第15話 プッツン少女かよ - 10

文字数 4,001文字

【『メイティス、ウインブレイバーの復旧状況はどう?』】
[[システムニ深刻ナ問題ガ発生シマシタ。現在修復中。再起動マデノ残リ時間ハ不明デス]]
【『トラクタービームは使用できる?』】
[[搭乗口ノトラクタービームハ使用出来マセンガ、右腕ノ装備ナラ使用ガ可能デス。タダシ、出力ガ不安定ナタメ人間一人分ノ重量ニ限リマス]]
【『じゃあ、バリアの消失と同時に罰野君を牽引して』】
[[了解]]

【『罰野君、バリアが破られた瞬間にトラクタービームで牽引してもらうから、何処かの物陰に隠れていて』】
「ミリアはどうするんだ?」
【『何とかササラちゃんを阻止してみるわ』】
「でも、もう武器はビーム砲しか残って無いんじゃないのか? 他に何か武器が有るのか? ビームの剣みたいな奴とか」
【『武器類は全部使い果たしちゃったわ。後は装甲戦闘服の手の平から出るスタンショックぐらいね。実はもう荷電粒子ライフルのエネルギーも底を突いて残って無いし。でも、ライフルは棍棒代わりになるから大丈夫よ』】
 そう言うとミリアはビーム砲の砲身を装甲戦闘服の右手で掴み直し、前後を逆に持って少し振って見せる。
「いやっ、そんなんじゃダメだろっ。戦艦からの砲撃も、巨大ロボの攻撃だって全く通用しなかった相手に対して」
【『ササラちゃんが油断した隙を突けば何とかなるかも知れない。……それに最後の手段も有るしね』】

 最後の手段?

「最後の手段って何?」
【『…………』】
「言えない事?」
 ミリアは答えない。

 ササラが首輪のロックを外し魔力を解放し始めて網を破った時、ミリアは装甲戦闘服で掴みかかったが簡単に弾き飛ばされていた。装甲服のパワーと棍棒代わりのビーム砲だけで何とか出来る相手だとは到底思えない。例えササラが油断して隙を見せたとしてもだ。
 服と言う名前で呼ばれているが、実質的に小型ロボである装甲戦闘服に出来る最後の手段って……アレしか浮かばん、思い付かん。

「ミリア、まさかとは思うが、最後の手段ってもしや“自爆”じゃないよな?」
【『…………』】
「自爆か? ……自爆なのか? それで脱出装置とかは付いているのか?」
【『…………』】

 警察の機体なんだから、脱出装置は絶対に装備されているはずだ。と言うか、警察の機体に自爆装置なんて物が設置されているものなんだろうか。軍事用の機体ならば、敵に機体を鹵獲(ろかく)されるのを防ぐために自爆装置が設置されていてもおかしくは無いが、ミリアが乗っているのは警察の機体だ。
 テログループに機体を奪われるという事態も無くは無いと思うが、機体の詳しい仕様を知っている訳では無いのでこれは想像だが、その場合は車のキーみたいな認証装置を渡さないとか、機体のOSをロックさせるとかで対処出来そうな気もする。
 まあ、それでも狡猾な犯人ならばそんなプロテクトなどは突破出来てしまうのかも知れないが、機体を自爆させるなんて事を警察が行うとは思えない。だが、それは俺の考える地球の常識であって、宇宙では自爆が当たり前の行為であるのかも知れないが。

 自爆装置が設置されていないとして、脱出装置が装備されているにもかかわらずそれを使用できない、又は使用しても脱出が間に合わない、そんな状況……。

 “無理やり動力炉を暴走させて爆発させる?”

 多分、動力炉の暴走なんてそんなに簡単には起こらないように、何重にも制御装置や制御プログラムでプロテクトされているはずだ。それを何らかの方法、例えば裏技とか回路を繋ぎ変えるとか壊すとか、そんなやり方で自爆させるのかも知れない。だから脱出が間に合わないとかなのかも知れない。

 だがしかし、それほどまでしてササラを阻止する理由って何だ? 俺の身体の中に入っているとか言う強化装甲の為なのか? SSS級の銀河広域指名手配犯とか言ってたが、絶対に回収しなけりゃならないのか? この地球で破壊されても、それはそれで構わないような気がするんだがな。まあ、その場合は俺の命もジ・エンドだけど。

 ひょっとするとメチャクチャ高価だからか? 開発費やらなんやらで天文学的な費用が掛かっていそうだからな。地球の戦闘機を一機開発するだけでもすごく金が掛かっているらしいし。最近じゃ大国以外は資金面で自国開発を断念して数か国で共同開発するのが当たり前だしな。
 超貴重な鉱物とかエネルギー元を使っているという可能性もあるな。もう二度と同じ物を造れないとか。それならば是が非でも回収したい気持ちも理解出来るが。

 俺の命を守りたいとかって理由では無いと思う。宇宙人から見れば未開の辺境惑星の原住民程度にしか思っていないだろうから。もっとも、ミリアは半分地球人だからそんな風には思ってはいないとは思うが、上層部からの命令とかだったら従わないわけにはいかないだろうし。
 そもそも銀河連邦警察は地球の警察じゃないんだから、地球人を守ってくれるのかどうかも疑わしい。地球に来訪した宇宙犯罪者だけを取り締まっているのかも知れない。

 ミリアは銀河連邦警察の地球駐在所勤務だと言っていた。日本の警察と同じシステムだとすると、交番と違って駐在所は一人の警官が住み込みで勤務している場所だ。ミリアには詳しく聞かなかったが、やはり一人で勤務しているのだろうか。
 見習い警察官だから教育係の上司と一緒に勤務していると言う可能性も無くは無いが、ミリアは一人で巨大戦艦を操っていたし、この事態でも応援が来ない所を見ると、やはり一人で勤務しているのだろう。
 見習い警察官一人に地球を任せているって事は、宇宙人にとっては地球なんてそんなに守る価値が無いって事だ。
 ミリアの能力が優秀で正規の警察官に匹敵、又は上回っているという可能性も充分に考えられるけれど。
 生身での射撃は危なっかしかったが、それ以外の対処の仕方はAIのサポート付きではあるが必要にして十分だと俺は感じた。相手があんな超ラスボス級のバケモノじみた力を持ったササラじゃ無かったら、とっくに犯人を確保出来ていた筈だ。



「なあミリア、俺はミリアが自爆してササラを止めようとしている様にしか思えないんだが、そこまでする必要性って何だ?」
【『罰野君、わたしが小さい頃お父さんの転勤で地球を離れたって話したの覚えてる?』】
「え? あ、うん。覚えてる」
 突然何の話?
【『その頃、わたし大好きな男の子が居たのよ』】
 うっ、なんかショッキングなカミングアウト! まあ、好きな男の一人や二人居てもおかしくは無いけど、やっぱりちょっとショック。
【『それでね、お母さんの里帰りで地球に戻って来た時、その男の子の家に会いに行ったのよ』】
 超美少女のミリアの幼女時代って、やっぱりメチャクチャ可愛かったんだろうな。
【『でも、もうその家には住んでなくて、近所で聞いても誰も引っ越し先を知らなくて』】
 ああ、そういう事ってあるよな。俺の家だって俺が保育園の頃に親父がやってた事業が失敗して、夜逃げ同然で引っ越したらしいし。まだ俺は小さかったから薄っすらとした記憶しか無いが。
 その後各地を転々と移り住んで、親父が苦労してまた始めた事業がそこそこ成功したらしく、その頃の借金も全部返済して、ようやく何とか普通の暮らしが出来るようになったのは俺が小学校高学年の頃だった。今では裕福とは言えないが、そこそこの生活が出来ている。
 一時は苦労もしたけれど、頑張ってくれた親父には感謝しかないな。親父を見捨てずに支えた母ちゃんも尊敬している。

【『その頃から今までも、ずっとその男の子が好きなの』】
 くっそーっ! その男、羨ましすぎるぜっ! 目の前に居たらぶん殴ってやりたい!!
【『銀河連邦警察の見習い警察官になったのは、お父さんの職業に憧れていたのもあるけれど、警察官になればその男の子を探し出せるかも知れないと思ったから』】
 なるほどな、そういう事情とかあったのか。
【『地球は銀河連邦に正式に加入している訳じゃなくて、その存在も大国の一部の人しか知らないけれど、見習いを卒業して正式な警察官になれば地球のあらゆるデータベースにアクセスする権限が与えられるの』】
 それでその男を探し出そうって事か。

「じゃあ、まだその男の子には会えていないって事なんだよな?」
【『会えたわ。ホントに偶然なんだけど』】
 ああ、会えたのか、良かったな。でもちょっとその男が憎らしい。
【『でもその男の子はわたしに気付かなかった』】
 それは無理もないだろう。幼女の頃も超絶可愛かったと思うが、こんな美少女に成長しているなんて思いも寄らないだろうから。俺だって未だにミリアの顔を直視出来ないからな。

【『わたしはずっとその男の子の事が好きだったけれど、小さい頃の話だから、その男の子はもうわたしの事なんか忘れてしまっていると思う』】
 俺だったら絶対忘れたりしないのにっ!
【『わたしもその時に名乗らなかったんだけど』】
「なんで?」
【『緊急事態が発生したから』】
 うーん、そいつは気の毒だが仕方が無いかも知れない。だって警察官だもんな。


 会話の途中で突然、バリア内にとんでもない爆音が轟き出す。
 バリアの頭頂部に亀裂が入った為だ。
 ミリアが外部の音も聞こえるようにインカムを切り替えてくれてからは、今までにもバリアを殴る音は聞こえていたが、音量は自動調整されているらしくそれほどの音量ではなかった。それがバリアに入った亀裂の為にバリア内にも反響して、耳がおかしくなるほどの大音量になった。身体全体にもビリビリと轟音の振動が伝わって来る。

 これでは本当に今すぐにでもバリアは崩壊する。




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