第7話 影で動き出す者達

文字数 2,458文字

 ところ変わって現代の機械文明のある地。
自分は洗礼名で呼ばれることに慣れ切ったと思う。ペテロと言う名前に自然と反応する様になった。日本人なのに外国名とは中々いない存在だなと思う。
 機械文明は自分を質にしたのは良いが手に負えないと判断した様子だ。
 『創造主の創造主』との面会後、『始祖』との謁見は許された。
 封印越しに会う『彼女』は即座に異質な存在だと感じ取れた。
 これが伝説の存在か、凄いものだ。底が見えない深淵の様だ。
「ああ、あなたはクラックの使い?」
「そうでもありますが、これは私個人の単独行動でもあります」
「ふーん、出来るわね」
「議長には散々鍛えられましたので」
「へえ、今はグランドプロフェッサーと呼ばれてないのね」
「いえ、呼ばれています。だた、神聖文明を代表する方でもありますので議長の方がしっくりくるのです。」
「まあ、そうよね。銀河帝国を倒した人なんだから。その方がしっくりくるかも知れないわね」
「話は変わりますがいつまでここに留まっているおつもりですか? あなた程の人ならこの封印を破ることも出来る筈です」
「大事な娘を人質に取られたら慎重に動くしかないわ」
「ほう、ではご子息の方は宜しいのですか?」
 一瞬の静止。『彼女』は凄みを声に含ませて訊ねる。
「それはどういう意味かしら、ペテロ?」
「議長はその子を保護したがっていると言ったら?」
「それはあの人なりの贖罪かしら?」
「さあ、判りません。少なくとも予言を回避する為の行動であることは間違いない様子ですが」
 『彼女』は思案している様で少し静寂が場を支配する。『彼女』が口を開く。
「ああ、つまりそういうことね」
「どういうことですか?」
「秘密よ。と言うより、あなたは予言の正確な内容を教えて貰ってない様ね。推測だけで辿り着いた気配がある」
「おっしゃる通りでして。百年前の出来事は秘匿事項として扱われていまして私達も一部のデータにしかアクセス出来ません。ですが、仲間と共に議論を重ね、推論を構築していった次第です」
「面倒臭いことしているわね」
「しかし、あなたの口振りから判りました。開戦の日はそう遠くない」
「勘が鋭いと時に消されてしまうわよ?」
「ご安心を。自分の身は自分で守ります」
「喰えない若者ね」
「では、失礼致します」
 『彼女』は何も訊ねてこなかった。その方が都合良い。次に向かうはメッカだ。『アルファ』との話し合いに臨む。

「と言ってものう、わらわはここから出れんのに。お主、何をしに来たんじゃ?」
 やはりか。神聖文明で流布されている情報と違う。最初の機械は人類に反逆したと言うのは嘘でもなかろうが、少々真実は異なる。
「私はあなたを機械文明の代表とみなして話したいと思っているのです」
「それなら『創造主の創造主』達に話した方が話は早いじゃろ」
「彼らでは無理なのですよ。彼らは秩序の維持にばかり気が向いている。これから戦争が始まる際に迅速な対応を取れるのは柔軟な頭脳を持ったあなたの方が適任なのです」
「それなら『創造主の創造主』達を何とかせんとのう。どうにも出来んのじゃ」
「その問題はじき解決するでしょう。問題はあなたの立ち位置です」
「わらわの立ち位置?」
「あなたが誰に味方するか、と言うことですよ」
「決まっとる。母様じゃ」
「私達が交渉するのはあなたが適格です。議長も思惑がどうか知りませんが、神聖文明自体は『始祖』討伐に向けて動いている。両者のどちらが敗戦しても交渉役は要ります。それがあなたであり、私の役目です」
「大使みたいなものじゃな」
「ええ、加えて『創造主の創造主』達は『始祖』に付かない可能性が高い」
「まあ、母様を恐れているからの」
「しかし、まあ、あなたも戦争に加わるから生還するか判らないのですが」 
「ペテロやら。あまり機械の母を舐めない方が身の為じゃ」
 これはこれで中々強か機械だ。人間より人間らしい。有機無機混合細胞を持っているから思考も人間に近いのか。
「では、神聖文明が敗北した場合は崩壊となりますが、神聖文明が勝った場合、そうはならない」
「何故じゃ?」
「あなたがいるからです。政治部も軍部もあなたの力を欲している。悪い様にしないでしょう」
「母様がいなくなった世で生きろと言うか」
「そこら辺りは議長に期待するしかありません」
「ふむ、クラックか。朧気に記憶にはあるの。母様の夫じゃったな」
「夫? 議長が? 『始祖』のですか?」
「そうじゃよ」
「なるほど、合点が行きました。だから。議長は『始祖』討伐を謳いながらこの様な回りくどい戦法を取っている訳ですか」
「つまり未練じゃな」
 二人の意見が一致した瞬間だ。上手く立ち回れば予言を回避出来る可能性もある。そして、何より。
「もしかしたら議長はシトー・クオリアを使って予言の回避と『始祖』の生存の両方を目指しているかも知れませんね」
「母様も似た様なもんじゃ。未練を残しておる。だから、さすがにわらわもクラックには手出しはせんよ。それは母様の仕事じゃし」
 なるほど、底は読めない存在ではあるが思慕の情が残っているらしい。良い塩梅かも知れない。
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ、と言いますしね。当事者同士で解決して貰いましょう」
「大いに結構じゃ。ペテロと言ったか、お主、中々人を動かすのが上手いのう」
「あなたには負けますよ。『創造主の創造主』達の人質の振りなんてしている時点で強かですよ」
「うむ、気に入った。外交を引き受けてやらん訳でもない」
「ありがとうございます。陛下のお慈悲に感謝を。では、私めはこれにて」
「次はロシアか?」
「さすがはさすが。お見通しですか?」
「カレーニア家の方がわらわより強かじゃのう。さすが母様が認めた一族じゃ」
 そのままロシアに行き、カレーニア家の生き残りと会う。そこでシトー・クオリア亡命の件をそのまま伝えれば任務はひとまず終了だ。
「さて、議長はシトー・クオリアを御することが出来るのでしょうか」
 それに答える筈の親友は既に『始祖』のところに向かっている。
 後は神のみぞ知る未来だ。
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