我道創作論:マイナスイオンブームに潜む教訓

文字数 3,126文字


「そういえば電磁波弊害って、都市伝説じゃないの? 納豆ダイエットやマイナスイオン神話と同レベルの?」
「大衆が盲信的に翻弄されている大部分はね。その辺を誤認している人も多いけれど、生活レベルでは安全規定内よ──携帯電話や家電とか。そもそも電気が流れれば、大なり小なり電磁波は出ているワケだし」

 とは自己小説『vs,SJK』の一幕ですが、今回は〈電磁波〉ではなく〈マイナスイオン〉の話から。

 そもそも〈マイナスイオン〉なるものは〝何〟か?
 ……存在しませんw
 というか〝何を指す〟という定義如何でも変わりますが。

 多くの人は〝清涼感によるリフレッシュ心理〟として使いますし、そうした効能を及ぼすとされている〈陰イオン〉を(無自覚に)指しています。
 つまり〈陽イオン/プラスイオン〉〈陰イオン/マイナスイオン〉と捉えているワケですね。
 はい、まず此処が間違いですw
 そもそも〈陽イオン〉の科学用語訳は〈ポジティブイオン〉であり、対となる〈陰イオン〉の科学用語訳は〈ネガティブイオン〉であって〈プラスイオン〉〈マイナスイオン〉ではないのです。

 では〈マイナスイオン〉とは何ぞや?
 簡単に言えば〝根拠曖昧な和製造語〟です。
 なので、基本的に海外では通じないようですし、学術用語ですらありません。

 発祥となったのは、かつての科学考証健康番組『発掘あるある大事典』で、この番組内で〝滝や噴水や森林といった場所では、何故清々しい清涼感にリフレッシュできるのか?〟を独自考察で特集したワケです。

 で、この際に着目されたのがドイツ人物理学者〝フィリップ・レーナルド〟が提唱した〈レナード効果〉で、端的に述べるなら「水滴が急激に微粒子化した際に、負帯電を帯びた小さな水滴によって、周囲の水滴も負電荷を伝染的に帯びる」という理論です。
 要するに〈陰イオンの電荷伝搬性質〉を唱えただけです。
 うん、それだけ。
 別にリフレッシュ効果とは関係無いし、諸々研究されながらもそうした立証例はひとつも無い。

 ところが『あるある大事典』では、この〈レナード効果〉と俗論の〝水辺環境での清涼体感〟を強引に結びつけて「レナード効果によって水滴が負電荷を帯びるため、清涼感を得られる」と独自の拡大解釈を展開。
 それを〈マイナスイオン効果〉と唱ったワケです(その対語として定義されたのが〈プラスイオン〉ですね)。

 繰り返し記述しておきますが〈レナード効果〉に〝清涼感〟は無関係ですし、確固たる学会実験でも一度たりとも確認&立証は為されていません。

 はい、もう御分かりですね?
 早い話〝意図的にブームを作ろうとした捏造流布〟です。

 知っている方は知っているでしょうが、この番組は〈納豆ダイエット効果説〉〈ヨーグルト花粉症予防説〉等を唱い、また視聴者もそれを鵜呑みにして度々〝品薄社会現象〟を巻き起こしました。
 が、この〈納豆ダイエット〉が〝根拠無い捏造ヤラセ〟である事実が発覚し、番組打ち切りという末路を迎えています(それに起因して「その他諸々のムーブメントもヤラセだったんじゃないか?」と勘繰られていますが、そこまでは確認できていないようです)。

 要するにコレ〈新常識健康科学〉でもなく「信じるか信じないかはアナタ次第です!」という〈都市伝説レベル〉でしかないんですよね。

 にも関わらず、各家電メーカーは挙って〈マイナスイオン効果〉を唱いました……ってか、現在でも唱います。
 これは、その他諸々の仮説で医師&専門家が「コレが新世代常識」とばかりに唱っていたのと同じ事象です。
 ですが、先述のように「ヤラセである」という事実が発覚したワケですから……コレを鼻高に肯定していた専門家は眉唾者という事になる。

 しかしながら面白いのは大衆心理で、仮にそれが明白な虚偽と知ったとしても、やはり商品に〈マイナスイオン効果付〉と唱い文句が付くと、それだけで「こっちの方が得じゃん! 欲しい!」となる……私も、そうですw

 とかく大衆は耳慣れない単語に触れると「小難しい論に通じた自分はワンステップ高尚」と自己満足な盲信に溺れがちです。
 そして殊更、日本人は耳慣れないカタカナに弱い。
 例えば〈トランスヒューマニズム〉とか呼び代えれば〈サイボーグ〉も斬新に感じるらしいw
 ぶっちゃけ〈ロボット〉を〈モビルスーツ〉と一貫呼称したり〈怪獣〉を〈使徒〉と呼ぶのと同じレベルなのにね?

 教訓だとは思います。
『小難しい論破で騙せれば事実無根でも捏造できる』
『大層な肩書を自称する専門家でも、はたして絶対的に正しいとは言えない』
『何事に対しても独自の分析力&審美眼を養って臨まないと、情報鵜呑みに流されるだけの愚かしさを露呈する』
『売れれば官軍www』

 でも、これらの法則って応用すれば『ヒットを狙った作品』を生み出すプロセスとしても使えるのよね……実るかどうかは別問題としても。
『小難しい理屈を盾として読者を一過的にでも騙せれば〝作品内に於けるリアリティ〟としては機能させられる』
『俗論や既存常識に縛られて頭デッカチになるよりも〝if〟に重きを置けば、自由で独自性のある設定が生み出せる』
『日頃から養った分析力&審美眼を以て臨めば、他人とは一味違う〈個性〉として打ち出せる』
『耳慣れない造語を織り込めば、物語自体はテンプレでも新味に感じられる』
『売れれば官軍www』ってね?
 うん? 悪用とも呼べる?
 でも、まぁ、この辺の発想転化が〈創作者〉特有の逞しさとも言える気もします。



 論点を戻しますが……常日頃から独自の価値観や客観的分析観は養っておかないといけないって事でしょうね。
 あくまでも〈情報〉は〈ソース〉にしか過ぎなくて、決して〈真実〉とは限らない。
 取捨選択を為せる審美眼は大切。
 殊に〝創作側〟なら。

 ニュースやワイドショーにしても、そう。
 例えばVTRに添えられた〝ナレーターの抑揚〟〝BGM音楽の選曲〟〝映像特殊効果の在り方〟だけでも、実は既に〈先入観〉は誘導されている。
 自信満々な確信めいて述べるコメンテーターや専門家とて、その人物が〝どういった方向性の思想を根にしているか〟で主張や価値観は違ってくる(そして、物事に単一的な価値観など無い事を失念させてしまう)。
 純粋に〈情報/ソース〉として吸収するなら〝演出意向〟が働いていない〝淡々と情報だけを提供してくるニュース〟の方が理想的と言えるかもしれない。
 つまり『報道ス ● ーション』『バン ● シャ』とかよりも『NHKニュース』や『帯放送の五分ニュース』みたいな。
 そうした観点を以て観れば、あら不思議!
 格式高い諸々の報道番組が『ほ ● までっかTV』と並列に見えてくるwww


 だから、何事も鵜呑みにしないで〝考えて〟みて、自分で〈自分なりの答〉へと結実させる考察癖を身につけてみましょう。
 その結果が「やっぱり同じ意見だなぁ」なら、それも善し。
 実は〈自己考察する事〉自体に意味がある。
 そうしたプロセスを経て辿り着いた〈同じ結論〉は、単に情報鵜呑みに流されただけの「上から語れるオレTUEEEE!」と違って〈芯〉が確立しているから。
 そして、それは言い換えるなら〈独自のポリシー〉であり〈審美眼〉であり、思考力に於いて実践的血肉になる。
 これが備わると『作品』を構想する時に〈独自性/発想転化力/個性〉といった大きな武器になります。
 殊に〈創作側〉なら(少なくとも思想や思考は)安直な鵜呑みに流されちゃいけない──とは自戒も込めて思います。


 うん? このコラムだって、そうよ?
「信じるか信じないかはアナタ次第です!」
(よし、キレイに纏まったw) 




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