即位した

経緯をたどれば、鬼麻呂を不幸にした原因にたどり着きます。

あなた様の今は、犠牲の上で成り立っているのですから、

大王様の罪を背負うことは免れませんでしょうよ」

 誄が神妙な面持ちで告げた。

「数合わせだと認めろよ」

 おいらがフンと鼻で笑った。

「そういうことなら、私なんて、何にも関係ないではないですか? 」

 主が言った。

「いいや、十分ある。幾度となく、我らの邪魔をした。

浄は、君のせいで志を変えたんだ。そのせいで、計画を大きく変えねばならなくなった」

 阿字王が言った。

「阿字王さん。浄さんのことを思うのならば、こんなバカなことはおやめくだされ。

浄さんは、決して、望んでいませんよ」

 主が言い返した。

「話はこれまで。時間がない。儀式に移る」

 誄がそう言うと、主たちが、白い石でつくられたお棺の周りをまわりはじめた。

「どうしたんだい? 」

 おいらが、主に訊ねた。

「わからない。勝手に、からだが動くの! まるで、誰かに操られているみたい」

 主が答えた。

「ウー。止めるんだ」

 ひをむしがさけんだ。

 
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