第7話 プッツン少女かよ - 2

文字数 4,006文字

「お前が大魔王だったとは驚いたぞっ! さすがは天才魔法使いのササラちゃんだっ。ピンポイントで大魔王の目前に転移出来ていたなんてっ! ササラすごいっ! ササラえらいっ!」
 何言ってんだこいつ?
「罰野さん、大魔王だったの?」
「そんな訳ないだろっ! どっからどう見ても普通の高校生だろがっ!」

「しらばっくれるな大魔王っ! 二千年前に伝説の白騎士様に力を借りて、ササラのお爺ちゃんの大魔法使い、アングリーズ・マーリンに倒された事を忘れたかっ!」
「いや、忘れるも何も知らねーよそんな事。てか、倒されたんだろ? その時にっ。てか、ササラの爺さんって二千年前から生きてんのか? そっちの方が驚きだが」
「お爺ちゃんは今でもピンピン元気に生きてるよっ。お婆ちゃんが亡くなって、今は若いガールフレンドと付き合ってるしな。ササラが最後の孫じゃ無くなる可能性もあるぞ。百人越えた辺りで数えるのをやめたみたいだけど、今んとこササラの父様(とうさま)が最後の子供だからな」
 うう、すごいな絶倫爺さん……。(俺も出来ればそうなりたいもんだ)

「二千年前に大魔王が倒されてその核が飛び散った時、何個かの欠片(かけら)が異次元に消え去ったってお爺ちゃんが言ってた。復活の恐れがあるから巨大な異次元魔力探査装置をお爺ちゃんが作って、二千年間ずっと監視してたんだ。そうしたらついさっき一瞬だけ反応が出たのをササラが偶然見つけて、それで大魔王を一人で倒してやろうと思ってお爺ちゃんに内緒で急いでこの世界にやって来たんだ。小型の魔力探知機にもさっき大魔王の反応が出たし、間違いなく大魔王はお前なんだよ!」
「ちょっと待てササラ、大魔王の核の欠片が消えたのって二千年も昔の事なんだろう? 俺はまだ十五だぞ、計算が合わんぞっ」
「そんな事知らないよっ。探知機が大魔王だって言ってるんだからねっ。絶対バツが大魔王なんだからねっ!」
「それは、こういう事かも知れないわね」
 ミリアが真剣な顔をしてなんか語りだした。

「核の欠片が完全に魔力を隠蔽(いんぺい)してどこかに潜んでいたか眠りについていて、いつかは分からないけれどそれが罰野さんの身体に憑依したとか、二千年前にこの世界に来て人間に融合して人として生きて、死んだ後もその魂は輪廻転生を繰り返して今の罰野さんに生まれ変わったとか、実は核の欠片から復活した大魔王が罰野さんそのもので、わたし達に嘘を言っているか、又は自分の記憶を操作して大魔王自身が普通の人間の罰野さんだと思い込んでいるか。その場合、罰野さんは二千年間生き続けて来たって可能性も有るわね。そうすると家族や知人は洗脳した他人だとか、泥から作り上げられた人形だとか、いえ、いっその事それらは全部自分の脳内だけの妄想に過ぎなくて、家に帰っても暗い部屋で一人でポツンと見えない家族に向かって語りかけて……」
「ちょーっとちょっとっ! ミリアさんっ! 何怖い事言っちゃってるんですかっ!」
「あら、有りえるかもしれない可能性の考察よ」
「しないで下さいよっ、もし最後の方が本当だったら俺が怖いっ」

 ミリアの考えはさて置き、俺の身体にはミリアの言っていた強化なんちゃらみたいに大魔王の欠片が住み着いているのかもしれない。それが本当の話だったとしたら、俺の身体って厄介な奴の避難所かなんかなのか? (そうかもな)(違うかも知れんぞ)

「ササラちゃんの話で、一瞬だけ反応が出たのってわたしが罰野さんの頭にキックを打ち込んだ瞬間の時だったのかも知れないわ。マニュアル通りならあのキックで強化装甲の強制分離が可能だった筈なのに分離出来なかった。何か別の力が働いて分離を阻止されたのかも知れない。その時に一瞬だけ外部に魔力が放出されたとも考えられるわ」
 はー、ササラがこの世界に来たのってミリアのせい? 俺のせい? (さて、誰のせいなのやら)(全てはどこぞの誰かに仕組まれた事かも知れんぞ)(アハハっ、それって面白ーいっ)


「ササラちゃん、それであなたは罰野さんをどうするつもりなの?」
「もちろんそんな事決まってるっ。大魔王を倒して核を完全に破壊するのだっ!」
「おいっ、ちょっと待てササラ!」
 ササラの持つ、ササラ(いわ)く超一級品で超貴重品だというすんごい魔法樹製のステッキの先端部分が眩しく光り輝き、光の玉みたいになっている。それってまさか。
「滅びろっ! 大魔王っ!」
 やっぱりかっ、俺に向かってぶっ放して来やがった! 
「あれ、でも……」
 俺は頭を左にひょいっと傾けて光球を(かわ)す。耳元を光球がブンブン言いながら通り過ぎる。
()けるなっ!」
「避けるよっ!」
「そんなら今度はこうだっ」
 ササラはステッキで自分の周りに次々と光球を作り出し、空中に浮かばせている。おいおいっ。
「全弾一斉発射っ!」
 無数の光球が一斉に俺目がけて飛んで来る。こいつはヤバイか?
「よっ、はっ、とっ、ヨイショっ」
 俺は身体をぐねぐねカクカクさせて全弾躱した。俺ってスゲー。こんなに動体視力や運動神経が良かったんだ。知らなかったぜ。
「どうだササっ……」
 ササラに向かってドヤ顔で言いかけた瞬間、がつーんとデコに光球が命中した。時間差かよっ! やるじゃんササラ。(あなど)ってたぜ。(気を抜くからだ)(アホだな)

「いっ、痛ってーーっ」
 デコ痛ってーけど、これは軟式野球の軟球が当たったぐらいの痛さだ。何十発も当たれば分からんが、数発程度なら耐えられる。天才魔法使いなんて自称していたが、所詮は小学生、この程度の力だったな。

「もうやめろササラっ。お前の魔法じゃ俺は倒せん! やめないとお尻ペンペンの刑に処すぞっ。それともほっぺたむにゅーの……って、お前、それ何やってる?」
 ササラは一体どこから出したのか、奇妙な形をしたバズーカ砲みたいな黒い大砲を脇に抱えて構えている。そのでかい砲口は周りに魔法陣を浮かび上がらせ、ブンブンと唸りながら輝きを増している。なんか、コイツはやばそう。いや、絶対やばいだろこれっ、激ヤバだろこれっ!

「あ、この数値は危険だわっ」
 ミリアがゴツいスマホもどきを見ながら呟く。え、危険なの? やっぱり?
 ドガーっと言う物凄い轟音を発しながら砲口から輝く太いビームが放たれる。
 あ、これは死んだな、俺。短い一生だったなあ。生まれ変わったら今度は可愛いギャルにモテモテのイケメンになりたいなあ。
 もしくは異世界へ転生して、俺TUEEEで無双するのもいいかもなー。

 目の前で狂暴なビームの輝きが荒れ狂う。火花と灼熱の火炎が(ほとばし)る。
 俺の前に立ったミリアがそれをクロスした両腕で受け止めている。両腕のそれぞれから半透明で円形に輝く光のシールドが展開され、その二つがビームのパワーに(あらが)っている
 弾かれた迸るビームの本流は雲を吹き飛ばし空へと吸い込まれた。弾ききれなかったビームが民家のブロック塀を粉々にし、近くの神社の大木を容赦なくなぎ倒す。

 ミリアの全身から薄い煙が立ち(のぼ)っている。胸ぱっつんのコスプレ衣装が所々焦げて焼き切れている。
「ミリアさん、身体から煙が出ているけど大丈夫か? 火傷(やけど)してるんじゃないか?」
「火傷は大丈夫よ。シールドでほとんど防げたし、宇宙連邦警察の制服は耐熱耐寒防弾仕様だから、表面はちょっと焦げたけど身体は守られているわ。それに今冷却機能がフル稼働していてちょっと涼しいくらいよ」
 宇宙技術スゲー。
「命拾いしたよ。ありがとうっ」
「お礼なんか言わなくてもいいわよ。強化装甲を回収する任務を遂行する為には、罰野さんごと消滅させられたら困るもの。それに罰野さんに死なれたらわたし、きっと悲しいと思うから」
「ミリアさん……本当に助かったよ」
 ミリアがいなかったら俺は確実に天国へ行ってたな。一瞬去年死んだ婆ちゃんが川の向こう岸のお花畑で俺の名前を呼びながら笑顔で手を振っているのが見えたもんな。

「ミリアお姉ちゃん、ササラの邪魔をしないでよっ。大魔王は絶対にササラが倒さなきゃいけないんだよっ。お爺ちゃんが二千年前に完全には成し遂げられなかった大魔王討伐の偉業を、この千年に一人の大天才魔法使いササラが成し遂げるんだから!」
 やめてくれよササラ、そんな偉業を成し遂げられたら俺がやばいじゃん。

 再びササラの持つ大砲の砲口が輝き始める。
「まずいわっ、これ以上周辺の被害は出せない。さっきの爆発音を聞いて住民が集まって来るはずだから怪我人が出る恐れが有るし、この状況を見られたくない」
「でもササラはやる気満々だぞ」
 ミリアは右手を開いて空に向かって突き上げ、そして叫ぶ。
「メイティス、バトルフィールドへ転送して!」
[[了解。転送シークエンス開始シマス]]
 機械っぽい女性の音声が返事をした。
「めいてぃすって何だ?」
「ウインブレイバー、超時空戦闘要塞に搭載されているAIの名前よ。普段はメイちゃんって呼んでるけどね。ちょっと堅物だけどいい子よ」
 AIに良い子悪い子ってあるんか?
「ついでに言うとバトルフィールドは亜空間に有る戦闘用の疑似空間で、戦闘で周辺に被害が出ないように対象者をそこに転送するのよ。あ、始まった」

 周囲に赤いオーロラのカーテンみたいな物が広がって行く。景色がぐにゃっと歪んで薄くなる。見上げると空は黒く染まり星空の様だが、頭上を中心として無数の星々が俺達の周りを取り囲むようにして回っている。すぐに回転は超高速となり、星々は一本の線の様に繋がる。空全体が白く輝いて強烈な光を放ったと思った瞬間、俺は見た事も無い荒野みたいな場所に立っていた。




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