第11話 プッツン少女かよ - 6

文字数 3,119文字

 魔法陣は確か、魔力を増幅したり発動させたり、何かを召喚したり封印したりする時に用いられる図形の事だよな。図形の形や配置、書かれた記号や呪文とかによって効果が変わる物だったと思う。これはやっぱり魔法じゃなくて魔術だよな。

 魔術は魔法と同じような効果を再現するために、既知の物理現象とかを複雑に組み合わせて人間が考案した物だった筈だ。それは術式って呼ばれる物で、呪文の詠唱や魔道具や触媒などを使用して発動出来る現象だ。言わば魔術は化学方程式ならぬ科学方程式って呼んでも差し支えない感じの物だ。
 羽や翼を使わずに空を自由に飛び回るなんて方法は俺のこの世界じゃまだ究明されていないが、異世界の魔法の国では既知の物理現象なのだろう。プラズマ技術の応用で可能だとかの噂は聞いた事があるから、もしかすると超大国の軍事部門では既に実用化されているのかも知れない。地球産のUFOとかな。
 魔術はオカルトチックではあるが、宇宙の超科学とそんなに変わらん物なのかも知れんな。

 ササラが空を飛んでいる時には両足の裏に小型の魔法陣が現れている。ミサイルが飛ぶ時にも噴射口辺りに魔法陣、ビーム砲にも魔法陣が現れていた。ササラが何度も自分で天才魔法使いだと連呼していたから、半ば洗脳されたように魔法を使っていると思い込んでいたが、これは、あれだ。
 ササラは魔術を使っている。


(すなわ)ちササラは魔法使いでは無い! 魔術師だ!』


 唯一ササラが使った技で魔法と呼んでもいいと思える物は、魔法のステッキを使ってはいたが俺に向かって打ち込んで来た光球ぐらいだろう。ただし、軟式野球の軟球並みの威力だったがな。
 魔力を増幅させると言っていた魔法樹のステッキを使ってもあの威力だ。大天才魔法使いなどと自称してはいたが、魔法は使えるには使えるのだろうが、実は全然低レベルの魔法しか使えなくて魔術に頼っている似非(えせ)魔法使いなのだろう。
 魔法と魔術とどっちが凄いかと言えば、個人の技術や能力の優劣によっても異なるだろうが、やはり超常現象的な魔法のほうが凄い気がする。魔術は科学で再現可能かも知れないが、魔法の再現は不可能に近い気がする。
 まあ、まだ小学生だしな。虚勢を張って自分を大きく見せたかったのだろう。俺も小学生の頃はそんな感じだったような気もするしな。

 しかし、さっきから俺はこんなどっちでもいいような事をダラダラと考えているが、それがいったい何になるんだ、なんて我に返ってふと思ったりするが、まあ、どうでもいいような細かい事を気にするのは俺の昔からの癖だから仕方がないけれどな。例えササラが魔法使いじゃなくて魔術師だったとしても宇宙超科学のミリアと互角に渡り合っているのだから、それはそれで凄い事だ。
 ミリアがまだ研修期間中の見習い警官だという事も有るのかも知れないが、まだ小学生だという事実を加味して考慮しなくても、めちゃくちゃ物凄い事だと思う。天才魔法使いでは無くとも天才魔術師だという事は紛れも無い事実だ。俺は絶大なる賞賛をスタンディングオベーションでもってササラに送りたい気分だ。
 が、ササラよ、そんなに頑張らないでおくれよ。お前が凄いのは十分に分かったからさ。適当な所で負けて降参しておくれ。それで何とか双方の納得できる妥協点を見つけ出そうぜ。和解しようぜ。
 俺は特にお前に対してまだそんなに悪い感情を持っている訳じゃない。そりゃあ二度までも命の危機に晒されはしたが、それはお前が爺さんの完全には成し遂げられなかった大魔王討伐と言う偉業の達成を、小学生に有りがちな無邪気な功名心みたいな物でやり遂げたいだけだろうからな。
 和解出来れば今後は俺の中に有るらしい大魔王の核とやらの取り出し方とかを、ミリアにも協力して貰って一緒に考えて行こう。そうなればお前が好きそうな甘いお菓子なんかも買ってやるぞ。俺の可愛い妹分にしてやってもいい。あ、でもくれぐれも誤解の無いように言っておくが、俺は別にロ×コ×じゃないよ。


 その時突然、俺の隠れていた岩のすぐ横で大爆発のような物凄い轟音と共に大地震のような強烈な激震が起こった。土砂が空高くまで舞い上がっている。
 考え事をしている時の突然の不意打ちは卑怯だぞっ! 俺は心臓が口から飛び出るんじゃ無いかと思うくらいに驚いてその場に尻餅をついた。今日何度目の尻餅だ? 俺の尻、大丈夫か?

 土砂が上空高くから降り注いで来るのが止むのを待って、俺は出来立てホヤホヤのクレーターの深い穴に近づいてみる。
 ササラが漁師が使う投網のような物で雁字搦(がんじがら)めにされてミリアの装甲戦闘服に抑え込まれている。装甲戦闘服には重火器だけじゃなく、相手を確保する装備も搭載されているようだ。一応警察の機体だから、犯人確保用の装備が有ってもおかしくは無い。と言うか何時(いつ)も全員蜂の巣にしてちゃ犯人が可哀そうな気もするしな。
 ササラを(とら)えている金属製の網が時々光って小さな放電を放っている。ササラは何度も魔法陣を展開しようとしているようだが、その度に魔法陣はガラスが割れるように虚しく砕け散っている。

 俺はインカムを使ってミリアに呼びかける。
「ミリアやったな! 遂にササラを捕まえたじゃないか!」
【『あ、罰野君。メイちゃんのサポートのおかげも有って、何とかササラちゃんの身柄の確保に成功したわ』】
 メイちゃんって確か超時空なんちゃらに搭載されているメイティスとかって名前のAIの事だよな。やっぱりサポート付きでの戦闘だったのか。どうりで射撃が命中し過ぎると思ってた。生身での射撃は危なっかしかったからな。自分でもまだ練習中でどこに当たるか分からないとか言ってたし。
【『今からササラちゃんを穴の底からそちらに引き上げるわ。危ないから罰野君は少し離れていてね』】
 ミリアはそう言うと装甲戦闘服のメインノズルを軽く吹かしてササラをぶら下げたままゆっくりと穴の底から上昇して来た。さっき飛び立つ時には頭のおかしい急加速だったが、緩やかに上昇する事も出来るようだ。舞い上がる砂埃もさっきに比べりゃ可愛いもんだ。

 しかし、間近に立って見上げると装甲戦闘服ってどデカいよな。四メートルくらいの大きさだが、その重量感の有るマッチョで厳つい姿から放たれる威圧感はハンパ無い。
 機体の足の長さや可動部分や装甲の厚さなんかを考えると、立って乗っているんじゃなくって座席に座って乗っている感じなのかな。もちろん大きさからして一人用だろう。装甲戦闘服って名前らしいが、絶対にこれは服じゃないよ! ロボだよロボっ!

「コラーっ! 大魔王ーっ! こっちへ来ーいっ、この大天才魔法使いのササラが討伐してやるーっ! こっち来ーいっ!」
 ササラが雁字搦めの網の中でもがきながら叫んでいる。魔法陣が浮かび上がっては砕け散る。
 そんなに暴れるなよ。パンツ丸見えだぞっ、はしたない。
「ミリア、ササラの魔法、いや魔術は大丈夫なのか? (そば)に居ても危なくないのか?」
 チキンな俺はちょっとササラにビビりながらインカムでミリアに尋ねた。
【『今はもう大丈夫よ。銀河連邦警察の装甲戦闘服には対魔法装備が搭載されているから。宇宙犯罪者の中には魔法や超能力を使う危険な星人が居たりするから標準装備されているのよ』】
 銀河警察スゲー。でもそんな機能が標準装備されてるって、宇宙犯罪者ってそんなに頻繁に魔法や超能力を使ったりするのか? 宇宙犯罪者コエー。絶対会いたくネー。







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