第12話 プッツン少女かよ - 7

文字数 3,454文字

 俺は肉体言語では無く、口で話す言語での説得を試みる事にする。あくまでもそこは平和的にだ。俺の心から溢れ出す誠実な真実の愛の言葉で話をすれば、とりあえずは何とかなるかも知れない。うまく説得出来るかどうかは自信が無いが。
 俺は網の中でバタバタと暴れ回るササラに近づいて話しかけてみる。

「なあササラ、もうこんな事はやめにしないか? 俺は本当に大魔王じゃ無いんだし、争い事が嫌いな完璧で完全なる平和主義者なんだよ。ササラの持っていた探知機が反応したのは多分、俺自身も気が付かない内に俺の身体に入り込んだ大魔王の核の欠片のせいなんだ。だからそれを何とか取り出せる方法をみんなで一緒に考えて、その取り出した欠片をササラが壊せばいい。それでお前の爺さんが完全には成し遂げられなかった大魔王討伐の偉業をお前は成し遂げられるんだ。そうすれば万事解決、平和的解決、俺もお前もみんな幸せハッピーエンドで丸く収まるだろ? なあ、ササラ、そうしようぜ」
「そんな嘘だらけの邪悪な言葉にササラは騙されたりしないぞっ! このうんこたれの大魔王っ! 大魔王はこの天才魔法使いのササラが討伐して絶対に息の根を止めてやるんだからっ!」
 うんこたれとか言って小学生かお前は! ……あ、小学生だ。
 俺はうんこたれでは無い! うんこたれでは無いが、お前のせいでシッコは何度かチビりそうになったぞっ! しかし、まだ言うか自分の事を魔法使いって!

「ササラ、俺はもうとっくに分かっているんだ! お前が魔法使いでは無い事をな! お前の使っているのは魔法では無く魔術だっ! だからお前は魔法使いでは無いっ! 魔術師だっっ!」
 あ、イカン、こんな事小学生の子供に言っちゃ可哀そうだったか? でもさっき考えていた事が口からつい出ちまった。こんな事言って泣いちゃったりしたら困るなあ。
「ササラはっ、ササラは魔術師なんかじゃないもんっ! 魔法使いだもんっ! 大天才魔法使いなんだもんっっ!!」
 あ、泣くかと思ったらそうでもなくて良かった。でも凄く怒ってる感じがする。そんなに魔術師って呼ばれたく無いのか?
「でもお前が使った魔法って呼べる物は、最初に打ち込んで来たヘロヘロの光球ぐらいじゃないか。後はみんな魔術だっただろ?」
 ササラが泣き出さない事をいい事に、俺はまたも追加で追い打ちを掛けた。でもそれぐらい言ってもいいよな。俺は何度も命の危機を経験させられた。ミリアがいなけりゃとっくに完璧アウトのお陀仏だったんだから。


「……分かったよ。じゃあ、特別に大魔王に見せてあげるよ。ササラが本当に本物の大天才魔法使いだって事の証拠を」
 そう言うとササラは今まで網の中で駄々っ子みたいに背中を地面に着けてパンツ丸出しで暴れていたのを止め、網を絡みつかせたままその場にすっくと立ち上がった。なんだか雰囲気がちょっと変わったみたいな気がするんだが……。
 ササラは首から下げていたレトロ調の大きめの(かぎ)に手を掛けた。昭和時代にはよく見かけたらしい、鍵っ子風に首から下げていたあの鍵だ。今時の鍵っ子はお洒落(しゃれ)な小さなケースに家の鍵を入れてランドセルとかに付けているらしいがな。

 ササラは首から下げていた紐から鍵部分だけを引っ張って取り外すと、それを首に()まっている厚くて黒くて太くてでっかい首輪に正面から突っ込む。羽より軽くて丈夫だとササラが言っていた、竜の鱗とミスリルその他を混ぜ合わせた魔法超合金で作られたとか言う首輪だ。
 首輪に鍵穴なんて無かった筈だが、鍵が首輪に触れる瞬間に鍵穴が出来たように見えた。
 その鍵をササラが一回回す。カシャーンとロックが外れるような音がした。黒い首輪の表面に有った薄い長方形の突起が一つ横に開いて首輪の中から眩しい光が漏れ出す。
 ササラに絡みついていた金属の網が少し外側に膨らんで網全体が光り出し、放電が多くなる。魔法陣は現れていない。

「ミリア、ササラがなんかおかしな事をやり始めたようだが、大丈夫なのか?」
【『対魔法用のキャプチャーネットは魔力を電気エネルギーに変換して大気中に放出する構造になっているから大丈夫なはずよ。まだ負荷ゲージにも全然余裕が有るから』】

 ササラは尚も鍵を回す。更に左右の突起がロックが外れる音と共に二つ同時に開く。少し膨らんでいた網が一気に膨張し、パンパンに膨らんだ。網の表面から放たれる光と放電が激しさを増す。
【『まずいわね! 一気に負荷ゲージがレッドゾーンにまで到達しちゃったわ!』】
「ええっ、それってどういう……」
【『これ以上の負荷が掛かるとネットが持たない!』】

 更にササラの首輪の突起が二つ同時に開く。パンパンに膨らんでいた網が激しい閃光と放電と火花をまき散らしながら一瞬で弾け飛び燃え尽きる。
 網が弾け飛んだ瞬間にミリアは装甲戦闘服でササラに掴みかかったが、ササラに装甲服の手が届く寸前、更に首輪の突起が開かれて装甲服は厚い壁にぶつかったような鈍い激突音と共に空中に弾き飛ばされた。
 ミリアは弾き飛ばされながらも装甲戦闘服の背中側に回してあった機関砲とビーム砲を両手で掴むと、ササラに向かって躊躇なく連射を放つ。上を向いていた右肩のキャノン砲もササラに向かって咆哮を上げる。背中のバックパックからも小型のミサイルを連射する。
 全兵装の一斉攻撃だが、その猛攻は全てササラの目前で塵となって消失する。魔法陣シールドの時のような爆発は一切起こらず、ミサイルも実体弾もビームでさえも全ての攻撃が塵となって大気中に霧散して行く。

 ミリアが右手の機関砲をササラに向かって投げ付ける。もはや弾切れなのだろう。腰に装着されていた二つのドラムマガジンもササラを網で捕えた時点で既に無くなっていた。
 投げ付けた機関砲もササラにぶつかる手前で塵と化す。バックパックからのミサイルと右肩のキャノン砲も弾切れで沈黙する。唯一残された左手のビーム砲も連射で砲身が真っ赤に焼けて幾分出力が落ちて来たように見える。

「ミリアお姉ちゃん無駄だよ。もうそんな攻撃はササラには通用しないよ。この首輪はササラの巨大すぎる魔力を制限するための物なんだよ。この巨大な魔力を完全に制御出来るようになるまでは魔力を解放するなってお爺ちゃんに言われているけれど、今日は首輪に付いている十三のロックを全部解除してササラの本当の力を見せてあげるよ。大魔王も良く見ておくんだな、この千年に一人の大天才魔法使いササラの本当の力を。このササラの力の解放が大魔王がこの世で見る最後の景色となるんだからな」

 ひえええええーーっこえーよ。こえーよササラっ! なんか別人みたいな顔になってるぞ! 可愛い小学生のササラに戻っておくれーーっ! お願いしますーーっっ!!! ササラちゃーーんっっっ!!!!!!!

【『メイティス、ウインブレイバーの全砲門発射準備! 装甲戦闘服を中心とした半径三メートルに時空間断絶バリアを展開後、一斉射撃開始っ! 目標は魔法使いササラ!』】
[[了解。全砲門発射準備開始シマス]]
【『罰野君っ! 装甲戦闘服の足の下まで急いで来てっ! ウインブレイバーの一斉射撃が始まるわっ!』】
 俺は慌てて装甲戦闘服の両足の下へ駆け込む。上空に浮かぶ全長四百メートルぐらいの銀色の巨大戦艦の艦首がゆっくりと下がり、ササラと一直線に結ばれる角度で固定された。戦艦の上下左右各所から大小様々な砲塔がせり出している。
[[全砲門発射準備完了。時空間断絶バリア展開完了。目標魔法使いササラ、照準微調整完了]]
 装甲戦闘服の周りが半透明に輝く分厚いバリアで囲まれた。
「ミリア、このバリアってあんな巨大な戦艦からの一斉射撃に耐えられるのか?」
【『大丈夫よ。ここへの直撃じゃ無いしね。例え直撃だとしても大丈夫だから心配いらないわ。時空間断絶バリアはバリアとバリアの間に別の時空間を挟み込んだサンドイッチ構造だから絶対に破られる事の無い無敵のバリアよ』】
「それなら安心だが、ササラは一体どうなるんだ? まさか本気でササラを消滅させるなんて事をミリアは考えたりして無いだろうな?」
【『ササラちゃんの巨大な魔力は今も増大し続けているわ。はたして一斉射撃でどうにか出来るのかどうかは、わたしには分からない』】
「えっ?!」

[[全砲門一斉射撃開始シマス]]




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