第9話 プッツン少女かよ - 4

文字数 3,481文字

 本日二度目のお婆ちゃんの笑顔が脳裏に浮かぶ。優しそうな笑顔で俺の名を呼びゆっくりと手を振っている。何か言っているような気もするが良く分からない。お婆ちゃん、俺今度こそダメみたいだよ。
 その瞬間、身体全体に途轍もなく大きな衝撃が走り、俺は巨大な荒波に飲み込まれて翻弄される小舟のように上下左右も分からないもみくちゃで無茶苦茶な混沌状態に陥った。
 激しい衝撃と振動の中、気が付けば俺は冷たくて固いごつごつとした何かに身体の前面を強烈な力で押し付けられていた。背中から潰れそうなほどの圧力が掛かっている。
「潰れるっ! 出る! 出ますっ! 身体中から何もかも……っ!!」
 身体には強烈な圧迫に加えて更に暴力的な加速Gが加わり、俺の意識はブラックアウト寸前だ。
 意識を失うかと思った瞬間に又もや強烈な衝撃が身体を襲い、急制動が掛かったように一瞬本当に身体中の何もかも、魂までもが何処かに飛んで行ってしまいそうな感覚に襲われた。加速Gは嘘のように消滅したが身体への圧迫は継続中だ。
 圧迫が緩まり目を開けると俺は分厚くて冷たい金属の胸に太くてごつい金属の腕で抱き絞められていた。顔のような部分には分厚いガラスが嵌められた細いスリットが有り、そこからミリアの目が覗いている。
 どうやらこれはミリアが着て来ると言っていた装甲戦闘服って奴らしい。全高は四メートル程も有り、青み掛かった濃いグレーの艶消しの機体は全体的に曲線の多いデザインだが、重量感の有るずんぐりとしたマッチョなシルエットをしており(いか)つい印象を与える。
 背中のバックパックには大型のスラスターが後方に向けて二基下方に向けて二基設置され、右肩後方にはキャノン砲らしき物が上を向いて装備されている。右手にはトリガー前方にドラムマガジンの付いた大口径の短めのゴツい機関砲を持ち、バックパックの下方、腰に当たる部分に予備のマガジン二個と割とスリムなライフル一丁を装備している。
 これは着ると言うよりも操縦していると言った方が近いような気もする。

「罰野君大丈夫? 間に合って良かったわ。潰れちゃったりしてない?」
 あなたに潰されるんなら本望ですよ。熱い抱擁をありがとう。
「ああ、大丈夫だ。危機一髪だったよ。またミリアに助けられたな」
 さっきまで俺の居た地面に巨大なクレーターが出来ている。穴の底は真っ赤に煮えたぎり、そこからは黒煙と白煙とが入り混じった煙が空高くまで立ち昇っている。その煙は辺り一帯にも濃密に立ち込めて視界を遮っている。
「わたしまだ訓練中で、いつもは卵のパックを抱いて人質の救出訓練とかやってるんだけど、本物の人間の救出とか初めてだったから潰さずに成功して良かったわ」
「うん、訓練の成果はバッチリ出ていたよ」
 乗り心地は最悪だったが兎に角助かった。訓練で卵を割らずに成功した確率とかは聞かないでおこう。今回の成功がまぐれだったりしたら怖いからな。
「訓練の時は食べ切れないほどの卵料理が続くからイヤになっちゃうんだけどね」
 聞かなかった事にしよう。

 ミリアの熱い抱擁から解放されて地面に降ろされた。ちょっぴり残念でもある。分厚い装甲板越しとは言え、美少女に抱き締められていたのだから当然の心理だ。全世界の男と名の付く生き物ならば、誰しもが必ずそう思うはずだ。例外は無い。
 出来ればもう一度その鋼鉄の腕に抱き締められたい。豊満なその分厚い装甲板の胸に顔を埋めてくんかくんかしたい。例えそれが金属の塊で有ろうとも俺の脳内変換にかかればそれはもう生身の裸体の女性も同然。桃色パラダイスの桃源郷に浸りきり、無限の彼方までのグレートジャーニーなど俺にとっては朝飯前。全然余裕。赤子の手を捻るよりも簡単で造作も無い事だ。

 そんなグラマラスボディーから降ろされた後、ミリアにインカムと折りたたみ式のオペラグラスのような薄っぺらい双眼鏡を渡された。渡されたインカムはワイヤレスイヤホンよりもっと小型で耳の中にすっぽりと隠れる。右耳に装着してみると外部の音もそのまま自然に聞こえて来る。マイクは別途必要という事も無くこれ単体でミリアと会話が出来るらしい。
 まあ、この程度の技術など地球でも近い内に実現出来るだろう。驚くには当たらない。宇宙人だからと言って天狗になっていられるのも今の内だ。
 当然の事だがミリアが天狗になっていると言っている訳では無い。ミリア以外の全宇宙人に言っているのだ。ミリアは天狗でもいい。その価値は十分過ぎるほどに有る筈だ。なんなら天狗の女王様になって俺を鞭でビシバシとしばいてくれてもかまわない。いや、むしろしばかれたい。しばき倒されたい。でも誤解の無いように言っておくが、俺は別にMじゃ無いよ。

「罰野君、わたしこれからササラちゃんを説得してみるわ」
「説得に応じなかったらどうするんだ? あの魔法小学生は人の話などには聞く耳持たんって感じだが」
「言葉で無理だったら……そうね、その時は(こぶし)で語り合う事になるわね」
 あ、肉体言語って奴ね……。
「じやあ、行って来るわね罰野君」
 ミリアはそう言い残すと俺から離れ、装甲戦闘服の背中の全スラスターを一気に全開にした。爆発的な加速度で一瞬にして上空に達する。
 俺は飛び立つ装甲戦闘服から大分離れていたとは言え、その強烈な衝撃波と爆風とで身体がよろめいて尻持ちを付き、大量の土埃を浴びて咳込む。
 あんな頭のおかしい馬鹿げた急加速で上昇すれば普通は搭乗者がGでどうにかなってしまいそうなものだが、やっぱり慣性制御とかやっているんだろうか。中に乗っていると感じないのかも知れないが、俺はさっき救助された時に加速Gだけで潰れそうだった。まあ、助かったんだからミリアに文句を言うつもりはさらさら無いが。

 ミリアが上空に到達した瞬間にいきなり激しい銃撃音と爆発音が轟き、立ち昇る煙の向こう側に幾つもの爆発の閃光が煌めくのが見える。
「いきなり肉体言語かよ! 言葉で説得するんじゃないのかよ!」
 煙を突き抜けて俺の近くに流れ弾が着弾して大穴を開ける。
「あぶっ、あぶねっ!」
 どちらが撃った物か分からないが、これではうかうかと見物もしていられない。俺は大岩の陰に隠れてみるが、この岩程度で防ぎ切れるのかどうかの判断は俺には出来ない。

 もっと二人の闘いを良く見たかったので、学生服の胸ポケットからミリアに渡された双眼鏡を取り出す。丁度ポケットティッシュぐらいの厚さと大きさだ。どうやら折りたたみ式のオペラグラスのように上下にパカっと開く訳では無いらしい。対物レンズはポケットティッシュの厚さ分の小さな四角い長方形の物が二つ付いているだけだ。その二つのレンズに挟まれて三つの丸いガラスの部分が有る。センサーとかだろうか。どうやら光学式のズームでは無くデジタル式ズームのようだ。
 双眼鏡を目に当てて覗いて見ると、立ち昇る厚くて黒い煙はまるでそこに存在しないかのように向こう側の景色がクッキリハッキリと見える。スゲーな宇宙双眼鏡。
 二人は何処かと探す。煙の向こうでチカチカと激しく光っている辺りを見てみる。

「うわっ! パンツの()アップ!!」

 空中に静止していたササラのお子様パンツが下からのアングルで丸見え状態だ。小学生のお子様パンツなどに俺は興味は無い! 俺はロ×コ×じゃ無い! そんな物など見たくは無い! すぐに目線を外すんだ!
 だが、何故か奇怪な事に俺の身体は金縛りに遭ったかのように動かない。二つの眼球は油が切れて錆で固着したかのように一点しか見つめられない。
「俺はロ×コ×じゃ無い、俺は×リ×ンじゃ無い、俺はロ×コ×じゃ無い、俺は×リ×ンじゃ無い、俺はロ×コ×じゃ無い、俺は×リ×ンじゃ無い、俺はロ×コ×じゃ無い」
 俺は呪詛のように呟き続ける。
 その時ササラが瞬間移動をしたかのような高速移動をして、お子様パンツは視界から消え去る。反射的に双眼鏡でその姿を探すが見つからない。
「ああ……残念……」
 いや違う! 違うんだお巡りさん! 俺はロ×コ×じゃ無い! 残念などと思う筈が無い! ただ奇怪にも超自然の抗い難い強力な力が働いて俺は、俺は金縛りに遭っていただけなんだ!! 信じてくれお巡りさん!! (ワシはロ×コ×じゃが)(やーね、エロじじい)(ギギ、ギギギギッ)(え、そなたもかえ?)(%$#=~\\♪)(アハハっ)(ボクは、ボクはっ)





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