小さな指屋

文字数 279文字

 嫁いだ先の町の片隅に、小さな指屋があった。

 ある日の夕暮れ時、買い物帰りに、何気なくその指屋に立ち寄った。
 指屋の店内は薄暗く、かすかに香水の匂いが漂っていた。店員はいなかった。
 一番目立つ場所にある棚に、指を切り落とす器具が並べられていて、横に指の買取価格表が添えられていた。左手の薬指が一番高かった。
 私は自分の左手の薬指を見つめた。

 指を売る時は、指輪はどうするんだろう。

 そんなことを考えていたら、女性が店に入ってきた。
 女性は、店の隅の、指用接着剤のコーナーにまっすぐ向かっていった。
 彼女の指がどうなっているかは、店が薄暗くてよく見えなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み