第14話 プッツン少女かよ - 9

文字数 3,658文字

 プラズマトルネード砲の砲撃により、亜空間に浮かぶこのバトルフィールドと呼ばれる広大な大地に巨大な穴が穿(うが)たれた。直径は百メートル程もあるだろうか。
 戦艦からササラまでを結ぶ直線上に、斜めに巨大な穴が空いている。穴の深さは俺の居る場所からは見えないので分からないが、もしかするとこの大地を貫通しているのかもしれない。東京二十三区と同等の広さだと言うバトルフィールドの厚さがどのくらいなのか知らないが、そんな気がする程の強烈な輝きだった。

 穴は先程の通常兵器による砲撃のクレーターとは見た目が全く違う。通常兵器と言っても、地球ではまだ実戦配備されていないようなSF兵器ばかりだがな。
 通常攻撃の着弾地点は土が(えぐ)れ、岩が砕けて吹っ飛んだようなガタガタの地面だったが、プラズマトルネード砲の着弾地点はまん丸の綺麗な真円になっている。砲撃で大地が吹っ飛んだという感じではなく、大地が超高熱により蒸発してしまったかのように見える。
 穴の側面は非常に滑らかだ。まだ表面の温度が高いらしく陽炎(かげろう)が揺らめいているが、温度が下がればツルツルの硝子みたいになるのかも知れない。

 それで肝心のササラだが、砲撃前と同じ位置の空中に浮かんでいる。ノーダメージのようだ。ホッとしたようなガッカリしたような複雑な心境だ。
 なんだかセカセカちょこちょこと、その場で元気一杯に動いている様に見えるんだが何してるんだ? 気になったんで宇宙双眼鏡で覗いてみる事にする。手足や身体全体を動かす妙な動きだ。

 いや、まて、この動きは見た事あるぞ! と言うかやった事あるぞ! これは、『ラジオ体操第一』じゃないかっ!! え、何で? 異世界でも有名なの? この体操。
 俺が住むこの世界を覗ける魔法の鏡があるとか、この世界の電波をキャッチ出来る魔法の電波塔があるとか、もしかしたらこの世界から転生した日本人が魔法の国に伝えたとかなのか? 全く分からないが、とにかくササラはラジオ体操をやっているのだった。
 ササラのこの動きは、今までの攻撃は全然効いてないよアピールなのか、それとも反撃前の準備運動なのか、その他に何か意味があるのか、どれなんだろう。

「ミリア、ササラがラジオ体操をやっているんだが」
【『ええ、そうね。銀河連邦警察でも採用されているわ、この体操』】
 えええ!! 宇宙規模でも有名なのか! ラジオ体操!!!

【『メイティス、ウインブレイバー緊急高速変形! 近接格闘戦形態!』】
[[了解。ウインブレイバー緊急高速変形]]
 その声と同時に巨大戦艦が変形を始める。
 先程のプラズマトルネード砲の発射形態への変形はゆっくりとしたものだったが、今回は様子が違う。戦艦の各所に小型のバーニアが出現して、様々な方向に向かって噴射を開始している。所々のスリットから爆炎と煙が噴出する。爆炎が上がる度に変形速度が加速する。
 これは、バーニアと爆発物の力で強制的に高速で変形をしているのか? 緊急高速変形とか言っていたが、多分、本当に緊急時だけの変形方法なのでは無いかと思う。各所に絶大な負荷が掛かっていそうだ。
 全長四百メートルくらいの戦艦の各部が伸びたり引っ込んだり、開いたり閉じたりして、結局最終的には全高四百メートルくらいの超巨大ロボになった!
 うおおおっっ!!! 変形ロボは男のロマンだあっっっ!!! だがしかし、変形だけじゃなく、出来れば合体も欲しかったかなっ!

【『ウインブレイバー、グラビティークラッシュ!』】
 ミリアがそう叫ぶと、超巨大ロボは背中の二基のメインエンジンと三基の補助エンジン、それとロボのふくらはぎ辺りに変形で分割された、両足合わせて二基のメインエンジンと四基の補助エンジンを一斉に点火させた。
 ロボはササラに向かって急加速をし、巨大過ぎる右腕を振り上げた。ロボの握りしめた(こぶし)の大きさは、幅が二十メートルくらいはありそうだ。その拳の周りには黒い光? のような物が輝いている。この黒い光のような物は何だろう? グラビティーって言ってたから重力兵器とかなのかな?
 その振り上げた巨大な腕の肘に付いている二基のブースターを噴射させ、凄まじい超加速でササラに殴りかかる!

 超加速した二十メートルの巨大な鉄拳を、ササラは上に伸ばした右手一本で受け止める。その瞬間に発生した凄まじい重力波か衝撃波の影響で眼前の景色が激しく何度も歪む。多分、バリアの中に居なかったらこの重力波か衝撃波で俺はイチコロだっただろう。
 ササラは全く平気そうな顔をしている! 
 ええええーーーっ!! この攻撃でも全然効かないのかーーーっ!!!! ……まあ、そんな気はしていたけれどね……。

 ササラはこちらに向かって小学生らしいあどけない笑顔でニッコリ微笑むと、口をパクパクさせて何かを言っているようだ。しかしこのバリアの中では俺には聞こえない。
「ミリア、ササラが何か言っているようなんだが、何て言ってるんだ?」
【『沢山の花火は綺麗だったし、大きなお人形さんも面白かったって』】
「花火とお人形さん呼ばわりかよっ」
【『でも、もう飽きたからそろそろ終わりにするって』】
「えっ……」

【『ウインブレイバー、ツインドリルアタック!』】
 巨大ロボの左手の拳が内側に倒れ、その跡から現れた二本の巨大なドリルが超高速回転で回る! 出たっ!! ドリル兵器も男のロマンだっっ!!!
 肘のブースターからの噴射で、右手のパンチと同様に加速した攻撃がササラを襲う! ササラは今度は受け止めたりせず、ヒョイっと身をかわす。
 おっ、ドリルは苦手なのか? と思ったら、ササラにかわされて大きく空を切ったドリルの腕の肘の辺りをササラがチョンっと押す。
 ロボは大きく振り回した超加速のドリル攻撃の勢いに、さらにササラが加えた加速が上乗せされ、その超重量級の機体を空中で横向きにグルグルと豪快に回転させられる。
 ササラがやったのは、合気道的な技なのか?
 ロボはそのまま回転しながら地上に激突し、小高い丘を幾つも粉砕して岩や土砂を巻き上げる。さらに横滑りしながら大地に長く深い溝を刻み付けた。バリアの中では感じられないが、凄まじい振動で外の景色が激しく何度も揺れ動く。
 ササラは空中でちっちゃなゲンコツを振り上げると、両手をボクシングのように動かす。すると起き上がろうとしていたロボの上空に無数の半透明で巨大な拳にも見える塊が出現し、ロボを滅多打ちにし始める。
 ロボの全身から激しい火花が飛び散り、徐々に大地にめり込んで行く。やがて各部から手持ち花火のような長い火花を幾つも噴出させてロボは沈黙する。吹き出た火花はロボから噴き出す血潮のようにも見える。

【『メイティス、損害状況は?』】
[[各部ノ損傷ガ激シク、現在、予備回路ニ切替作業中。再起動ニハ時間ガ掛カリマス]]

 うう、万事休すじゃん。頼みの綱の超巨大ロボがあの状態じゃ、もはや打つ手無しか……どうしよ。
【『罰野君、前! ササラちゃんがっ!』】
 頭を抱えて座り込んでいた俺がミリアの声で前方を向くと、バリアの手前五メートルくらいの場所にササラが立っていた。いつの間にっ!
【『外部の音を罰野君のインカムでも聞こえるように切り替えたわ』】
 なるほど、今まではミリアの声だけで、まったく聞こえて来なかった外の音も聞こえる。

【「バツお兄ちゃん、もう終わりだよ」】
 キラキラとした満面の笑みでちょっと首を(かし)げながらササラが言う。きっとロ×コ×の皆さんならば、今の笑顔の破壊力で全員の腰が砕けてその場にへたり込んでしまった事だろう。
 ああ、そうさ、確かにササラは可愛いさっ! それは俺も認めてもいい! だが、俺はロ×コ×じゃない! そんな笑顔など俺には通用しないっ!!
 『バツお兄ちゃん』って呼んでくれたその一点だけは嬉しく思え無くも無い。だが逆に、そのキラキラとした笑顔がとんでもなく恐ろしい物に見えて、俺は腰が砕けてこの場にへたり込みそうなんだよ!

 ササラは両手をスッとボクシングの形に構えると、その腕を前後左右に激しく動かす。ついさっき巨大ロボをズタボロになるまでボコボコの袋叩きにした、無数の半透明で巨大な拳が俺とミリアの居るバリアを滅多打ちにする!
 ふっふっふ、ササラよっ、残念だったな。いくら巨大ロボを倒したとは言え、その様な攻撃など、この絶対無敵の時空間断絶バリアとやらには通用しないのだよっ!
 バリアを殴る巨大な拳の連打が激しくなる。
 ……通用しないよな?
 更に連打が激しさを増し、スピードも上がる。
 通用しないでくれよっ!
 バリアが軋みだし、各所からのスパークが飛び交う。

【『罰野君、ごめんなさい。バリアはもう限界みたい』】
 マジかー、ここでミリアと一緒に…………。




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