創作秘話:獣吼の咎者

文字数 6,379文字


 これは『創作秘話:雷命の造娘』でも書きましたが、初作『孤独の吸血姫』をWEB展開する以前から(つまりネット機器を持っていない環境に於いて、電子メモ帳で書いていた時期から)第二弾『雷命の造娘』のコンセプト構想だけは既にありました。
 というよりは、この段階から漠然ながらも複数の続編作品に関するプロットだけは脳内で大系化していました。
 当然、本作『獣吼の咎者』も……ですし、実は後続作品のプロットもそうです。
 ただ、その時点では『孤独~』も書き終えてない段階でしたので、ひとまず脳内に寝かせていたのです。
 本当に、どれだけ『闇暦シリーズ』として早々に展開化したかった事か……こうして実現できて感無量です。
 しかしながら、実は『獣吼~』の企画プロットは現公表版とは全くの別物でした。タイトルや物語はもちろん主人公までが違います。
 プロットから残ったのは『狼男もの(転じて『獣人もの』)』『舞台:アメリカ』『インディアンと彼等のアニミズム概念が拘わってくる』『キーパーソンヒロイン〈シスター・ジュリザ〉の存在』だけで、後は執筆着手時に練り直して大きく形を変えています。

 脳内プロット時のタイトルは『牙爪の姉妹(がそうのしまい)』というもので、主人公はインディアンの忘れ形見〝ラリィガ〟──そう、現主人公〝夜神冴子〟ではなかったのです……というか〝夜神冴子〟は存在すらしていなかった!
 ところが『孤独』の没プロットで書き上げていた『序幕』を読み返した際に「結構な文量を執筆したし、このまま廃棄するのは惜しいなぁ」と思い、流用する事としたのです。
 で、コレを改訂流用するにしても、旧主役の〝ラリィガ〟ではドラマを負えなかったのですね。キャラクター設定もドラマ背景も全然異なりましたから。
 そこで急遽〝陰惨な過去を背負いながらも聖銃で戦うモンスターハンター〟という〈旧カリナ〉のコンセプトを転用して創造された新主役が〝夜神冴子〟でした。

 ちなみにネーミングは『獣人もの』という事で『牙』から捩って『冴』。企画段階では〝夜神冴〟でしたが、クールに決まり過ぎて親しみは涌かないので『子』を付けて柔らかい印象にし〝夜神冴子〟となりました。
 一方で名字の『夜神』は、史上初の狼男映画『倫敦の人狼』の〝ヨガミ博士〟から取っています。これに、やはり〈人狼〉のイメージで〝夜の神〟と当て字。うん、誤解している人もいるかもですが『デスノート』ではありません。だから〝YAGAMI〟ではなく〝YOGAMI〟なのです。
 こうした『獣人作品』をモチーフとしたネーミングは他にもあります。
 ラリィガの場合は、映画『狼男』の主役〝ラリー・タルボット〟からで、そこに『牙』から捩って『ガ』を末尾付けした名前です。
 シスター・ジュリザの場合も狼男古典映画の異端『謎の狼女(1946年作品)』の主人公〝リザ〟からです(これは『怪物王女』の〝リザ〟も同じ)。コレに『呪:ジュ』を付けたネーミング。
 マザー・フローレンスは先述〝ラリー・タルボット〟の本名である〝ローレンス・タルボット〟からの美的捩りですし、織部刑事は英ハマー社唯一の狼男作品『吸血狼男』の主演俳優〝オリバー・ヒューストン〟から。序幕に登場した〝シオン・バンデラス〟はリメイク版『ウルフマン』の主演俳優〝アントニオ・バンデラス〟からで、これはキーパーソンであったアントニオも同様。
 他獣人に目を向ければ、蛇女〝アナンダ〟はハマー映画『蛇女の脅怖』の主人公〝アンナ〟に『蛇:ダ』を加えたアナグラム……誤解している人もいるかもしれませんが〈アナコンダ〉からではありません。黒豹姉妹は獣人映画の異端名作『キャットピープル』からで〝スターシャ〟はリメイク版主演女優〝ナスターシャ・キンスキー〟から、姉〝シモーヌ〟は元祖版主演女優〝シモーヌ・シモン〟からです。魔薬変身の野人は言うまでもなく古典名作『ジキル博士とハイド氏』なのですが、薬品開発者〝フレデリック・スティーブンソン〟は元祖映画版主演男優〝フレデリック・マーチ〟に原作者〝ロバート・ルイス・スティーブンソン〟の名字を宛がったネーミング。その弟子〝トレイシー〟はモノクロリメイク版主演男優〝スペンサー・トレイシー〟からです。サクッと退場した蜂女〝ジャスプ〟は原典映画『蜂女の実験室』の主人公〝ジャネス〟から『ジャ』を頂いて『ワスプ:スズメバチ』と併せた名前になります。
 まぁ、こうしたネーミングの懲り裏事情は、実は『孤独~』の時点からそうなんですが、本作『獣吼~』は取り分け『狼男映画/獣人映画』からの起因に徹していますね。それまでの『闇暦』は、どちらかと言えば史実・伝説・民俗から起用していますけれど。


 このネーミング事情を鑑みれば明白ですが、本作『獣吼~』は過去作と異なり『怪物映画』から着想している方向性が顕著です(伝承系は〈ベート〉やインディアン側ぐらい)。
 過去作が『伝説/民俗伝承』を基盤にしているのに対して、近代サブカル主体ですからチト異質。
 これは主に〝ふたつの理由〟からです。

 まずひとつめは『史実の狼男事件は概ね内容が同じでヴァリエーション性に欠ける』という点。発生地域こそ異なるものの多くはパターンが同一で顛末すらも同じ……ともすれば無個性で新味には欠けます。比較すれば『吸血鬼事件』の方が多彩なバックボーンに在り、だから『孤独~』ではあれだけの〈伝説吸血鬼〉が登場していても各人が個性を発揮できたのですが、こちらの『狼男事件』だとそうした要素が皆無な上に最凶例たる『ジェヴォーダンの獣』を扱っていますから下手すると、どれも〝廉価版〟に映る危険性もあり。

 もうひとつの理由は「せっかく獣人変身を題材とするなら多彩雑多にやりたいな」という怪物オタの私的欲求w
 ところが史実に求めると8~9割はやはり先述の〈狼男〉になってしまい、同格の華に在る獣人は『怪物映画黄金期』になってしまうんですよね。
 とはいえ、あくまでも〝着想モチーフ/イメージソース〟でしかなく中身は別物──そこは『二次創作』ではなく『オリジナル創作』となるよう原典との差別化に再創造していますけどね。
 


 本作は『獣人もの』ですが、敢えて冴子は〈獣人主人公〉にはしていません。
 理由あって不老体質ですが、あくまでも〈モンスタースレイヤー〉としての技能を磨いた〝人間〟です。
 だから怪物主人公であるカリナや〈娘〉とは違い、常に〝死〟というものとは隣り合わせ。
 闇暦という現世魔界に於いて、少なくとも肉体的には弱者です。
 油断してりゃ死にます(殺されます)。
 この部分は結構悩みました。
 基本『闇暦』は〝人間に肩入れしている怪物少女〟が主人公ですから。
 しかしながら『獣人もの』で〈獣人主人公〉というのは鉄板過ぎて新味がありませんし、そもそも『主人公が〈獣人〉と判明している設定』では正体の探り合いめいたハラハラドキドキ感は生まれない……ともすれば〝戦闘手段としての変身こそがセールスポイント〟になってしまい、安い異能バトルに比重が置かれて、下手をすると『ホラー風味の変身ヒーローもの』という方向性にすらなってしまう。
 私が『闇暦』で描きたいのは〝そこ〟ではないんですね(それはそれとして『変身ヒーローもの』は大好物ですが)。
 悲劇性・苦悩葛藤・愛憎入り乱れた人間ドラマ……。
 極論〝アクション〟という要素も〝それら〟の端的な表現方法&減り張り意図の演出でしかなく、また同時に、それらが起因となるからこそ〝魂の琴線に触れる熱さ〟が生まれる。
 比重はドラマツルギーの方なんです。
 だから、人間主人公でゴーサインを出しました。
 〝人間〟だからこそ繊細に〝痛み〟を汲めるのではないか……と。
 そして、清濁併せ呑んだ〈正義〉になれるのではないか……と。
 賭けてみたんですよね、彼女の『新しい可能性』に。
 だから、カリナや〈娘〉に比べて〝完全な一貫性〟や〝完璧な顛末〟には無い。
 言動や主張もその場その場で微々とスタンスが変わるし、結構〝読み〟も外している(そこは〈刑事〉として、どうなのよ? 冴姉?www)。
 でも〝現実〟って、意外とそういうもの。
 理路整然と敷かれたプロセスやシナリオが順風満帆に具現化するはずもなく、むしろイレギュラーに振り回され、その場その場の〝ベターな選択〟が積み重なった結果論だとは思うのです。
 そういった意味では、この〝的外ればかりでどーなのよ冴姉〟は、ある意味『リアル』とも呼べる。
 ですが、肝心の〝根:アイデンティティー〟の部分では一徹してますし、そこは揺らがない。
 あ、あと〝タイトスカートから生えた美脚でセクシーアクション〟もイメージとしては大きいなwww

 ですが反面、やはり『王道』として〝獣人主役によるヒロイックアクション〟が見たいというのも人情と言うもの──そこで旧主役のラリィガもサブヒロインとして登場する運びとなったのです。
 つまり『獣人もの』としての王道醍醐味である〝獣化変身〟の魅力は彼女が受け持っているという相関構図になります。
 これまでのシリーズを読んだ人なら薄々感受していたとは思いますが『闇暦』には必ず〝相棒/パートナー〟としてのポジションになる〈サブヒロイン〉が据えられています。
 初作『孤独~』では〝カーミラ〟がそうであり、続く『雷命~』では〝ブリュンヒルド〟がそう──彼女〝ラリィガ〟は、その立ち位置になります。
 この『主役 × サブヒロイン』の駆け引きは、ある意味『各作品の雰囲気そのもの』と機能していますから結構大切な要素。



 で、冴姉ですが……実際に動かしてみると、前二作の主人公と違って非常に多面的なチャーミングさがありました。
 それは多分、伝わっていると思います。
 というのも連載サイト〈アルファポリス〉での更新時のランキングが前作『雷命の造娘』よりも好調だったからです。
 もしかしたら、前作主人公〈娘〉よりも支持はあるのかな?
 開始時には「人間主人公な上に日本人……あまりにも毛並みが違うから、はたして受け入れてもらえるかな?」と不安でいっぱいでしたが、約1年に渡る長期展開が幸いしたのか、相応に読者への認知は確立したようです。

 実はキャラクターとしての根は初作主人公〝カリナ〟とほぼ同質です。
 そりゃキャラクター形成の礎石となるプロローグが『孤独~』の没縞なんですから必然的だと思います。
 ですが、カリナは常に〝達観ながらもひねくれた態度(孤高&不器用)〟なのに対して、冴姉は〝気さくな明るさ〟を意識して飾ります。
 普段は明るく飄々としているものの、根はヘビーシリアスで悲劇的背景も背負っている。
 なのに、それを感受させないためにおちゃらける。
 人間or怪物問わず他人の痛みを汲み取れる優しさを内包しながらも〈モンスタースレイヤー〉として非情の世界に生きる(生き続けようとする)。
 そして、人知れず傷心に泣き濡れる繊細さもある。
 実は闇暦主人公は〝女性目線でカッコイイと思えるほどに凛々しくも強く、同時に支えてあげたくなる脆い純粋さも共感要素として内包〟を意識して創造しています。
 初作主人公〝カリナ・ノヴェール〟がそうでしたから、当然以降も踏襲される方向性。
 これは『闇暦』を立ち上げた時からの企画意図で、つまり男子が『タイガーマスク』や『北斗の拳』『花の慶次』等に抱く『男に男が惚れる』という魅力(BLとかブロマンス違うぞ?w)を女性にも体感してもらいたいという実験的意図。
 つまり〝美形萌え〟とか〝性的妄想〟とかよりも〝生き様に対する熱さ:魂から燃える熱さ〟で成立している憧れ対象というか……。

 また同時に冴姉の場合は〝身近なお姉さん〟として感じてもらえるように意識しました。
 うん「こんなお姉さん欲しかったなぁ」と思われるような……つまり目指したのは〝みんなにとって憧れのお姉さん像〟ですね。
 これは多分、私自身にもそうで……だから、つい〝冴姉〟と呼んでしまうw



 そして、冴姉といえば………何故か〝脱ぐ〟イラストが多かったwww
 その発端になったのが、イメージビジュアルの『憂いヌードイラスト』ですね。
 ただ、このイラストに関しては〝悲劇性の象徴としての美麗エロス〟を狙っていたんですよね。
 うん「エロい」というよりは〝美しい愁い〟という方向性。
 とはいえ、描くかどうか(公表するか否か)は、結構躊躇しました。
 これによって「コイツ、スケベ!」と思われるのは抵抗がありましたから(ま、その後『ビキニ冴姉』とかも描いたので、もう言い逃れは出来ないwww)。
 自分の〝娘〟をエロ目線対象として晒すのも複雑な心境でしたし。
 ですが、このイラストはキーワードの『咎』による悲劇性を暗喩しているのは間違いなく、つまりはこの段階から『第三幕』の構想は出来上がっていたワケです。

 あと、イラスト的にも〝吹っ切れる〟キッカケになりましたね。
 これにより肌露出への抵抗(イイコちゃんした行儀良さ)が低くなり、いろいろと描ける幅は広がった。
 『ビキニ冴姉』もそうですが『凡庸娘』の〈サーフィン娘〉や〈オリエンタル娘〉なんかは、この吹っ切れがなければ「恥ずかしくて自分のイラストとして公表できないよ」となっていたはずです(牽いては『かしまし幽姫』の生脚強調も無かった)。

 にしても、何故、こうも〝冴姉〟は脱がされたのだろう?
 アレか?
 ユングが提唱した心理学概念『アニマ/アニムス』なのか?
( ※ アニマ/アニムス:誰しもが潜在意識下に抱いている絶対的な異性理想像の事。男性が抱く理想女性像が〈アニマ〉であり、女性が抱く理想男性像が〈アニムス〉と称される)



 いろんな面で〝宙ぶらりん〟を感じるとは思います。
 幕引きにしても決着にしても……。
 ですが、先述したように本当の意味での『現実:リアリティ』というのは『フィクション台本』のように〝理路整然とスッキリ纏まるもの〟ではなく『その場その場の〝ベターな選択〟が積み重なった結果論』だとは思うのです。
 ともすれば『解決しない(前進はすれども)』というスタイルは的外れでもない。
 まぁ、一応『本作に於ける最低限のカタルシス』は決着を着けたつもりですが(マザー・フローレンス、御苦労様ですw)。
 それにエピローグを読めば伝わると思いますが『夜神冴子の闇暦物語』の本格化は〝これから〟とも言えます。
 その機会が来れば……今度こそ〝決着〟を綴らねばなりませんね。



 何だかんだ言っても『闇暦』の真の主役は〝カリナ様〟です。
 これはもう〈初代ウルトラマン〉〈仮面ライダー1号〉みたいなものだから、しょうがない。
 冴姉や〈娘〉は〈後続ウルトラマン〉〈後輩仮面ライダー〉的なポジションですから、肝心なのは〝新しい魅力で世界観拡張が成功できたか〟です。
 こうして大系化していくシリーズの面白味も『闇暦』の狙いでした。
 つまり『君の選ぶ君のヒロイン』的な。
 前作『雷命の造娘』の段階では第二作目という事で、まだまだその面白味に結実したとは言えませんでしたが、こうして『獣吼~』が加わり三作品となると、ようやく実ったと思えます。
 そして、今度は第四作目『輪廻の呪后』が加わりますから『闇暦シリーズのファン』という層が生まれれば嬉しいですね。
 私の夢──そして創作活動の目的意識は『自分の作品で成功する事』ですが、この『闇暦』は幹ですから、例えば『アクエリアンエイジ』『Fate』『クイーンズブレイド』のように多岐化コンテンツとして実れば……と夢想しております。
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✒小説『獣吼の咎者』✒
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