第59話 竜華登場! 屏風のひみつ

文字数 7,608文字

 都に戻ってから半年が経ち、鬼神退治は、昔のことのように思えて来たころだった。

大妃に続いて、王妃や側室を相次いで病で亡くした

火武大王の関心はもっぱら、いまだに、抵抗を続ける先住民の征伐だ。

諸国では、疫病が蔓延して多くの死者が出ているというのに、

罪のない民衆まで巻き込んだ不毛な戦は、

長くなればなるほど、民衆を疲弊させていた。

「王女様。大王様が、後宮にお見えになっておられます」

 ある日の朝。毎日、政務に忙しい大王が昨夜、

後宮に泊まったとの知らせを小耳にはさんだ主は、王女に報告した。

「それがどうかしたのか? 」

 王女が、手を止めると言った。

「どなたのお部屋に泊まったのか、気にならないのでございますか? 」

 主が言った。

 よせば良いのに、あろうことか、主は、大王がどこに泊まったのか

偵察に出かけた。おいらも暇つぶしに、主につきあうことにした。

後宮には、大王のお出ましを待ちわびているおなごたちが星の数ほどいるのだ。

どの部屋もあやしく見える。

「大王も罪なお方だねえ」

 おいらが言った。

 王妃の他に側室が何人もいては、体力が持たないのではないか? 

1度訪れただけでそれきり、ごぶさただという側室もいるらしい。

みんな、表向きでは、いつもと変わりなく平然としているが、

内心、誰の部屋に泊まったのか気になっているはずだ。 

「王妃様がおられなくなった今、大王様がまっさきに、

訪れるべきところは王女様の元ではないのかしら? 

それとも、他に、お目当ての妃がいるとでもいうのかしら? 」

 主が不満気に言った。

 王妃が病死した後、残された側室たちの間で、誰が、新たな王妃に

任命されるのか水面下で争いが起きていた。

 サカ王女は、先王の娘ともあって、次期王妃の最有力候補とささやかれていたが、

王女本人はいたって、いつもと変わらず落ち着いていた。

それは、大王がどれだけ、王妃に愛情を注いでいたのか嫌と言うほどご存じで

自分とは愛のない政略結婚だったということもあるのだろう。

「あ、大王様だ! 」

 おいらは、王妃が生前、使用していた部屋から出て来た大王を見つけた。

「新たな王妃が決まったのかしら」

 主がつぶやいた。

 王妃がお亡くなりになってから、部屋はそのままにしてあった。部屋の前を通る

だけでも、王妃のことを思い出すと、ずっと、避けられていたのに、

中にお入りになられるということは、ようやく、心の整理がおつきに

なったのだろうか?

「隣にいるのは、王子の弟君の比翼王子ではないか? 」

 おいらは、大王の傍にべったりとくつっいている幼い王子を指差した。

「半べそかいているわ。おかわいそうに」

 主が眉を下げると言った。

 さぞかし、王妃も、幼い王子を残して逝くことが心配だっただろう。

幼い王子は、亡くなった母のことが恋しくて、

母のぬくもりを求めて部屋に居続けているらしい。

「ここで、何をしておる? 」

 背後から、意地悪な声が聞こえた。ふり返ると、王子の乳母が仁王立ちしていた。

「すみません。近くを通りかかったら、大王様をお見かけしたもので‥‥ 」

 主が平謝りした。

「もしかして、偵察に来たのではあるまいな? 

昨夜、大王様は、タレ夫人の部屋にお泊りになった。

タレ夫人が、心労がたたり倒れたとお知りになって、

励ましにおいでになったのであろう。そなたの主は、あれ以来、タレ夫人を遠ざけて

おられると聞く。あんなに、親しくしておったのに、

まったくもって、冷たい仕打ちじゃ」

 王子の乳母が、皮肉を込めて言った。

 タレ夫人は、父と祖父の急死にショックを受けて寝込んでいた。まさか、2人が、

九鬼の風婆鬼に殺められたとは夢にも思わず、疫病で死んだと思い込んでいた。

大王は、タレ夫人の部屋を出た後、偶然、王妃の部屋から出て来た王子とはちあわせ

たということらしい。

「王女様は、そんなお方ではございません。お2人は、今でも仲良しです。

何か誤解なさっているのではございませぬか? 私はこれで失礼します」

 主は一礼すると、ずかずかと大股で歩き出した。言葉には出さないが、

内心、怒り狂っているに違いない。

 どんなに、腹が立とうと、立場が上の女官に反発すれば、波風が起こり、

結果的には、主である王女にめいわくをかけることになる。

後宮生活が長くなるにつれて、主も、いっぱしの女官らしくなってきた。

「きよ。たまには、庭を散歩したい」

 おいらたちが王女の部屋に戻るなり、王女が告げた。

「日中は、日差しが強いですよ。散歩するのは、日が暮れた後にしませんか? 」

 日焼けしたくない主が、庭の散歩を渋った。

「そんなことを言っているから、年中、おまえは、

病人のように青白く辛気臭い顔をしているのじゃ。

たまには、外の空気を吸って、太陽の光を浴びないと、本当に、病になってしまうぞ」

 王女が、主の衣を引っ張ると外へ連れ出した。

 庭を散歩していたところ、ひをむしが、

鬼門に位置する開かずの間から出て来るのが見えた。

なぜか、王子も一緒だった。2人は、一定の距離を取って歩いていた。

「ひをむし~! 」

 おいらは思わず、ひをむしに向かって手を振った。

「何か用か? 」

 ひをむしが、おいらたちに気づいて近づいて来た。

「開かずの間から、王子と出て来られるのをお見かけしました。

あんな場所で、いったい、何をなさっておられたのですか? 」

 主が、好奇心丸出しで訊ねた。

「王子が、あの部屋に飾られている屏風の絵をごらんになりたいと

仰せになったのでご案内したのだ」

 ひをむしが無表情で答えた。

「へえ。なぜ、また、王子は、屏風の絵などに興味をお持ちになったのですか? 」
 
 主がふしぎそうに言った。

「屏風に描かれている絵の虎が、鬼を食らうという伝説を

どこぞでお聞きになられたようだ」

 ひをむしが神妙な面持ちで言った。

「たしか、龍と虎の絵でしたよね? 鬼など描かれていましたっけ? 」

 主が前のめりの姿勢で訊ねた。

「あの絵には仕掛けがあって、はくという名の鬼がどこかに隠れているんだ。

はくというのは、虎の餌にされた鬼という意味だけでなく、

月の化身ともいわれている」

 ひをむしが咳払いして言った。

「へえ、そうなんですか? それで、王子は、

はくを見つけられたのでございますか? 」

「もちろんだ」

「どこに、描かれているのか、こっそり、教えてくだされ」

 主が、ひをむしにすり寄った。

「ええい、やめぬか。気色悪い! 」

 ひをむしが、主の腕を振りほどくと言った。

「失礼しました」

 主があわてて、平謝りした。

「己の力で見つけるが良い。それではなければ意味がない」

 ひをむしはそう言い残すと、どこかへ歩いて行った。

「王女様。今、ひをむし様から興味深い話を聞きました。

今から、開かずの間へ行ってみませんか? 」

 主がはりきって、庭の池に泳ぐ鯉を眺めていた坂王女を誘った。

「行かぬ! 幼いころ、開かずの間に入って叱られたことがある。

乳母が言うには、あの部屋は不吉らしい」

 王女が驚いた顔をして拒んだ。

「そうなんですか? 行くなと言うことは、やはり、不吉だということですよね? 

王妃様は、王子に行かないよう言わなかったのでしょうか? 」

 主が驚いた声で言った。

「王子は、慎重な性格だから軽はずみな真似をなさるはずがない。

何者かに、そそのかされたのかもしれぬ」

 王女が真顔で言った。

「あ、噂をすれば、王子だぜ」

 おいらが言った。

「王女様。お散歩ですか? 」

 王子がにこやかに告げた。

「ええ、まあ」

 王女が曖昧にほほ笑んだ。

「あの、そちらは? 」

 主が、王子の傍らにいる見知らぬ女官を目ざとくみつけた。

竜華(りゅうげ)じゃ」

 王子が、まるで、恋人を紹介するかのようにはにかんだ様子で、

その女官を紹介した。

「そなたが、王子のお妃候補なのか? 聞いていたより、だいぶ、年が‥‥ 」

 王女が、とまどった様子で言った。

「おそれながら、私ではなく、娘の方でございます」

 竜華が伏し目がちに告げた。

「さようか。失礼した」

 王女が気まずそうに告げた。

 よく見ると、竜華に隠れるようにして、年端も行かない娘が立っていた。

母親の付き添いとはめずらしい。

「竜華。王女様は、後宮のことなら、何でもご存じじゃ。

何か困ったことがあれば頼るが良い」

 王子が、竜華に告げた。

「はい、そういたします」

 竜華が上目遣いで告げた。

「竜華。まだ、娘が幼くて心配なのはわかるが、

母同伴とは他の者に示しがつかぬ。次回からは遠慮せよ」

 王女がびしっと言った。

「おそれながら、竜華は特別なんです。ゆくゆくは、上級女官になる逸材です。

だから、私が出入りを許しております」

 なぜか、王子が、王女をとがめた。

 他の者たちが見ている前で、王子が、先王の娘で大王の側室である王女に意見する

るなどあってはならないことだ。所作を欠いても、

竜華は、かばいたい相手と言うのか?

「おまえも、そうは思わぬか? 」

 王女が、王子の乳母に助けを求めた。

「どちらも、お間違えではないかと‥ 」

 王子の乳母が曖昧にほほ笑んだ。

「さようか。して、名は何と申す? 」

 王女がその場にしゃがみ込んで、竜華の娘に視線を送ると訊ねた。

「飛鳥です」

 竜華が、娘の手をぎゅっとにぎると答えた。

「竜華。このあとは、いかがする? 」

 王子が、竜華に訊ねた。

「王子のお好きになさってくだされ」

 竜華が、艶っぽい目で王子をみつめると答えた。

「なんなのですか? あの態度は‥ 」

 王子たちを見送ると待っていたかのように、主が毒づいた。

「王妃が亡くなって間もないというのに、いらぬ疑いを持たれては、

王子の将来に差し支えよう」

 王女が神妙な面持ちで言った。

「まさか! 王子ともあろうお方が、母親ほど年の離れた

おなごを見初められるはずがございませんよ」

 主が苦笑いして否定した。

 後宮へ戻ろうとした時だった。激しい横揺れが起こって、

立っているのが困難になった。やっとのことで、中に入ると、

後宮は、突然、起こった地震により騒然となっていた。

「皆を落ち着かせなくてはならぬ。揺れがおさまったら、安全な場へ避難させよう」

 王女が、主に告げた。

 主をはじめとするサカ王女付の女官たちは手分けして、各部屋をまわって

状況の把握に努めると、次の揺れに備えて庭へ避難をはじめた。

「大事ないか? 」

 大王が、タレ夫人を連れてやって来た。

「平気です。念のため、女官たちを庭へ避難させようと存じます」

 王女が冷静に告げた。

「良き判断じゃ。そなたを頼もしく思うぞ」

 大王が告げた。

 庭へ避難を開始した直後、またもや、強い揺れが起こった。

どこかの部屋から、家具が倒れたような大きな物音と共に悲鳴が聞こえた。

逃げまとう女官同士が、出合い頭にぶっかって尻もちをついているのが見えた。

「大事ありませんか? 」

 主が、尻もちをついた女官たちに声をかけた。

「三種の神器(じんぎ)を外へ出すのじゃ」

 王女が、後宮司の女官たちに命じた。

「おい、しっかりしろ! 」

 主が、倒れてきたタンスの下敷きになりそうな上級女官をかばって、

自分が、タンスの下敷きになってしまった。声をかけても反応がないところをみると

気絶しているようだ。もしかしたら、ケガをしているかもしれない。

早く助け出さなければ手おくれになる。

「ウー。こうなったら、きよのからだに憑依するしかありませんよ! 」

 檀宗が、おいらに告げた。

 体格の良い女官たちが、タンスの下敷きになった主をみつけて助け出そうと

したが、タンスは、うんともすんとも動かなかった。その間、

四方八方から凶器となる物が飛び交い、他人のことなどかまってられない

状況になった。

 おいらは意を決して、主のからだに体当たりした。うまくいった! 

おいらは力の限り起き上がると、上に乗っかっていたタンスを両手で人のいない

ところに投げ飛ばした。

「さすがは、きよ様! あっぱれでござります! 」

 近くにいた女官が、おいらが憑依した主の怪力に歓喜したのを聞いて、

おいらは我に返った。これが、火事場のバカちからというやつか?

「きよ! 来てくれ」

 突然、王女の悲鳴に近い声が、耳に飛び込んで来た。おいらたちは急いで、

サカ王女の元にかけつけた。すると、庭へ続く入り口の梁が傾きかけていた。

梁が傾けば、宮城が倒壊して、唯一の避難口がふさがれてしまう。

入り口付近には、大勢の女官たちが集まって来ていたが、傾きかけた梁に気づき

おじけづいていた。

「私が梁をお支えしますから、安心してお逃げくだされ! 」

 おいらは、梁に両手をかけるとさけんだ。

「恩に着ます」

「ありがとう」

 両手で梁を支えるおいらを見て、女官たちが次々と、庭へ飛び出して行った。

「おまえも出よ! 」

 王女の声で、おいらは、最後の1人になったことに気づいた。おいらが、

梁から両手を離して外に飛び出した直後、宮城が崩れた。まさに、間一髪だった。

 庭に出ると、お付の者たちに囲まれるようにして、

御座の上に座る大王の姿が見えた。

「おまえのおかげで、皆を無事に避難させることが出来た。礼を申す」

 王女が、おいらを労った。

「ウー。そろそろ、出ても良いのではありませんか? 」

 檀宗が、おいらに耳打ちした。

 おいらはあわてて、主のからだから離れた。その直後、主が息を吹き返した。

おいらが梁を支えたせいで、主の両腕は、筋肉痛になっていたがそれ以外は

無傷だった。

「ウー。ありがとう」

 主が、おいらを抱きしめた。

「お安い御用さ」

 おいらは照れ笑いした。

「王子! 」

 主がさけんだ。

 王子が、竜華を伴って歩いて来るのが見えた。

「大王様のご無事をたしかめに参りました」

 王子が、大王の御前にひれ伏した。

「この通り、わしは無事じゃ。して、春宮の様子はいかがじゃ? 」

 大王が、王子に訊ねた。

「壁にヒビが入り、瓦がいくつか落ちましたが、負傷者を出すことなく、

皆さま、無事に避難いたしました」

 王子ではなく、竜華が答えた。王子を見ると、立っているのがやっとなぐらい

青白い顔をしていた。

「おまえは? 」

 大王が怪訝な表情をした。

「王子妃候補の母親です、大王様」

 王女がすかさず告げた。

「さようか」

 大王が咳払いして言った。

「大王様。それでは、我らは、失礼させていただきます」

 王子がそう告げると、その場から去ろうとした。

「卯波、待つが良い」

 大王が、王子を呼び止めた。

「何か? 」

 王子の表情が強張ったようにみえた。

「あの女官は、わしの側近の妻じゃ。いくら、王子妃候補の母とは申せ、

連れ歩くとは何事じゃ? 」

 大王が、竜華に聞こえないよう小声でささやいた。

「皆が見ております。お話しなさりたければ、別の機会にお部屋でなさりませ」

 王女が見兼ねて、2人の間に入った。

「王女様。話は済みました。お気遣いは無用に存じます」

 王子は、王女に一礼すると、竜華の手を引っ張るようにして立ち去った。

 それから数日後。事件が起きた。卯波王子が、学者の講義を受けられている

最中に、突然、胸を押さえられお倒れになったのだ。


 王子がお倒れになるのは、この時に限らず、王妃亡き後、何度かあったという。

周囲の人たちは、母君を亡くされて心労がたたったのだと哀れんだ。

「今から、卯波王子の元へ参るぞ」

 サカ王女が、思い立ったように腰を上げた。

「今からですか? 」

 主が驚いた顔で、王女に訊ねた。

「王子の具合が気になる。どうも、嫌な予感がするのじゃ」

 王女がそう言うと、春宮へ急ぎ向かった。

 そのころ、卯波王子の居所である春宮では、近衛隊が、王子の元に遣わされて

祈祷を行っていたひをむしを取り押さえるとお縄をかけていた。


 祈祷の最中、王子の容態が急変したことが理由らしい。主と王女たちが、

春宮に到着した時、ちょうど、ひをむしを連行する近衛隊があわただしく、

外へ出て来た。

「ひをむし。これは、いったい、どういうわけじゃ? 」

 王女が、横を通り過ぎようとしたひをむしを呼び止めた。

「きよ。君に頼みがある。開かずの間にある屏風の絵が、もしかしたら、

卯波王子の病の手がかりになるやもしれぬ。私に代って調べてほしい」

 ひをむしが、主に向かって訴えた。

「承知しました。お任せくだされ」

 主が力強く告げた。

「行くぞ」

 近衛兵が、ひをむしに歩くよううながした。

「誰の命令じゃ? 」

 王女が、近衛兵に訊ねた。

「竜華様です」

 近衛兵が平然と答えた。

 春宮の中に入ると、部屋の奥に、王子が、布団の上に横たわっていた。

「王子の具合はどうなのじゃ? 」

 王女が、主治医に訊ねた。

「心の臓がだいぶ、弱られております」

 主治医が答えた。

「なんと? 」

 王女が深いため息をもらした。

「竜華様の応急処置の甲斐あって、1度、お目覚めになられました。

今は、お薬で眠られています」

 王子付の上級女官が告げた。

「なぜ、帰らない? そなたが、ここにいた所で、何の助けにはならぬぞ」

 王女が、王子の枕元に座る竜華をちらりと横目で見ると言った。

「私にも、何かお役に立つことがあると存じます。邪悪な者は遠ざけました。

じきに、王子様も良くなられます」

 竜華が伏し目がちに告げた。一見、謙虚そうに振舞ってはいるものの、

自信が見え隠れしている。たとえ、相手が、王女だろうとへっちゃらといった

感じにも見えなくなかった。

「竜華様。医療の心得がおありなんですか? 」

 主が、竜華に訊ねた。

「いつも所持している万病薬のおかげです」

 竜華が、懐から巾着袋を取り出すとみせた。

「いくつかの薬草を混ぜたもののようですね」

 主が、巾着袋の中身を確認すると言った。

「これは、先祖代々、我が家に伝わる秘薬なんです」

 竜華が自慢した。

「役に立つというのは、こういうことか? 」

 王女が上目遣いで、竜華に訊ねた。
 
「ええ、まあ」

 竜華が言葉を濁した。

「王女様、竜華様は、あの神馬卿のご息女様なんですよ」

 傍にいた王子の乳母が告げた。

「神馬卿に、ひをむし以外に娘がいたとは初耳じゃ」

 王女が、竜華を疑いのまなざしで言った。

「正真正銘、この私こそが、神馬の実の娘です。正式に、お付の女官として採用

となった暁には、お会いすることも多くなりましょう。よろしくお願いいたします」

 竜華がその場にひれ伏した。

「なぜ、女官に? そなたの希望か? 」

 王女がするどい質問を投げかけた。

「王子のたっての願いと聞いております」

 竜華がすました顔で答えた。

「血のつながりはないにしろ、ひをむしとは姉妹ではないか? 

なぜ、ひをむしを煙たがるのじゃ? 」

 王女が責めるように言った。

「王子をお助けするといいながら、謀反をはたらきました。王子に危害を加える者

あれば、誰であろうと許しやしませぬ」

 竜華がけわしい顔で告げた。

「何としてでも、真相をつきとめるのじゃ」

 春宮を出るなり、王女が、主に命じた。

「心得ました」

 主が頭を下げた。

 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み