Prologue-4

文字数 680文字

 太い客に当たり障りないプライベートを話すことで、信頼していることを示し、より親密であることをアピールするのは、売春する側の常套手段だ。しかし、シュントのこれは、そういう計算のものではないだろう。
 飽くまで知らなかったフリをして、無言で先を促す。
「オレはこうして屋根の下で眠れるけど、弟は独りで待ってるんだ」
 明るく努める口調と反して、シュントの表情は冴えない。
 廃墟群は名前の通り、戦後に遺棄された廃墟が立ち並ぶエリアで、無宿者や孤児たちが集う。荒屋が多いスラムから郊外の砂地までは、無法地帯だ。故に売春や臓器売買、強盗、強姦、殺人に至るまで、取り締まられずに放置されている。そんな危険地帯だからこそ、たった一人で夜を明かすことは寿命を縮める。臓器売買のリスク云々を抜きにしても、孤児が売春に走るのは、比較的に安全な夜を得るためだった。
 シュントの憂いは、独りで夜を明かさざるを得ない弟の存在にある。だから本当は、すぐにでも二人を手元に置いておきたいのに、現状はなかなかどうして、上手くいかない。
 ハウンドとしても、ハイエナとしても、財閥や大組織を背負って立つ身としても、未だに半人前で焦れている。養父からは、二年で一人前になれるわけがない、気負いすぎるなと激励されてはいる。
 それでも、急ぐ理由は目の前にある。
「本当は弟と一緒にいたい、弟だってそう思ってると思う、だから、ねぇ、シギさん」
 先日教えたばかりの名を呼んで振り仰いだシュントは、祈るような、縋るような、切実な目をして、
「オレに力を頂戴」
 願うから、静かに、意味深に、口角だけを持ち上げて見せた。














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