第3話 ぱっつん少女だな - 2

文字数 2,642文字

 彼女の説明によるとこうだ。なんでも、俺の体の中には一体でも惑星を制圧できるように開発された試作軍事用強化装甲とかって代物が入っているのだそうだ。
 そいつが最終テストで暴走して惑星を二十三個も破壊して逃走。フル装備の満漢全席だったそいつは東京ドームほどの大きさで、追っ手の艦隊を返り討ちにしながら逃げ回り、激しい戦闘でオプションパーツを徐々に失っていき、最後に追い詰められた瞬間、忽然と消え失せて行方が分からなくなったのだそうだ。懸命な捜索にも関わらず未だに発見出来ず、全宇宙で指名手配中だということだ。
 オプションパーツは宇宙の各地で回収されており、その総数と最終戦闘での記録から現在はほぼ人間大の素体の状態であると予想されているが、それでもまだ一つの惑星上を全て壊滅させられるほどの能力を有しているのだという。

 で、そんなものが人間の体の中になんで入れるのかって言うと、元々そいつは人間が着込むためのもので、人間と融合して戦闘時に瞬時に体の表面に表われて、いわゆる変身! みたいな事ができる設計なんだそうだ。
 彼女の星にはそういった戦闘服の着装方法が何種類か有って、自分自身で自力で着るタイプ。電送や亜空間移動で装着されるタイプ。強化改造して肉体そのものを変化させるタイプなどが有る。
 だが自力装着タイプは持ち運びにかさばり不便で破壊能力の上限にも限界が有り却下。
 ブレスレットやベルト等の小型の装置から展開される薄型の強化服は、携帯性は良いが防御能力と破壊能力の両方の上限に限界が有り却下。
 転送系は敵地の奥深くの建造物や地下施設まで潜入を行う作戦では転送機や中継器が近くに必要で、たとえ成層圏外にステルスモードで小型転送母艦が待機していたとしても万が一の発覚の危険やジャミングを恐れて却下。
 肉体の強化改造は人道的見地により基本的には生死の境を彷徨(さまよ)うほどの重傷者にしか施されない。しかし(おおやけ)にされない極秘の闇の部分については知りようがないが、優秀で健康な肉体の若者に強化改造を行っているという噂は真偽のほどは定かではなくとも漏れ伝え聞いているらしい。そしてやはり破壊能力の上限や火力不足により却下。
 そして軍事産業数社のコンペで勝ち残ったのが人体融合タイプだった。強化改造とは違い、生身の肉体への負担はほとんど無いらしい。脱ごうと思えば割と簡単に脱着できるそうだ。
 目玉機能として、もしも装着者が負傷したり気を失ったりした場合は内蔵されているすごいコンピューター的なやつが全自動で自律防御や攻撃を行うんだとか。で、まさにその装着者無しのテストでソフトかハードのどっちかで不具合が出て暴走したみたいだ。

 その強化装甲がなんで俺の体の中に有ると彼女が思ったのかというと、俺がコミックスを買いに立ち寄った書店で偶然彼女も本日発売の『ディバイダ・ガール』の新刊を買いに来ていて、何もない所で(つまづ)いてよろけた拍子に俺にぶつかったんだそうだ。ドジっ()属性って事か?
 ぶつかって超至近距離だった為か探知機が反応し、解析結果で間違いなく失踪した強化装甲だと断定。人通りのない場所まで尾行した後に人間と融合していた場合のマニュアルに沿ってあのギャラクティカなんちゃらキックを俺の後頭部にお見舞いしてくれたという事らしい。

 あれ? でもちょっと変だな。確かに本屋で女の子にぶつかられた記憶はある。めっさ柔らかい物体が二つ、ポヨヨヨヨーーンて感じで俺の背中に押し付けられた感触は今でもハッキリと覚えている。死ぬまで忘れることはない。瞬時におのれの遭遇した状況を理解し、思わず鼻の穴が開き、はううううっとのけぞってしまったのは自分だけの秘密だ。チョーラッキイーーって心の中で叫んだ記憶もしっかりとある。
 でもこんな金パッツンで胸ぱっつんな美少女じゃなかったぞ。あ、いや胸ぱっつんな所は同等だったかもしれない。しかし雰囲気とか顔とか全然違ってたような気がする。んーとたしかもっとこう地味な感じで髪は黒くて三つ編みで、牛乳瓶の底のようなメガネをかけたセーラー服姿の女子だったような気がするんだけどなあ……。

 彼女の荒唐無稽なSF風宇宙物語的な説明は一応一通り聞き終わった。
 これは何だろう。俺が今までに読んだマンガや小説、観たアニメや特撮にもこんなような似た感じの話は有ったと言えば有った。ドンピシャなのは思いつかないが。まあ、世界中に溢れかえっている物語を全部読んだり観たりするのは不可能だから俺の知らない話が有っても不思議ではない。
 だが俺の嗜好的にはかなり興味が惹かれる設定であるのも嘘偽りのない事実であると認めざるを得ないだろう。
 ひょっとしてこの少女はマンガ、若しくは小説なんかの創作活動を行っている可能性も否定できない。今ならばSF宇宙物より異世界転生物を書いた方がウケそうだからそっちのほうが良いのではないかと忠告してあげるのが親切というものかもしれない。
 しかし信念を持って自分の好きなジャンルを書き続けるという行為を決して否定したりはしない。むしろ積極的に応援をしていきたいという心境だ。

 さて、ここで一つの疑問が発生する。彼女の説明が彼女の創作物であったと仮定すると俺に接近してきた真の目的とはいったい何だったのか、という疑問だ。
 本屋で偶然俺と遭遇したというのは本当だろうか。以前から監視されていたという可能性も無きにしも非ずだが、理由は皆目見当がつかない。
 『ディバイダ・ガール』の新刊を買ったというのは本当のような気がする。大ファンなんですってキラキラした笑顔で言ってたし。うん、かわいい。
 本屋で胸部を押し付けてきたメガネっ()と目の前のコスプレ少女が同一人物かもしれない説。まあ、コスプレ少女なんだからコスプレすればコスプレ少女になれるのはおかしくはないな。たまげるほどの変化ではあるが。
 ただ、俺が本屋からこの路地まで歩いて来た短時間の内に着替えられるものなのだろうか? バッグ等に入れて持ち歩いているか、セーラー服の下にすでに着ていた。若しくは自宅がこの近辺に有り、速攻で着替えて来た。とかか。
 ちなみに彼女の着ていた黒の冬用のセーラー服はここいら近辺の学校の制服じゃなかったな。どこか他所から遊びに来ていたか、セーラー服自体がコスプレ用だった可能性もあり得る。




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