我道創作論:一人称/三人称

文字数 6,329文字


 言うまでもなく『小説』というものは〈地の文〉と〝台詞応酬〟の交錯で形成されます。
 書き手でもない人は「〈地の文〉って何さ?」になるかもなので簡潔に説明すると〝台詞以外の文章総て〟です。
 つまりは状況や心理の描写をする文章の事ですね。
 これが『小説の核』──というか『小説自体』と形容してもいい。
 で、文体としては〈一人称/三人称〉に二分されます。
 今回は、その〈一人称/三人称〉という基本文体の大別について分析持論を書きます。
 まぁ、あくまでも私が実践で分析吸収した独学論ですから、巷の『執筆ハウツー』とは違いますけどね?w

 さて、これから小説を書こうという人で、且つ、明確な文体イメージまでは確固と抱けていない人は、もしかしたら「どちらで書いた方がいいの?」と悩んでいるかもしれません。
 コレ、一長一短で「どちらがいい」とは明言出来ないです。
 巷の『ラノベハウツー』なんかには「初心者には一人称の方が書きやすい」とか書いてあるかもですが、私的見解では「ンなこたぁないw(byタモさん)」
 確かに『ラノベ』には圧倒的に一人称が多いですが、コレは作風へのメリットに比重を据えているためで、決して「楽だから」ではない。
 つまり〝ビギナー向け〟というワケでもない。
 ぶっちゃけ〝人によって違う〟という事。
 この辺を履き違えて、自分の作風を見極めないまま使うと、逆に後々ヒィヒィ言う事になります。
 無論、三人称も然り。




 さて、本題。

 まず〈一人称〉とは〝語り部キャラクターの視点で語り口調にて〈地の文〉を綴る文体〟になります。
 うん、台詞に非ず〈地の文〉です。

『その時、私は棚からコーヒーカップを取っていた。』

『俺にとって、どうでもいい事ではあるが、一応、書類へ目を通す事とする。』

 など〝キャラクター自身〟が主体となって語る文体ですね。
 ま、先述したように『ラノベ』には圧倒的に多いです。
 この文体は〝語り口調(台詞形態)〟なので活字ビギナーでも読み易く、また、語り部への親近感もグッと強調出来るのがメリットです。

 でも、穴はある。

 まず〝語り部〟は慎重に練り込む必要があります。
 これが〝状況や詳細を語れないヤツ〟や〝思考力に乏しいヤツ〟では、読者に情報を伝えられません(そう思えば『vs,SJK』は、よく〝マドカ〟で務まったなwww)。
 かといって〝理屈臭く語り倒すヤツ〟では、せっかくの親近感強調を殺してしまう。
 つまり〝ある程度は物事を語れて、普通のフランク感覚を持ち合わせたヤツ〟が扱い易い。
 コレ、別に〈主役〉である必要はありません。
 例えば『涼宮ハルヒシリーズ』での語り部は〝キョン〟ですが、これはまさに先述条件に準拠しているから。主役である〝ハルヒ〟ではメンタリティー的に特異過ぎて、等身大には語れません。加えて言えば作品の胆は〝ハルヒの特異ぶり/コイツ変!〟ですから、そうした面でも〝キョンの普通感覚視点(読者目線代行)〟は効果的に機能するのです。

 難点としては〝語り部が視認していない&認識していない事象は綴れない〟という点。

 この難点をクリアすべく〝視点となる語り部をコロコロ頻繁に変える〟という手法を使う人もいるようですが……単に「自分が(状況描写を)書けないから」というような安直な理由ならやめた方がいい。
 コレは〈一人称書き〉では原則タブーとされています。
 とはいえ、まったく存在しないワケでもなく、例えば私が愛する古典怪奇小説『フランケンシュタイン』『吸血鬼ドラキュラ』『吸血鬼カーミラ』等では既に〝視点推移〟は織り込まれています。
 が、これらは「自分が書けないから変えちゃえ ♪ 」等という安直な利己主義(逃げ)でやっているワケでもなく『演出』として効果的に成立させているのであり、また推移タイミングにしてもキチンと計算が敷かれている。
 例えば『フランケンシュタイン』を例に挙げるなら

 探検家ウォルトンの視点(読者視点での親近的導入)
  ↓
 フランケンシュタインの視点(奇譚物語の展開)
  ↓
 怪物の視点(物語の核心を明るみに)
  ↓
 フランケンシュタインの視点(物語結末へ向けた急展開)
  ↓
 ウォルトンの視点(読者視点へ帰結しての物語終結)

という構成であり、実に理路整然とした計算に基づいている。
 読者基準となる一般人の視点や感性を〝ウォルトン〟が代行的に受け持ち、そのまま自然体で『奇譚物語』へと誘導し、本筋は〝ヴィクター・フランケンシュタイン〟が受け持ってグイグイと読者の好奇心を誘発し、重要な核心となる部分は〝怪物〟の独白吐露で明らかにし、それを受けて再び〝ヴィクター・フランケンシュタイン〟によって決着への期待感を加速させ、最後に〝ウォルトン〟で〈現実〉へと醒ました上での幕引きとなっています。
 つまり〝読者視点を意識した緩急〟で描かれている。
 ついでにいえば、この三者は同質の〝影〟であり、その〝業〟に於いては〈ドッペルゲンガー〉的な存在理由となっていますから、この〝普通人感情移入↔常軌逸脱奇人↔非現実的怪異〟という〝if〟な入庫推移構成は読者視点を自然体にコントロールする意味でも見事な計算図なのです。

 このような好例もありますから『語り部変更』が必ずしも悪いワケではない。
 こうした明確な演出意図に基づくならば、視点変更はアリでしょう(実ろうが実るまいが)。
 それは建設的なタブー破り。
 ここで言う「やめた方がいい」というのは「自分が思うように状況描写を書けないからコイツに変えちゃえ ♪ 」という安直な〝逃げ〟の事(しかも無節操にコロコロと)。
 先述のような〝演出意図として局面に応じて感情移入対象を推移させる〟とかならともかく「全体像を描写できなくて書きづらいからコイツに変えちゃえ★」というような利己的御都合主義で頻繁にコロコロ変更は頂けません。
 うん、書き手の矜持的にも。
 だったら最初から〈三人称〉で書くべきです。
 どの手法も一長一短で、メリット&デメリットがあって当然。
 それを百も承知で向き合うのが〝執筆者のプライド〟だと私的には考えます。
 やはり〝その手法〟を自分で選択したんですから、メリットとデメリットを等しく抱え込んだ上で向き合って書くべきです。
 でなきゃ手腕も上達しない。

 ん?
「オマエだって『G-MoMo』でやってるじゃん!」って?
 ええ、やってますw
 ですが、それは「書きづらいから逃げた」ワケじゃない。
 実験的な演出意図です。
 その証拠に、サブタイトルが『 ● ● ちゃんと惑星 ▲ ▲ 』でしょ?
 だから、スポットライトを浴びたキャラクターへ感情移入の視点を推移させるために〝わざと〟やっています。
 その演出意図を証明するならば、視点推移タイミングは『起承転結』の『承転』に絞った計算をしています(具体的には全8節中で3~5節目辺りから始めて7節目までですね)。
 そして『導入/締め括り』は、必ず作品主導権の〝モモカ〟の一人称になっています。
 つまり〝主役のモモカ視点で基礎的世界観に入る→スポットキャラの視点に推移してエピソードの核を展開する→再びモモカ視点へ帰結して、いつもの世界観へ読者を戻させるエピローグ〟という演出意図です。
 これは『G-MoMo』企画時から構想していたフォーマット実験意向で、だからサブタイトルが『ウチと ● ● 』の場合は一貫して〝モモカ視点〟から動かしていない。だって「ウチ」とは即ち〝モモカ自身〟だから。

 ともかく描けない背景があるなら、まずは「どうやって伝える形に持っていこうか?」と模索しましょう。
 少し考えれば方法は幾つもあります。

 例えば〝狂言回しを配置する〟なんかは鉄板──『聖闘士星矢』の〝龍座聖闘士の紫龍〟が挟む「そういえば老師に聞いた事がある」や『魁!男塾』の「むう? まさかアレは……」「知っているのか? 雷電?」は、まさにこの手法。
 要するに〈知恵袋〉を据えておくワケです。
 この〈知恵袋〉は一人じゃなくて分散存在しても構わないでしょう……というか、近年作の風潮からすれば〝一人で語り尽くせるオールマイティ〟の方が万能過ぎて気持ち悪いwww
 自作『vs,SJK』から例に出せば
〝マドカ:サブカル雑学〟
〝ジュン:科学ウンチク&常識論〟
〝クルロリ:宇宙超科学説明〟
と棲み分けさせて互いにフォローしています。

 うん?
「敵の内情なんか実際に戦うまで主人公が知り得ないし書けないよぉ」って?
 それなら〝敵に狙われていたキーパーソン〟とか〝逃亡した裏切り者が味方につく〟とか……極めつけは特撮の定番〝揚々と作戦暴露をしたり自己満足な独り言に浸る口の軽い怪人〟とか、いろいろありますよ?(ショッカー系が間抜けに映るのはコレも要因www)

 壁にブチ当たったのなら、まずは自分なりに打破する模索努力をしましょう。
 探せば何かしらの方法がありますし、そうした演出努力をした方が結果的に減り張りある物語展開にも繋がります。
 何よりも臨機応変な構成力を鍛練する形にもなりますしね。
 貴方が書いているのは『小説』であって『好き勝手自由気ままに書けるブログ投稿記事』じゃありません。
 読者へ向けたエンターテイメントです。
 そこを肝に刻み込んで臨んで下さい。
 安直な逃げに走るな(自分のためにも)。



 と、まぁ説教臭く『上からマリコ』したんで、次w(どういう意味やねん!)



 もうひとつの文体が〈三人称〉です。
 第三者──つまり貴方自身──の視点で〈地の文〉を綴る形態ですね。
 全体を自在に描ける事から〈神の視点〉とも呼ばれるそうです(知らんかったけどw)。
 分かりやすく言えば『仮面ライダー』に於ける〝中江真司〟です。
 ん? 伝わらない?www
 つまり、こういう事──。

『本郷猛は、沖縄で開催されているオートレースへと参加していた。
 立花藤兵衛との特訓成果を見せる大事な一戦だ。

 一方、遡る事、前夜……。
 世界征服を企む悪の組織〈ショッカー〉は『富士山大爆破計画』を実行しようと暗躍していた。
 地獄大使の指揮で、富士の裾野へと集結する再生怪人軍団!

 そして、夜が明けた。
 恐るべき魔手が日本全土に迫っている事を〈仮面ライダー〉は未だ知る由もない……。』

 ね?
 描ける対象も状況も場所も時間も自由自在。
 少々凝った情景描写や詩文的表現を織り混ぜる事も無理なく可能(一人称の場合は語り部のキャラクター性にそぐわない表現は使えないという制限が発生する)。
 ある意味、万能。

 でも、やはり穴はある。

 ひとつは〝説明臭く固い文面になりがち〟という事。
 これは『小説』として考えれば常套的文体なんですが、反面『ラノベ』を意識した場合はマイナスにもなりえる。
 何故なら、そもそも『ラノベ』は〝活字慣れしていないビギナーへ向けて漫画感覚で読み易く書かれている〟を大前提としてきた体系だから。
 つまり『文学』とか『通俗小説』が好きな読者層には慣れたものだろうけど、いわゆる『ラノベ』系統しか嗜好が働かない層には取っ付きにくく嫌遠されがちというデメリット。LINEやツイッターといった短文SNS 慣れしているスマホ層も同じく……です。読みやすい文面主体に浸っていた層には、一見に読み難くも感じる。
 親近感や感情移入という側面にしても、ダイレクトな〝一人称〟に比べれば文才や構成テクで巧く誘発しなければならない。
 要するに、貴方自身の〝書き慣れ〟が直結的に物を言う。

 もうひとつのデメリットは、書き手自身に降り掛かります。
 それは〈地の文〉の比率が無自覚に増えてしまう傾向に陥り易いという点。
 冒頭でも述べましたが『小説』というものは〈地の文〉と〝台詞応酬〟の交錯で形成されます。
 で、万能に説明描写をしやすい分〈地の文〉の比率が増えてしまう事も往々にしてあるんですが……これもまた〝小説作品としての完成度〟を意識した場合はマイナス。
 小説は『娯楽読物』であって『ウンチクハウツー』や『説明書』ではありません。如何に読者を〝(自然体に)楽しませ〟て、また琴線を振るわせるかが〈肝〉です。
 台詞で処理できる情報や描写があるなら、可能な限りは台詞で処理した方が読み易いですし、また、たったそれだけでも〝キャラクターが動いた〟事になりますから〝キャラ立ち〟にも直結する。

 この辺は無自覚な事象なので見極めも難しくて……まぁ〝全体的な念入り推敲で発見する〟しかない。
 んで、それを成立させるには〝一頻り書いたら、しばらく寝かせて、自己熱が醒めた辺りで読者視点に立って読み直す〟かな?
 もちろん、個人個人で理想とする文体は異なりますから〝カチッと御固い文面〟を望むなら〈地の文〉に比率を置くのはアリです。
 ただし〝それでも最低限の読み易さは意識する〟か……或いは〝それを犠牲にしてまで成立させたいほどの作品としての魅力〟……その〝どちらか〟は念頭に据えた方が善いです。でないと、独り善がりの自己満足に堕ちてしまう。

 いずれにしても〈三人称〉はバランス感覚が大事。
 だって〝中江真司が三〇分語り倒す『仮面ライダー』〟なんて観てて面白くないでしょう?
 それ『特撮ドラマ』じゃなくて『TV講談』だものw



 と、偉そうに書いて来ましたが「オマエは出来てるのかよ!」とか追及されそうですね。
 ぶっちゃけ出来てるかどうかは読者諸氏の客観的判断に委ねるしかありませんが……私自身は「まだまだ全然出来ていないなぁ」と思うから足掻く。
 否、そうした諸々の難点を抱え続けて暗中模索する事そのものが〝小説を書く事〟牽いては『創作行為』だと思っていますから。
「私、成長しないので(ドクターXみたいに言うなやw)」

 ちなみに、私自身は〈三人称〉が一番やり易い。
 これは、たぶん『ラノベ』という畑じゃなくて『ゴシックホラー』や『古典SF』が、私の『小説原点』だからじゃないかな?
 うん、いわゆる『角川スニーカー』とか『富士見ファンタジア』よりも『創元社』とか『ハヤカワ』の方が馴染み深いのよw
 とはいえ技巧は鍛えたいですから、苦手を克服する意味でも『FSF』は〈一人称〉で書いています(作風として親近感誘発を重視しているのもありますが)。
 対して〝映画的ヒロイック〟を念頭にしている『闇暦』は〈カチッと御固い三人称〉なのです(重厚に締まるから)。




 さて、これから執筆活動に臨もうという若人へ向けて、特別に私的裏テクヒントです。参考にして下さい。

 マドカ「ボク」
  クルロリ「私」
 ラムス「私(わたくし)」
 モモカ「ウチ」
 リンちゃん「アタシ」
 ドクロイガー「ワシ」
 ハッちゃん「我」
 表マリー/裏マリー「私/わたし」

 何を伝えたいか分かるよね?w
「こんなサービス滅多にしないんだからね!(byシェリル・ノーム)」




 で、結論ね?
 自分の作風を見極めましょう。
 それ次第です。
 楽な文体?
 ンなもんは無い!
 どっちも一長一短!
 だいたい、そんなところにまで〈テンプレ法則〉求めてどうします?
 自分だけの〈個性〉で勝負したくて臨むんでしょ?

 まずは〝自己イメージ〟に準じた文体で素直に書く!
 難点に直面したら試行錯誤に模索する!
 その繰り返し!
 終わりは無い!
 その代わり、苦労したら苦労した分、実積やテクニックノウハウとして返ってくる!
 やったらやった分、貴方の〈武器〉は増える!

 だから、頑張れ!
 脳を休めるな!
 糖分取れ!
 歯磨けよ?
 お風呂入れよ?
 風邪ひくなよ?
 また来週~★
(Σドリフ脱線で締めるな!)




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