第13話 プッツン少女かよ - 8

文字数 3,539文字

 巨大戦艦からササラに向かっての一斉射撃が始まった。戦艦から多彩な色のビームやミサイルやその他、俺には良く分からないような兵器からの光線が発射されている。

 主砲だと思われる一番太くて長い砲身の三連砲塔が艦の上部に二基、下部に一基有り、それぞれの砲口から激しく渦を巻いた黄色く光る太いエネルギー弾のようなものが撃ち出されている。主砲の後方には上下それぞれに二連の副砲が有り、主砲に比べるとやや細いが同様な白いエネルギー弾を撃ち出している。
 艦の両舷側の太短いメカメカしい複雑な砲塔から発射されている青い光は荷電粒子砲だろうか。その下には上下にスリットの入った四角く細長い砲身が設置されており、黒い物体を超高速で射出している。あれはレールガンか?
 艦橋の後部からは大型小型のミサイル群が撃ち出されている。
 その他にも大出力レーザーっぽい赤い光を放っている砲身が多数、パラボラアンテナ風な装置から何かを照射している物、複雑な形のメカから稲妻のような光線を放つ物など、もうむちゃくちゃな種類と量の一斉射撃だ。それがササラ一人に向かって絶え間ない集中砲火を浴びせ続けている。
 ミリアが無敵だと言ってた分厚い時空間断絶バリアとか言う奴のおかげなのか、俺には着弾地点の超絶激しいであろう爆発音や地響きなどは全く感じられないが、バリア越しに見えるササラが立っていた大地はとんでもない状況になっている。砲撃のおびただしい着弾の影響で大量の土煙が上がりうまく確認出来ないが、無数の馬鹿でかいドーム状の火球が膨れ上がっており、多分着弾した地点は地獄のような酷い惨状を呈しているのだろうと思われる。

 いくら何でもやり過ぎじゃないのかなあと俺は思うんだが。
「ミリア、こんな凄まじい集中砲火でササラは本当に大丈夫なのか?」
【『あら、罰野君は何度もササラちゃんに殺されかけたのに、ササラちゃんの事を心配するのね』】
「当たり前だろっ、俺はこう見えても女性に対して優しいんだ。去年死んだ俺の婆ちゃんから、女の子には優しくしろって保育園の頃から教え込まれて来たんだ。たとえそれが小学生のチビガキに対してでもなっ」
【『保育園の頃からか……。いいお婆ちゃんだったのね。でも最初に出会った時にはあまり女性に対して優しいって感じには見えなかったけれど』】
「見えなくて悪かったな! 普段は決して表には出さないが、俺の心の奥底には(まばゆ)い黄金色に輝く美しい、全ての女性に対して優しくする清らかで高貴な魂がちゃんと息づいているんだよ!」
【『ふーん、そうなんだ』】
「ふーん、って何だよ! ふーんて! 信用して無いだろ!」
【『まあ、冗談はともかくとして、ササラちゃんはこの集中砲火でも多分大丈夫よ。あの超巨大な魔力を少しでも削れているのなら、それで儲け物と思わなくっちゃ』】
「マジか……」
【『今は砲撃による強力な電磁波の影響でササラちゃんの状態をセンサーで確認出来ないけれどね』】


[[ミサイル、全弾発射終了。電磁投射砲、弾体全弾発射終了。実体弾砲、砲弾全弾発射終了。残リノ粒子加速砲、指向性エネルギー砲、光学兵器、音波兵器、放電兵器、重力兵器ニヨリ砲撃続行中]]
 AIのメイティスが抑揚のあまり無い、乾いた機械の音声で淡々と状況を告げる。エネルギーの供給だけで使える兵器以外は弾切れのようだ。まあ、あれだけ一気に撃ち出せばそうなるんだろうな。
【『メイティス、砲撃一時中断。砲撃態勢を維持したままで待機』】
[[了解。砲撃中断、砲撃態勢ノママ待機シマス]]


 戦艦からの砲撃が中断されると空高く舞い上がっていた土砂や煙が徐々に収まって行き、着弾地点の状況がうっすらと見え始めた。
 酷い惨状だ。大地に大小無数の深いクレーターが形成されている。どのクレーターの底も真っ黒に焼け爛れ、未だに赤く煮え(たぎ)るクレーターも有る。
 ササラは何処だ?
 居たっ!
 かつて大地が有った場所、猛烈な砲撃で削り取られたその大地の上、その削り取られた大地の空中にササラは浮かんでいる。丸く輝く球体の中にササラは浮かんでいる。

【『ダメだわっ! 砲撃でササラちゃんの魔力が削られたどころか、逆に砲撃前より遥かに魔力が増大しているわっ!!』】
「ええっ!」
【『メイティス、砲撃を再開しつつ、プラズマトルネード砲発射準備! ウインブレイバーを発射形態に移行っ!』】
[[了解。砲撃再開。プラズマトルネード砲、エネルギー充填開始シマス。ウインブレイバー、プラズマトルネード砲発射形態ニ移行開始]]

 猛烈な砲撃が再開された。それと同時に巨大な戦艦の各部がゆっくりと変形を始める。
 戦艦は、ざっくり言うと銀色の長方形の船体の先端に四角錐(しかくすい)がくっ付いて、その船体の上下左右に長方形のブロックが乗っているような形状をしている。左右の後方には主翼も設置されている。あくまでもざっくりとした形状だ。本当はもっと複雑な形状をしており、曲線も多い。
 その艦首部分の四角錐の先端に十文字の亀裂が走り、ゆっくりと横にスライドして上下左右に開いて行く。船体の外側まで開き切った先端部はそのまま後方に引き込まれ、半分ほど引き込まれた時点で停止する。艦首付近に設置されていた小型の砲塔は砲撃を中止している。
 艦首部分が開き始めると同時に、艦尾の上下に設置されている四つの長方形の巨大なブロックが移動を開始する。四つのブロックにはそれぞれ斜め四十五度の角度で小型の尾翼が設置されている。小型と言ってもそれは戦艦の大きさに対してであり、実際には巨大な尾翼だ。
 そのブロックが斜め四十五度の尾翼と同じ角度で、下から伸びる長い板状の支柱により展開される。戦艦の正面から見ると『X』字型に見える。
 あと上下に一本づつ足して左右の主翼を含めると、『米』の字になる。おしいなっ! いや、何がおしいねん!

 先端部が開かれた艦首には巨大な穴が出現した。直径は五メートルぐらいも有りそうな大穴だ。大穴の内部から光が漏れ始め、徐々に輝きを増している。
 ここから何かを発射するのか? プラズマトルネードとかって何だ? プラズマのトルネード、竜巻? ちょっと安易なネーミングの気もするかな。お子様向け番組の分かり易いネーミングセンスに近いかも知れない。ネーミングした人物のセンスが悪いのか、それとも誰にでもすぐに分かるような名前にしたのか、もしかすると宇宙語の名前を地球の言語に翻訳するとこうなるのか? 
 まあ、何が発射されるにせよ、仰々(ぎょうぎょう)しく船体を変形までしたこの大口径の砲口だ。きっと物凄い何かが発射されるのだろう。ちょっと恐ろしくもあり、楽しみでもあるな。

[[ウインブレイバー、プラズマトルネード砲発射形態ニ移行完了。エネルギー充填120パーセント]]
 120パーセント? 100パーセントじゃいかんのか? なぜ20パーセント上乗せする? 過充填じゃないのか? 寿命が減ったりしない?

【『通常攻撃停止! 目標ササラに向け、プラズマトルネード砲発射っ!』】
[[了解。プラズマトルネード砲発射シマス]]
 ミリア、対ショック対閃光防御はっ? 必要無いのっ? 大丈夫なのっ?

 プラズマトルネード砲が発射された瞬間、俺の周りの防御バリアがスッと暗くなる。ちょうど皆既日食を観察する時に使う減光フィルターのように暗くなった。このバリアは外部からの強烈な光からも守ってくれるらしい。無敵のバリアと言われているだけあって優秀な奴だ。出世するぞっ、人間だったらな。
 対閃光防御は必要無かった。もちろん先程の激しい砲撃の時と同様に振動などはまるで感じられず、対ショック防御も必要無かった。凄いな宇宙の超科学!

 バリアは漆黒の闇のように真っ黒で外の景色は全く見えなくなったが、プラズマトルネード砲の眩しく輝く太い光の軌跡だけはハッキリと確認出来る。眩しいと言っても目に優しい感じの眩しさだがな。
 あの巨大口径の砲口から発射されるのであれば、もっと広範囲に光が拡散されるのかと思っていたが、このバリアまでには光が届いていない。照射範囲を絞っているのかも知れないな。出力が同じだとするならば、拡散せずに絞った方が一点に集中する威力は高くなるのかも知れない。これは俺の勝手な想像にすぎないが。

 プラズマトルネード砲の照射が終わった。充填されたエネルギーを放出し尽したのだろう。バリアの減光フィルターが解除され、外部の景色が見えるようになった。

「ササラは、ササラはどうなった?」




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