第1話 神聖文明と機械文明の冷戦

文字数 2,186文字

 世界は二つの勢力に分かたれている。
 一つは奇跡使いが守護する教会を中心として道徳を重んじる社会。
 もう一つは科学者達が立ち上げた機械が自立して造り上げた機械文明。
 神聖文明側は機械文明の技術こそ劣るが奇跡使いの強大無比な防御によって均衡が保たれていた。
 神聖文明にとって機械は道具としての意味合いが強い。感情システムの発達よりもインフラ維持の為に感情を取り除いている。それが果たして正しいかどうかはさておいてだ。
 逆に機械文明においては科学者が頂点となり、その下に機械が国民として住んでいる。機械は更に人間を隷属化におくことによって労働力の確保を保っている。機械文明では機械と人間の立場があべこべなのだ。

 これはそんな世界で起きた一つの物語。
「俺はお前が和平交渉に赴くのは反対だ」
「とは言ってもケファ、彼らの支配する日本領域に該当する奇跡使いは私しかいないんだよ」
「連中はただ素体を欲しがっているだけだ。機械文明では未だ解明出来ない奇跡使いの仕組みを知りたがっているだけだ」
 この交渉は安易な罠だぞ、と自分は付け加えた。
「それでも話し合いに臨みたいと思う」
「ペテロ、教会の兄弟として俺はお前にむざむざ犠牲になる道を歩んで欲しくない。それが神の御心でも、だ」
「いや、大丈夫さ。いざとなったら君が助けに来てくれるだろう?」
 自分は天井を仰いで溜め息を吐いた。
「助けに行く。だが、説教もさせて貰う」
「なら安心した」
 そう言って自分の友人は機械文明の拠点の一つである日本に旅立った。そして、音信不通となった。

「議長、偵察任務の件、俺に回してくれませんか」
「ケファ、君は優秀な奇跡使いだ。だが、ペテロの件もある。君は彼を助けに行きたいだけだ。冷静になりなさい。奇跡使いは神に護られている。そう心配することはないのだ」
「約束したんですよ。説教しに行くってね」
「頑固だな。名前通りだ。その意志の強さがあるからこそ単身で機械文明と渡り合うことが出来るのであろうが」
「じゃあ」
「条件がある。君も無事で帰ってくること」
「ならお安い条件で」
「やれやれ。君達は弟子の中でも格段の優秀さだが、頑固なのが玉に瑕だな」

 そうして、日本に潜入した。
 だが、意外だったのは四百十番と名乗る少年に見つかったことだった。純朴な少年だが、無知なのはすぐに気付いた。機械文明は人間に教育というものを施してないらしい。薬物や性行為を餌にして僕として扱っているのを見て暗い気持ちになった。
 少年に新しい世界を見せられたらどれだけ良いだろうとも思った。幸い、ワープ装置はある。連れて帰ること位は出来るだろう。少年の意志次第だが。

 機械文明の技術を過小評価していた。彼らはナノレベルでの監視カメラを散布して不審な者がいないか常にチェックしている。
 機械に取り囲まれる中、少年がやってきて機械に廃棄宣告された瞬間、ワープ装置を少年に使った。
「愚かだな、奇跡使い。君の思考は中々読み取り難い。だからこそ素体として価値があるのも事実だが」
「ハッ、抜かせ」
 機械が光子銃を構え、斉射した。全ての光が届く前に打ち消された。
「やはり前回と同じだ。神という存在は確定的だ。存在する様だ。だが、何故我々を滅ぼさない? 疑問だ。あの男は訳の分からないことを言っていたが」
「ペテロの言うことはお前達じゃ解らねえよ。頭でっかちが。まあ、良い。あいつに会わせろ」
「我々としても願ったり叶ったりだ。意味不明な人質は機能しない」
 機械にとって神聖文明の価値観は理解し難いと視える。
「だが、帰す訳にもいかない。大人しく連行されて貰えないだろうか?」
「それはあいつの入れ知恵だな」
「君を扱うのは我々には無理だと判断した上でのことだ」
 機械が面子を気にするのか曖昧な言い方をする。
「神聖文明の者よ、一つ問い質したい。何故それ程の力を持ちながら我々の領域に侵攻せず、均衡を保とうとする?」
「さあ、神の御心なんぞ俺には読めん」
 半分嘘、半分真実。神聖文明は攻撃手段をあまり持たない防御に特化した文明だ。一方で力の源である神が望まなければ奇跡を行使出来ない難点を持つ。
「神が機械を憐れむか。俺にはよく解らんね」
「君に解らないことを我々が理解出来るとでも?」
「あんたら、頭は良いんだろ? 少しは考えてみれば良い」
「それを理解する時は人間が不要になる時だ」
「案外、別の道が拓けるかもよ?」
「人間は常に不合理だな」
「まあ、良いさ。これからあの少年が助けに来るまでの宿題だと思えば良い」
「あの家畜が?」
「ああ、きっと必ず来る。絶対にな」
 機械達は理解出来ない様子だった。そうして自分は機械文明の質となった。
 来たる日を待って。

「久しぶりだな」
「いや~、機械文明の力を侮っていたよ。君もそうだろう」
友人がいけしゃあしゃあと語るので少しムッとする。
「馬鹿野郎、それは読んでおけ。敵を過小評価するな。大体、お前は昔からそうだ。『話せば分かる』なんてのは頭がお花畑の奴がやることだ」
「いやあ、案外そうでもないよ」
「うん?」
「機械文明の『始祖』は私の話に応じてくれたよ」
驚いて目を見開く。
「会ったのか?」
「ああ、うん。それが複雑な事情でね。まあ、『彼女』に会えば分かるよ」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み