第二部 猫姫:(4)川辺

文字数 2,361文字

「お姫様、どこですか? これでは、永遠に続く事になってしまいます。もうそろそろ終わりにしてください」
すると川の中から素っ裸の姫が飛び出しただて。指南はこれが目の保養なのか、毒なのか判断できずに、慌てて目を覆った。姫はそんな事はお構いなしに大声を出した。
「あぁ、楽しかった。かくれんぼはもう沢山だ。今度は、ここで泳ごう。指南、早く服を脱いでここに来い」
「お姫様、それは勘弁を」
「指南、命令だ。早く来い!」

指南は渋々と、ふんどし一丁になって、川に入ろうとした。すると、水の中でバシャバシャしながら姫が言った。
「指南、何を着ているんだ。早くそれも取ってしまえ。気持ちいいぞ」
指南がもじもじしていると、姫がまた大声を出した。
「わたしの命令が聞こえないのか?!」

指南は観念してふんどしをとり、後ろ向きに川に入っていった。すると、いつの間にか姫が目の前に現れ、指南の下半身を凝視した。次の瞬間、指南が聞いたのは姫の悲鳴だった。
「ギャー!!!」
そして、姫は一目散で反対岸まで泳いでいき、川岸に生えていた草薮の中に逃げ込んだ。

指南は、何が何だか分からずにいたが、このままでは仕方がないので、岸に戻って、服を着た。
「お姫様、どうしたのですか? 早く服を着ないと風邪をお引きになりますよー!」
姫の返事はなかった。

そうしている内に、夕刻になり、辺りは薄暗くなってきた。すると、流石に怖くなってきたのか、姫が声をかけてきた。
「指南、もう服は着たか?」
「お姫様、もうとっくに着てますよ。早く出てきて下さい」
姫は草薮から出てくると、川を渡って、岸に上がってきた。そこで、服を着ると下を向きながら指南の所にやって来た。

「あ〜、やれやれ。どうなることかと思いましたよ。お姫様、どうしたのですか?」
「指南、その......、足の間に付けているものは何か?」
「お姫様、見たことがないのですか?」
「ある訳がないだろう」
「やれやれ。それじゃ、お姫様、これが何の為に付いているかもご存じないのですか?」
「知るわけがないだろう。宮殿ではそんな事教えてくれなかった」

その晩、二人はその川辺で野宿した。その晩まで、姫は指南のすぐ隣にくっついて寝ていたのだが、この晩は、少し離れた所に行って寝た。
「指南、今鳴いている虫は何というのだ?」
「コオロギですな。あっしは、真似が出来ますよ。ほら」
そう言って真似てみた。
「指南は凄いな。どっちが本当のコオロギか分からないではないか」
そう言っている内に疲れ果てた二人はぐっすりと寝入っていた。

翌日、指南は姫に初歩的な性教育の講義をした。前日は驚いて、怖がっていた姫が、今度は、明らかに興味を示しだした。
「指南、話はそのくらいにして、わたしにちょっと見せてくれないか?」
指南は、ためらったが、また命令だと言われるのがおちなので、それに従った。
「指南、昨日と形が違うではないか? どうしたのか?!」

指南は、あ〜と嘆いて、両手で顔を覆った。その間に、確かに姫の指先だけでなく、舌先も触れたのを感じて、いてもたまらなくなった。すると、姫はさっさと服を脱いで、川に水浴びに行ってしまった。そして、その夜から、姫は再び指南にピッタリくっついて寝るようになった。

その夜、指南は複雑な気持ちになっていた。姫なんか、もうとっくに捨て去って、一人で優雅な生活を送ってやるはずだったのに。捨てきれないどころか、完全に振り回されている。それに、生まれてこの方、一度も家族や友人との親密な関わりがなかったためか、姫と一緒に居ることに楽しささえ感じている。これでは、天下の至難として失格ではないか。やれやれ、あっしとしたことが、とんでもない羽目になってしまったもんだ。神様仏様、今までの無信仰をお許しの上、どうか、この先どうしたら良いかご指南の程を!

その後、何回か宿屋に泊まると、宿屋で、めおとが仲良く食事をしている風景を見ることもあった。そんな時、姫は、めおとのやり取りを熱心に観察しているようだった。
「お姫様、いい考えがあります。これから、この俗世界で生きて行くには、お姫様の本当の身分が知れるのはまずいと思われます。それで、これは、単なるあっしの考えですが、お姫様とあっしが、めおと、と言う事にしたらいかがでしょうか?」

「指南はいつも名案を出してくれる。そ〜、それじゃぁ、そうしましょう、あんた!」
「お姫様、あー、いや、お前、いつの間にそんな言葉覚えたんだ?」
「それはあんた、一緒に食事をしている、めおとたちを見ていればすぐに分かることですよ。あたしの居た所では、仲の良いめおとなんて見られなかったのに。あたしのお父とお母も、そっけなかったし。でも、この辺では、めおとが皆嬉しそう!」
「お姫様、ではなくて、お前はほんとに飲み込みの早い奴だな」
「それに......」

姫は少し間を置いて顔を赤らめた。
「あんたは、優しくて、頼りになるから......、あたし、ほんとに、あんたのお嫁さんになってみたい」
指南はあっけに取られた。それには気も留めずに、姫は続けた。
「それであんた、あたし達、めおとになったら......、あんたの物を使うのかしら?」

その夜、二人が床についた時、指南は気が気ではなかった。金銭を払って体験したことはあるが、好かれて女を抱いたことはない。ところが、いろいろとその夜の方策を練っている内にふと気がついた。肝心の姫はと言えば、もう、いびきをかいて寝込んでいるではないか。指南は思った。実のところ何歳かは知らないが、な〜んだ、まだ子供なんだと。やれやれ、こんな子供の面倒を任されておいて、逃げることは出来ないな。

この頃、姫と指南の行動がある男の目に留まっていた。男は、指南が多額の金銭を隠し持っている事を察知し、それを手に入れようと狙っていた。
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