Done-4

文字数 998文字

 フユトと別行動を取った後、シギが部屋に戻ったのは未明が近い頃だった。残り香で不機嫌な顔をされる前にとシャワーを浴び、寝室を覗くと、フユトが俯せで眠っていた。シーツに包まって足を大きく開き、枕を抱える、随分と無防備な姿勢で。
 熟睡しているようでも、フユトは気配に鋭い。起こしかねないと、服を着てからリビングに向かい、執務机の端末を立ち上げる。夜明けも近いし、朝のルーティンを終わらせてから眠るのも悪くない。
 二時間ほどで雑務を終わらせると、外は夜明けだった。薄曇りの空が白い光で眩く輝いている。背凭れに体を預けて背筋を伸ばし、眼鏡を外して眉間を揉む。この動作がルーティンの一環に馴染みつつある。
 もう若くはないと実感しつつ、寝室に行くと、フユトはキングサイズのベッドの中央で、側臥の状態だった。体に掛かるシーツが寝乱れているから、久しぶりに遠慮なく眠れたことだろうと、僅かに右の口角を上げる。
 微かに唇を開いて寝入る横顔を間近に見る。乱れたシーツは敢えて直さないまま、するりと体を滑り込ませ、こめかみに口付けてから、体温の高い体を抱き寄せる。デニムを履いたままの足を絡めると、ごわつく質感が覚醒を促したのか、フユトの体が伸びるのがわかった。
 起こして悪いな、と詫びる前に、腰に絡めた腕が持ち上げられる。ぐるん、と反転して、こちらを向いたフユトの瞼はまだ閉じたままで、胸元に顔を押し付けるように擦り寄ると、静かな寝息の続きを立て始める。
 それが半ば、狸寝入りなのは知っている。
 寝室に入った段階でフユトは起きていただろうし、気配が安心できるものかどうかは探っていたはずだ。勿論、この部屋の安寧を脅かすものなんてないから、シギが傍らに寄り添うのを待って、たまたま寝返りを打ったように体を向けて、嗅ぎ慣れた体臭に微睡みを深めるだけの、寂しがりなフユトの癖だ。
 誰の視線もなければ、外で甘えることを咎めた覚えはないのに、フユトはいつまで経ってもこうだ。機嫌が悪そうなタイミングで声を掛けても突っぱねるし、正気を保てない状況じゃないと素直にならない。人でなしの寵愛を受けるなんて奇跡に近いのだから、体裁なんて捨ててしまえばいいのに、そこは思うところがあるのだろう。尤も、そんな些事にこだわりはしない。
 ぎゅっと抱き着くように背中へ手を回し、首筋の辺りに鼻を寄せる。その仕草に髪へ口付けて、シギも目を閉じた。















ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み