第50話 巨大な鳥の正体 大風を起こす鬼 大鳥鬼

文字数 3,630文字

 バサバサ

おいらたちが話し込んでいるところに、巨大な鳥が戻って来た。

巨大な鳥の翼から、大量の血が流れているのが見えた。

何を思ったか、主が巨大な鳥に近づいた。

「おい、やめろよ。何をされるかわからないぜ」

 おいらがあわてて、主のもとに駆け寄った。

「たとえ、どんなものであろうと、目の前に、傷を負い弱っているものがいるのを

見過ごすことは出来ないわ。ウー、

今から、傷の手当をするから手を貸してちょうだい」

 主が腕をまくると言った。

 職業病ということなのか? 

なぜか、主は、自分をさらった鳥のことを救おうとしている。

一方、巨大な鳥は、うずくまって羽繕いをしだした。おそらく、

傷口をなめて自力で治そうとしているのだ。

主は果敢にも、おいらを踏み台にして

巨大な鳥の翼に近づくと、万病に効くといわれる軟膏薬を塗りだした。

「あぶない! 」

 傷口に軟膏薬を塗られたことに驚いた巨大な鳥が身を動かしたことにより、

主が危うく、地面に落ちかけた。

「大丈夫ですから、じっとしていてくだされ」

 主は危険をもろともせず、巨大な鳥の翼の傷口に軟膏薬を塗り上げた。

 気がつくと、巨大な鳥は、人間の姿に変身していた。

うつぶせに横たわる人間のからだを、慎重に裏返すと、

驚いたことに、阿字王だった。

「阿字王さん! 」

 主が驚きの声を上げた。

「手荒な真似をしてすまぬ。君は、思った通り、優しいおなごじゃ」

 阿字王が目を開けると言った。

「そのケガは、いかがなさったのでございますか? 」

 主が、阿字王に訊ねた。

「先住民に裏切られたのじゃ。あいつらめ。

一方的に、同盟を破棄しただけでなく、

あろうことか、同胞の身柄を奪いよった」

 阿字王が忌々し気に言った。

「同胞というのは、月の国の使節団のことですか? 」

「さようじゃ。吾輩は、あの者らを利用して

大王様に謁見賜ろうと考えて、

海賊に襲われて漂流した生存者たちを救い出した。

だが、都へ向かう船へ乗る途中、

先住民の奇襲に遭ったというわけじゃ」

「生き残った方々は、全滅なさったのでございますか? 」

 主が、阿字王に訊ねた。

「いいや。念のため、生存者たちを2手にわけたことが幸いした。

将軍の方は無事じゃ」

 阿字王が断言した。

「将軍というのは、本誓将軍のことですか? 

なぜ、将軍が、あなたの計画に加わっておられるのですか? 」

「吾輩の計画にではない。もともと、あいつは、

先住民の頭の娘とデキておったのじゃ。

最初から、吾輩を裏切り、月の国の使節団を

先住民に差し出すつもりで吾輩と手を組んだのじゃろう。

吾輩としたことが、まんまと、だまされたわい」

「将軍が、先住民と結託して、月の国の使節団を襲うはずがありません。

何があろうと、あのお方は、大将軍なのですから‥‥ 」

「あいつは、君を吾輩に加担した謀反人と偽り、

大王様に差し出すじゃろう。

それもこれも、己の名誉を守るためじゃ。

そうはさせぬと思い、君から呼び出された倅の後をつけて、

君をさらって、ここに閉じ込めたといわけじゃ」

 阿字王が神妙な面持ちで真相を語った。

「そんなバカな。私が何も、抵抗せずに謀反人を演じるとお思いですか? 

これでも、私は、先王の娘で、

今は、大王様の夫人であられるサカ王女付の女官なんですよ」

 主が胸を張って言った。

「とにかく、道中、気をつけるが良い。

輿の国を無事に出られるよう、倅には言っておいた」

 阿字王が立ち上がると言った。

「あの」

 主が、阿字王を呼び止めると、阿字王がふり返り微笑んだ。

「さらばじゃ」

 阿字王がそう言うと、巨大な鳥に変身して穴の縁から飛び立った。

「私たちも行きましょう」

 主が、おいらに手を差し出した。おいらは、

仮死状態になる薬玉を主に手渡した。

「浄さんはいつだって、私たちのことを考えてくれている。

これだって、ウーが、私を守るためにくださったんだから」

 主がそう言うと、薬玉を口にした。

それから、まもなくして、主は、仮死状態となった。

おいらは、主のからだに憑依すると、

檀宗を頭の上に乗せて穴から脱出した。

断崖絶壁を去り、平原の上を飛行しているところに、

イタチに変身した風刀鬼が近づいて来た。

「浄、聞こえるかい? おいらたちを無事に、都へ送り届けたら、

あんたはどうするつもりなんだい? 」

 おいらがさけんだ。

「ウー。きよ殿を頼んだぞ。元気にしておれば、いつか、また会える」

 頭の後ろ側で、浄の声が響いた。

 その後、おいらたちは、龍に変身した風刀鬼の背に乗り都へ向かった。

龍とおいらたちの姿は、鳥には見えないらしく、

道中、幾度となく、鳥の群れにぶつかりそうになった。

龍に変身した風刀鬼は、ふつうならば、

都まで数日かかるところ、わずか、半日あまりで都に到着した。

おいらたちを都の入り口まで送り届けた後、何も言わず、

夕日の中に消え去った。

「おい、着いたぞ」

 おいらが、主のからだを揺さぶり起こすと、

主が、まるで、眠りから覚めたかのようにスッキリとした顔で目を覚ました。

「ここはどこ? 」

「都の入り口さ。風刀鬼が、龍に変身して送り届けてくれたんだ」

「ウソ? ホント? 」

「本当さ」

 おいらがそう言うと、主が肩を落とした。

「本当に、これで、さよならなんだ」

「元気でいれば、また、いつかどこかで会えるはずさ」

 おいらは、主をありきたりの言葉で励まそうとした。

 おくれること数日後。乙津と星丸が、おいらたちのもとへやって来た。

巨大な鳥にさらわれた後のことを話聞かせると、乙津がいつになく、くやしがった。

「九鬼を前にして、何もせぬとは何としたことか。

どのように、大王様へ説明したら良い? 」

「調査中ということでもしておいたらどうだ」

 おいらが打開案を出した。

「そうすることといたそう。‥‥というか、そうするしかない」

 乙津が、独り言のようにつぶやいた。

「何はともあれ、無事で良かった」

 星丸が吠えると、檀宗がもじもじしながら、物陰から出て来た。

「出戻りました」

 檀宗が決まり悪そうに告げた。

 九鬼にからだを乗っ取られた主に、もはや、仕えることは出来ない。
異例のことに、はなるがやむを得ない。

幸い、幻鼠の頭は存在しないし、掟もないこともあり、

檀宗は、新たな主が現れるまでフリーになることに決めた。

「これからどうするのじゃ? 」

 星丸が、檀宗に身の振り方を訊ねた。

「新たな主が見つかるまでは、ウーと行動を共にすると決めました。

ウーは、師であり良き友ですから、今後のためにも、一緒にて勉強になります」

 檀宗が、おいらはまだ、聞いていない宣言をした。

「仕方がないな」

 おいらが言った。

「いたいだけいると良いわ。私は大歓迎よ」

 主が言った。

「ところで、貴王女様の風の国行きの件だが中止に出来そうにない」

 乙津が告げた。

「さもありましょう。私は、さぞかし、

心をお痛めになられているであろう王女様の傍でお支えする所存です」

 主が告げた。

「それは、ちょっと、待ってくれまいか? 君には、新たな命令が下った」

 乙津が気まずそうに言った。

「え? 都に戻ったばかりで、新たな命令とは何ですか? 」

 主が後ずさりして言った。

「もはや、君も、九鬼退治を担うメンバーの数に入れられたということになる」

 乙津が、主に言った。

「いつ、そんなことになったんですか? 」

 主がさけんだ。

「おいらのせいかもしれねえ」

 おいらがぼそっと言った。

「出立日が決まり次第、追って連絡いたす。それまで、都の生活を楽しむが良い」

 乙津がそう言うと、星丸を連れて立ち去った。

 その直後、サカ王女が姿を現したことから、

乙津は、おいらたち以外の者に姿を見られたくないらしい。

主がまた、しばらく、別の仕事で都を離れるかもしれないと王女に言うと、

王女は、理由も聞かずわかったとだけ言った。

心配したよりも、王女は元気だった。

むしろ、子育てから解放されたせいか、乙女時代に戻ったみたいにもみえる。

「私の人生って、波乱万丈だわ」

 王女がいなくなったのを見計らい、主が言った。

「何もないよりあった方が、おもしろいのではないか? 」

 おいらが何気なく言うと、主が、おいらを横目でにらんだ。

「すべては、ウーと出会ったせいよ」

「おいらが嫌か? 」

「そうとは言っていない」

「じゃあ、なんだい? 」

「ウー、1度しか言わないから、ちゃんと聞いていてね。ありがとう、

それと、これからも、ずっと、一緒だよ」

 主が照れ臭そうに、そう言うと、足早に、部屋を出て行った。

 おいらは、一瞬のことですぐに状況が飲み込めなかったが、少しして、

今、主は、けっこう良いことを言ったことに気づいて、途端に、はずかしくなった。

戻って来た主に、もう1度、言ってもらえないか頼んだが、

主は、ありえないと拒んだ。

その日の夜は、満月だった。きっと、どこかで、浄も、同じ月を眺めている。

主の横顔には、そう描いてある気がした。

龍の背に乗り空を飛ぶなんて、考えてみれば、めったに、あることではないなと思った。

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