創作秘話:雷命の造娘

文字数 6,757文字


 この作品は『闇暦戦史』第二弾になります。
 前作『孤独の吸血姫』が好評だったので……というワケではなく、そもそも『孤独~』が完結まで綴れれば書くつもりでいました。
 実は『孤独~』をWEB執筆する以前から(つまり『孤独~』をオフライン執筆していた段階から)「第二弾をやれたら、次は私にとっての聖典『フランケンシュタイン』だな」とプロット構想だけは既にあったのです。
 で、やるならば『フランケンシュタイン臭』には重きを置きたかった。原典『フランケンシュタイン』は、私にとって絶大なバイブルですから。
 ただ『孤独~』も書き終えてない段階(というか、これから本格的に書く段階)で熱を注いでも『捕らぬ狸のナントヤラ』なので脳内に寝かせ、ひとまず『孤独~』に全力投球する事としたのです。
 で、やがてWEB連載版『孤独~』が展開開始──ようやく最終章を迎えた時に「あ、コレ無事に連載投稿を完結できるな」と手応えを感じたので、本格的に『雷命~』に着手。実は『孤独~』第三章展開の段階で、もう既にコツコツと書き始めてはいました(もっとも表紙イラスト作成などにも手が掛かって 100 %執筆作業ではありませんでしたが)。

 脳内プロットは既にありましたが、書くに当たっては、それをブラッシュアップしなければなりません。
 脳内で無責任無計画に膨らんだプロットから必要な要素だけに洗練し、不必要な要素は省き、逆に不足な要素は補填強化し、登場人物の言動や物語展開に極力矛盾が生じないように理路整然化しなければなりません。
 『孤独~』の場合は前身プロットがあり、またWi-Fi環境を得る以前から電子メモ帳で書いていた草稿が完成していたので、この作業は然して大きな意味もありませんでした。
 が『雷命~』はゼロからスタートなので、正直、手間隙が掛かりました。

 題材が『フランケンシュタイン』である以上、舞台が〝ドイツ〟になるのは必然(前作『孤独~』が〝イギリス〟でしたから対比差異でもあります)。
 そして『闇暦』は史実や伝承の拡張フィクションの側面もありますから「ドイツといったら〈ナチス〉だよな」となったのですが、コレはギリギリまで扱うべきか悩みました。
 なにせデリケートな題材(本当に酷くて許されざる存在)ですから悪戯に扱っていいものじゃない。
 ですが『フランケンシュタイン』の主題が〝人造生命体創造の禁忌科学〟であれば、それは〈ナチス〉の忌まわしい人体実験やオカルト鉄板の〈第四帝国〉と近しい命題(メッセージ性)でもある。
 悩んだ末に〈完璧なる軍隊:フォルコメン・アルメーコーア〉というオリジナル軍隊を登場させ、それが〝ナチス思想を継承反映した敵〟という形を取って、間接的表現で収めました。無論、勧善懲悪として〝ナチス思想〟諸共弾劾されるべき存在です(この辺は、もっとストレートな展開で書きたかった……と、猛省)。
 確かに『闇暦』は〈怪物〉が主人公の怪奇幻想物語ですが、筆者がそこに描きたいのは『勧善懲悪&人間讃歌のカタルシス』なのです。

 その一方で設定的には〈オカルト科学〉に縛られてしまい、どうにも『闇暦』っぽくない……というジレンマも。
 題材が『フランケンシュタイン』である以上〝科学っぽい雰囲気〟が基盤になるのは当然なのですが、その反面『闇暦世界』は〝民間伝承入り交じり〟をベースにするのが基盤なので……ぶっちゃけ浮く。
 だって〝科学兵士相手にドンパチ〟では〈SFコンバット路線〉ですから。やはり〈スーパーナチュラル:超自然的存在〉同士のバトルじゃないと『闇暦』らしくない。
 そこで〈ドイツ系土着妖怪〉を洗い出す考証に入るんですが、まぁコレが少ない(筆者の手持ち資料に於いては……ですが)。
 いや、いるにはいたんですけど大前提として〝〈フランケンシュタインの怪物〉と戦える強さ〟と〝前作と被らない方向性〟という縛りが入りますから(さすがに〝フランケンシュタインvsローレライ〟とかではピンときませんし)。
 そんな模索作業の中で「あれ? すっかり失念してたけどドイツって、そもそも北欧圏じゃないか? だとしたら『北欧神話』でいけるのでは?」と着眼。
 うん、それなら条件クリア(資料的にも)……と題材決定。
 北欧神話なら、出すべき巨悪は(というか、私的に出したいのは)〈ロキ〉と〈フェンリル〉を措いて他にない。
 ただ、コイツ等が「オレ達が真の悪役だ!」と唐突に出て来ては、先述の〈完璧なる軍隊〉との対比&推移が不自然な御都合主義になってしまう。
 と、いう事で徐々に橋渡しする役処として、ロキの娘〈ヘル〉の登板となったのです。


 そして、肝心の主役〈娘〉について……。
 彼女のドラマ自体はネタバレになるので書きませんが、少なくとも〈フランケンシュタインの怪物〉に対して皆が漠然と抱いている善性イメージ──〝子供と友達になれる存在〟〝本当は心優しいのに、見た目の醜怪さで徹底的に拒絶される可哀想な存在〟〝無垢で朴訥な存在〟──という点を踏襲しました。
 そのせいでキャラクターの内面的には無個性でありきたりな感も否めなくなったようで、個性的過ぎた前作主人公〝カリナ・ノヴェール〟よりも人気はイマイチなんですが……(一般人気が〈吸血鬼〉に喰われるのは〝フランケンあるある〟とも言えますが)。

 モチーフが〈フランケンシュタインの怪物〉ですから、名前はありません。
 本家〈フランケンシュタインの怪物〉もまた個人名は無く、作品中で〈怪物〉とだけ表記されているのですが、本作で〈怪物〉と表記すると〝どの怪物〟か伝わりません。この『闇暦戦史』は有象無象の〈怪物〉が入り乱れる現世魔界の戦乱史ですから。
 そこで〈娘〉と表記する事としましたが、単に〝娘〟では、これまた通常表現と区別がつきませんから、彼女個人を指す表現は〝〈〉〟を付けて〈娘〉としました。

 前述している通り『フランケンシュタイン』は、私の怪物愛にとっては絶大なバイブルです。
 なので、自己キャラクターとしてやるならば〝ガチ愛〟を込めて創造したかった。
 つまり〝醜さ〟です。
 生理的嫌悪感を誘発させるほどの〝醜さ〟です。
 縫合死体特有の〝薄気味悪さ〟です。
 そもそも〈フランケンシュタインの怪物〉は〝猟奇的で死体然とした醜怪さ〟がビジュアルの売りです。
 外見の〝醜さ〟と〝ピュア過ぎる内面〟こそが〈フランケンシュタインの怪物〉のアイデンティティーですから、そこは追求したかった。

 モチーフが〈フランケンシュタインの怪物〉ですから〝科学蘇生死体〟というコンセプトは絶対に外せない。
 で、近年は〝サイボーグ然としたデザインアレンジ〟が主流となっていますが、そちらではなく原典の〝死人返り妖怪〟という方向性で成立したかった(つくづく〝ジャック・ピアーズ〟&〝ボリス・カーロフ〟は偉大ですな……)。
 私的に〈フランケンシュタインの怪物〉の根本は〝死人返り妖怪〟であり〈科学〉は〝それっぽく匂う〟程度で善い(前面に出さなくて善い)と思っています。ここを〈科学〉に捕らわれ過ぎると、例の〝サイボーグ然〟になってしまいますから(〈SFキャラクター〉以前に〈怪奇キャラクター〉なのです)。

 ですが、醜怪な〈怪物〉であると同時に〈女性主人公/ヒロイン〉として機能する容姿でなければいけません。
 平たく言えば〝萌え要素〟です。
 これは難しい注文でした。
 というのも、相反する〈醜/美〉の要素を混在両立させなければならないからです。 
 前作『孤独の吸血姫』主人公〝カリナ・ノヴェール〟は〈吸血鬼〉ですから、容姿的には〝萌えっ娘〟で構いません。結構乱暴な言い方をすれば、襟立て黒マントさえ着用すれば〈吸血鬼〉として特徴表現できます。
 しかし〈娘〉の場合は〝薄気味悪い縫合蘇生死体〟と〝女性主人公として機能する美観〟という相反する要素を両立内包しなければいけないので、この無理難題には悩み抜きました。
 多くの既存〈フランケン娘〉の場合は〝無数の縫合痕を刻んだ萌えっ娘〟になるでしょう。
 或いは、そもそも〝醜い風貌〟という負面要素は排斥して、普通の萌えっ娘を〝感情表現が欠落した人造人間〟という設定面のみでクリアします(『Fate』とか『怪物王女』とか)。
 でも、私が新主人公に求めたのは〝そっち〟ではない。
 ガチの『フランケンシュタイン』です。
 その原典遺伝子を真っ向継承しながらも新機軸となるヒロインです。

 突破口となったのは意外な伏兵で、特撮ヒーロー『人造人間キカイダー』の〝左右非対称なグロカッコよさ〟でした。
 御存知とは思いますが〈キカイダー〉は〝不完全なアンドロイドヒーロー〟です。
 それ故に〝青い右半身:完成形態〟と〝赤い左半身:未完成形態〟という左右非対称であり、赤半身は内部メカニックが露出しています。同時にコレは〈良心回路〉が不完全である事に起因していて、デザイン自体が〝正義と悪の混在〟という暗喩にもなっています。
 私はコレを生体的アレンジにして〈正義/悪〉ではなく〟〈醜/美〉としてデザインしました。
 多くの人は素直に〈継ぎ接ぎ死体少女〉としてデザインするケースも多いでしょうが、私は〈左半身→美/右半身→醜〉とする事で醜美共存内包を表現したのです。
 ただし、そのまま露出しては〈醜〉の要素が勝ってしまいますから長い前髪で隠し、醜感演出の際にだけ覗けるようにもしました。この処置ヒントは同コンセプトの生体版とも言える『ゲゲゲの鬼太郎』です(鬼太郎の前髪の下には、潰れた左顔面が隠されている)。
 これに〈妖怪つらら女〉的な〝ギョロ目〟を据える事によってシンボリックな怪奇特徴として機能させました。
 ただしギョロ目は〈醜〉の要素が色濃くなってしまうので、イラスト等では〝前髪の奥に紅く爛々と輝く目がギョロリと有る〟という風に抑えてます(小説本編では「ギョロリとした目」と直球表現しています)。

 身体デザインに於いては〝全身縫合痕だらけ〟は大前提です。
 本家に倣って巨躯なのも決まっていました。
 で、このイメージで脳内ソースになったのが、永井豪先生の『バイオレンスジャック』に登場する〈女ジャック:バイオレンスジャックの別性分身体〉です。
 両者を見比べると明白ですが、外観的第一心象は〝そのまま〟です。
 荒れた長い黒髪を靡かせ、茶色いボロマントを羽織った裸身巨躯の美女──そのまま同じです。
 一方で、明確な差異もあります。
 まず顔立ちや表情ですが〈女ジャック〉は〝攻撃的な凛々しい粗暴〟であるのに対して〈娘〉は〝優しくも物悲しい愁い〟に在ります。
 また〈女ジャック〉は(永井豪大先生らしく)アクション時にマントがはだけて裸身が露になるエロティシズムを前提としていますが、逆に〈娘〉は裸身が露出しないように貫頭衣型になっています(言うなればチラリズム型です)。
 それにしても、因果なものです。
 そもそも私は〝熱烈な永井豪信者〟であり、同時に大先生は幼少期の私に〈創作者〉を志させた原点です。
 そして『闇暦』は『北斗の拳』や『バイオレンスジャック』のような『世界荒廃路線』を自己流の独創性によって築こうと始まった作品でした。
 まさか、此処に来て原点回帰になろうとは……。
 あ、書いてて思ったけど……実際に〝繋ぎ合わせた怪物〟ですね?

 何にせよ〈娘〉の容姿デザインには試行錯誤を重ね、ある意味では前作主人公〝カリナ・ノヴェール〟以上の苦心が注がれています。
 そうした創作側面から思い入れは強いです。


 連載展開期にて SNS等で公表していた〈娘〉のイラストは、デニム木地のショートパンツを履いていました。
 ですが、コレは本来、私がイメージしてきた〈娘〉像とは違っていました。
 先述のように、脳内イメージに於いては〝ボロマントの下は縫合裸身〟──つまり真っ裸だったのです。
 これは〈女ジャック〉云々以前に〝萌え要素狙い〟の方から来ています。
 基礎設定&外観年齢的に、彼女は〈萌え〉にはなり難く、結果として〈美〉の方向性を狙う事となりました。
 そうした場合、異性として容姿的魅力を発散するのは〈性〉です(というか〈萌え〉とて根本的セールスポイントには〈性〉ですけどね)。
 だから、裸身なのです。
 見た人が「薄気味悪い死体なのにムラムラする」ってなったら成功と言えます。
 心底に燻る〈性欲求〉というものは侮り難い強烈な欲望で、場合によっては〈恐怖〉や〈忌避〉すら呑み込みます。
 つまり、この〝強烈なリビドー刺激〟によって〝全身縫合の薄気味悪さ〟と心象を拮抗させ、相反する要素である〈忌避感〉と〈感情移入〉を共存内包させようと狙ったのです。
 また、私のイメージとしては〝手術台からのそりと動き出した縫合死体〟というのが根底にありましたから、貫頭衣の下に直裸身というのは猟奇的医療感を触発していいな……と。
 実は、この〝死体然とした猟奇感〟というのは、かなり拘って織り込んでいます。
 例えば(よく見ないと判りませんが)彼女の白目は若干黄色掛かっています。肌にしても青白く血色の悪い色味にしてあります(カリナと比較すれば明白)。

 では何故、公表版ではパンツ履きであったかというと……コンプラを憂慮した自主規制です。
 本来『闇暦』は中学~高校生以上を意識しています。
 ですが万ヶ一、低年齢層が見たら刺激が強いかな……と。
 個人的には、こうした〈毒〉はサブカルに不可欠要素だから善いと思うんですけどね。
 殊に〈性(初恋的な異性意識含む)〉は、多くの場合、子供心のサブカルで萌芽する傾向が強いですし。
 かつて豪ちゃん( ※ 熱烈な永井豪信者は敬愛を込めてこう呼ぶ事もあります)は『ハレンチ学園』でPTAは疎かマスメディアからも社会悪みたいに叩かれましたが、その際の信念をこう述懐しています──「子供だって、いつかは〈性〉に目覚める。だけど、大人が目隠しして免疫も無いままに〈性〉に目覚めたら、それこそ陰湿で歪な目覚めにならないか? 大人に隠れてコソコソと背徳感にエロ本を見るような……。だったら、漫画で明るく開放的に〈性〉へ慣れた方が、よほど健全な目覚め方ではないのか?」
 まったく同感です。
 でも口惜しいかな、現状の私は駆け出し創作者……そこまで勝負に出れないチキンです。
 後々、投稿サイト運営から指摘されてもイヤなので「デビルマンだって児童向けTVアニメではブリーフだったんだ……」と自己暗示を繰り返して〈娘〉にパンツを履かせました(変態みたいな文章になっとるw)。
 ちなみに、この直前のデザインでは〝ダメージジーンズのブーツ履き〟だったのですが、思ったよりも締まらなかったのでショートパンツへとマイナーチェンジしました。

 ただ、私自身が創作活動もだいぶ経過した事と、携帯アプリの画像編集ソフトの扱いにも多少慣れてきた事から、連載後は〈裸身 ver〉に切り換えました。



 執筆中は〝フランケンあるある〟に呑まれた作品でした。
 つまり『フランケンもの』は『吸血鬼もの』よりも重厚な物語性やテーマに在りながらも、地味且つ陰惨なせいか華が無く、一般人気で『吸血鬼もの』に喰われるという現象です。
 作者的に分析するなら、本作は『フランケンシュタイン』という事で『孤独~』に比べると〝地味〟〝陰湿で暗い〟〝猟奇感が色濃い〟〝科学要素が入ってしまうのでゴシックホラー感が稀薄になった〟といった点がマイナス要素としてあったのかなぁ……と。
 反面『フランケンもの』にはコアな固執ファンが多いのですが……。
 この『雷命~』も、そうした傾向にあったようで、連載サイト〈アルファポリス〉での平均戦績は、既に完結していた『孤独~』に負けていました。
 ただ、作者的に前向きな捉え方をするならば〝フランケンあるある〟にハマったという事は、それだけ『フランケン作品』としては成功したという立証にも思えました。
 そこは誇ってもいい……のかな?
 同時に、本作は〝後々に評価が変わるタイプ〟かもしれないなぁ……とも。
 例えば『ウルトラセブン』『キカイダー』『宇宙戦艦ヤマト』『ガンダム』『エヴァ』etc ……こうした作品は、リアルタイムでは一部から高い支持を受けたものの多数層には人気不調で終わり、しかしながらマニア層の固執的ラブコールが種火となって後年に高評価へと転じました。
 そこまで奢る気はありませんが、本作は『孤独~』に比べると〝そのタイプ〟のような気もするのです。
 親バカですけどね?
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✒小説『雷命の造娘』✒

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