第21話 見守る視線<安心できる場所>  解説あり

文字数 8,274文字

 眠りが深かったからだろうか。翌朝起きた時には天候とは全く関係なく体に疲れなどは無かった。
“今日は雨だけどよろしくね”
 今朝早くに朱先輩から返信が届いていたのを確認してから、昨日寝る前に用意しておいた服に手早く着替えて、今日は雨だから先週とは違う飲み物を用意する。
 昨日の夜お母さんは帰って来ていないから、慶の分も朝食を用意しておく。
 もっとも昨日も帰って来るのも寝るのも遅かったから、用意しておいた朝食が昼食に変わるかも知れないけれど。
 朝食が終わっても慶が起きてくる気配がないから、今週も参加する私は一人でご飯を食べてしまう。その後自分の食器だけを洗って雨が降っている分、私のお気に入りの少し大きめの空色の傘を手に、
「いってきます」
 少し早めに家を出る。


「愛さん久しぶりなんだよ」
 いつもよりも早く家を出た分、余裕をもって待ち合わせ場所に着いたはずなのに、雨が降っているにもかかわらず朱先輩がすでに待っていた。
「朱先輩。こんなに早くから待っていたら風邪ひいちゃいますよ」
「愛さんが週末しか連絡くれないから、早く会いたかったんだよ」
 私の姿を見つけるや否や、雨の日にもかかわらず、水たまりを避けるようにして私のところまで来てくれる朱先輩。
「愛さんもこんなに早く来ると、風邪ひいちゃうんだよ」
 そう言いもって、一人で入るには大きすぎる私の傘の中に入りながら軽く抱擁する朱先輩。
「朱先輩の方が早かったですし、私は走らなくても逃げませんよ」
 そう言いながら傘を持っているからと私の方は軽くだけ抱擁を返す。
「それに、走ると綺麗な服が汚れますよ」
 今日の朱先輩はやっぱり服を汚さないためか、膝下までの緑色の紫陽花柄のミドルスカートに淡いピンク色のロングソックス、青色の紫陽花柄の長袖のトップスと全身をお花で包んだかのような格好をしている。雨も降っている上、季節にも合っている紫陽花柄が良く映えていてこのまま男の人とデートに行くと言われても疑う余地のないほどだ。
 本当、雨の日でも晴れの日でも、少女のようないでたちでこの活動に参加しているのだから、こっちが服を汚さないかヒヤヒヤしないといけない。
「今日は汚れないように、少しだけスカートを短くしたんだよ」
「でもソックスが汚れてしまうんじゃ?」
 全身これからの季節のお花に身を包んだ朱先輩の足元に、少しだけ春を残したかのような桜を思わせる淡いピンク色の靴下。朱先輩の服装で何か一つの物語が出来そうだ。
「……」
 こんな朱先輩を見ていると、学校でのあの金髪の子もクラスの子たちもそうだけれど、男の子の視線を引くためだけにスカートを短くする必要はないって思う。
 蒼ちゃんじゃないけれど、そう言うので近づいてくる男の人や、そう言うのを目的に男の人と付き合うのは私には抵抗がある。
 もちろんそれが悪いとは思わないけれど……場合によっては何をしてでも。って思う事もあるのかもしれない。恋愛経験のない私にはそこは想像でしかないけれど。

「今日もお疲れ様です。せっかくの服が汚れたらアレでしょうから、ゴミは俺たちが拾いますよ」
 私が考え事している間に、朱先輩を放っておくはずもない周りの男の人が、
「なんならゴミは僕が持ちますんで、今日はペアを組みますか?」
 そして、また別の男の人も朱先輩に声をかけ始める。
 雨の日の為に、参加人数はいつもよりだいぶ少ないはずなのに、ここだけ人口密度が高い気がする。主に男の人だけれど。
 私が男の人に押されて、今日は一人でゴミを集めようかなって1歩離れようとしたところで
「ゴミを拾う活動でゴミを拾わなければ、雨の中ただ歩いているだけになっちゃいますよ」
 私の方へ1歩近づいて
「わたしはこの小さなレディと一緒に組みますので、そちらのお二人もお互いで組まれてはいかがでしょう?」
 この場を離れようとしていた私の傘を持つ右腕を、私の左側から私自身を包み込むようにつかみ
「わたしも、愛さんのこの大きい傘の中に入れてもらっても良いかな?」
 朱先輩の誘いを私が断るなんて全く疑う事もない瞳でのぞき込んでくる。
「私はそう言ってもらって嬉しいですけれど……」
 どう見ても朱先輩目当ての男の人がかわいそうな気がする。
 私が参加していない日は分からないけれど、いつも私が一緒にいるからどの男の人も朱先輩とは組めないのだ。
「小さなレディに気を遣わせる男の人ってわたし、どうかと思いますけど、どうでしょう?」
 朱先輩が男の人2人に向かって、まるで私の考えていることくらいなら分かると言わんばかりの対応をする。
 男の人には気の毒だけれど、割とはっきり断るのは朱先輩にしては珍しい気がする。
「愛さん今一人でしようって思ってたよね?」
 もうさっきの男の人、2人とも全く気にするそぶりもなく朱先輩が
「私が毎週毎週朱先輩を独占しているようなものだから、たまには違う人が――」
 私の言葉をさえぎって優しく私の頭の上に“こつん”と拳骨を落としてくる。
「わたしは愛さんと一緒が良いって言ってるつもりなんだよ?」
 そう言ってもらえるのは本当に嬉しい。
「それに先週も言った通り、この人! って思える人以外には気を許しちゃダメなんだよ」
 先週とほとんど同じことを言われる。
「それに、愛さんみたいに可愛い子に目もくれない、女の子を見る目の無い男の人なんてこっちから願い下げなんだよ」
 朱先輩は一度ちゃんと自分の姿を鏡で見た方が良いと思う。どう考えても私と朱先輩が並んで私の方を見る男の人はいないと思う。胸も小さいし、ジーンズのハーフパンツで色気もないし。
 まあ、そう言う服装で男の人の視線を集めるのは、さっきも思ったけれど私はあんまり好きじゃないけれどね。
「愛さんは自分が思ってるよりも本当に可愛いんだよ? だから胸の大きさなんて気にしたら駄目なんだよ」
「……」
 私の思考も、視線も全部朱先輩に筒抜けになっていた事が恥ずかしくて
「私が朱先輩の分の袋とトングも貰ってきますね」
 それをごまかすために、主催者さんの所に、必要な道具をもらいに行って今日の活動を始める。



「雨の日ってどうしてもゴミが重くなりますよね」
「でも一つ拾う度に1回ずつでも水を切って入れていくと、意外と重くならなかったりするんだよ」
 そう言いながらゴミを拾う際に毎回ゴミ袋を置いて傘を持ちながらトングでゴミをつまみ、水を切ってから袋にゴミを入れると言う動作を繰り返しているため、どうしても朱先輩の服が少しずつ濡れてきてしまう。
「朱先輩私が――」
「さあ、傘の中へどうぞ」
 また別の男性がそのまま朱先輩を傘の中に入れてしまう。
「……」
 私がその男性の傘に当たらないように、また朱先輩が濡れないように1歩下がったところで
「わたしはこの子の傘に入れてもらうので、大丈夫ですよ。それよりもあちらの女性の方も一人でゴミ袋と傘を持ちながら活動されていますよ」
 本当に朱先輩は大人気だ。
「……愛さんこの後わたしの家に寄って行くよね?」
 朱先輩がこういう断定で誘いをかけてくるときは、何か言いたい事があるときだって私は知っているから
「はい。今日はお邪魔します」
「良かったよ。じゃあ今日も残り頑張るんだよ」

 そんな一幕もありつつ、いつものように河川敷に到着したとき
「今日は雨の中大変お疲れ様でした。今日は昨日からの降雨のため、ここでゴミトラックに積んで頂いた方から、解散とさせて頂きます」
 主催者の方から河川の増水による危険の為、河川敷での作業が無い事を伝えられる。
「じゃあ愛さん。わたしの家に行くんだよ」
 ゴミを捨てた後、半ば強制で朱先輩の家にお邪魔する事になる。
 もちろん楽しみなんだけれどね。


「傘は玄関の所に置いといてくれれば良いからね」
 今日は雨が降っていたから歩いてきたと言う朱先輩と歩く事30分ほど。
 一番最初に通された時と今尚ほぼそのままの部屋に上がらせてもらう。
 その部屋は朱先輩らしく淡い暖色系の色で統一されていて、優しく包み込むような朱先輩の雰囲気によく似合っている。
「愛さんと言えば温かいココアだよね」
 そう言って早速朱先輩がココアの準備を始めてしまう。
「本当に、世の中の男性には失礼しちゃうんだよ」
 ただ、帰り道からずっと朱先輩はこんな感じなのだ。
「でも、全部朱先輩を思いやっての事だと思うんですけれど」
 温かいココアを二つ持って来た朱先輩が、
「あれは全部親切の押し売りなんだよ」
「押し売りって……」
 男の人の気の毒な背中を思い出す。
「どうしてわたしの近くに愛さんがいるのに、わたしだけに声をかけるかなぁ?」
 そりゃ誰だって朱先輩に声をかけると思う。
「わたしは愛さんと一緒にいたいのに」
 ああそう言う事か。言いたい事を理解した私は朱先輩の気遣いに自然と嬉しくなる。
「あ~! 今からお説教なのに、なんで嬉しそうなのかな?」
「だって私一人を放っておくのが許せないって思ってくれたからなんですよね?」

 私は嬉しくて笑顔で答えたはずで、何もおくびも出してなかったはずなのに、
「愛さん家か学校で何かあったんだよね」
 その時の朱先輩の表情は、あの時ほどの怖さは無いにしても、真剣そのものだった。
 ――わたしには取り繕う必要ないからね。
               本当にいつでも何時でも連絡くれて良いからね――
 私と朱先輩を繋ぐ取り決めとは言えない約束みたいな取り決め。
 だから私が朱先輩に隠し事をするのは無理な話なのだ。
 だから統括会での事、議長・雪野さんと副会長・空木君と書記である私が、自分の連絡ミスが原因で3人の間で拗れてしまっている事。
 それでも、私は書記として空木君の意見も汲み取れるようになんとか時間を作りたいと矛盾した気持ちを抱えている事、また慶が私を気遣ったと思ったら、急に帰って来るのが遅くなったこと。
 人との距離感や自己の矛盾についての葛藤について話をする。
「じゃあまずは簡単な弟くんの方から話をするね」
 何が簡単なのか分からないけれど、取り敢えずは朱先輩の話を聞く。
「弟くんは放っておいて大丈夫」
「えっと、放っておいて大丈夫なんですか? 中間テストなのに?」
 聞こうと思っていたけれど、すぐに疑問が口をついてしまう。
「愛さんに直接暴力をふるったとかじゃないんだよね」
「はい」
「じゃあ放っておいていいんだよ。もう弟くんも最低限の事は自分で責任を持てる年齢になってるんだから、中間テストの成績も自分で責任持たなくちゃ駄目なんだよ」
 家族なのにそんなあっさりで良いのかな……
「もうほんとに愛さんは優しいんだから」
 私の考えは今日は全部朱先輩に見抜かれているみたいだ。何でだろう。
「かっこいい男の子になるためには、自分の責任は自分で早く取れるようになるのも一つなんだよ。愛さんの彼氏がいつまでも愛さんじゃなくて、お母さん・お父さんって自分の親の事ばかり言ってたらどう思う? もちろん家族を大切にするのは大事な事だけれど、甘えるのと家族を大切にするって言うことが全く別なのは、愛さんならわかるよね」
 私が慶に構い過ぎなのかな……
「それは分かりますけれど、じゃあ私が慶のお弁当とか作るのはかまい過ぎなんですか?」
「惜しい! ちょっと違うかな? それは愛さんが家族を大切にしてるからなんだよ」
 その朱先輩の言葉にしっくりくる。
 私は慶の事を家族として大切にしたいだけなのだ。これは甘えじゃないと思う。
「だから愛さんは今まで通りで良いんだよ」
 そんな朱先輩の言葉を聞いて、少し安心する。
「ただし、弟くんが友達を家に連れてくるとかになったら、すぐに連絡して欲しいんだよ」
 そう言えば慶の友達って見た事無いけれど、大丈夫なのかな。
「それよりも統括会の方が難しそうなんだよ」
 そう言ってしばらく朱先輩が考え込んでしまう。
「やっぱり先輩なのに足並みを乱してしまったのは良くなかったですよね」
 空木くんも責任を感じていたし。
「多分そのこと自体はそんなに大した問題じゃないんだよ。その議長の子にしても。
 愛さん今すぐ統括会やめてって言ったら辞められる?」
「さすがに無理ですよ」
 代わりをする人もいないし、私は全員の意見を取るって決めたんだし。
「じゃあ議長と役職を変わってもらったら?」
 頭は固いけれど、役職はきっちり果たすだろうし
「……」
 どうなんだろうか。代わりは出来ると思うけれど空木君の特性を知らないと空木君の発言は拾えないと思う。
 私が答えられないでいると
「んー大体わかったよ」
 私には何が分かったのか分からないけれど、何かが分かったみたいだ。
「何が分かったのか、教えてくれるんですか?」
 けれども何が分かったのかは教えてもらえない。
「それは愛さんが自分で気づかないとダメなんだよ。そうかぁ、それもあって愛さんは今日わたしから2回離れようとしたんだね」

 どうして今の話からさっきの朱先輩への男の人の話につながるのか分からない。
「いつも愛さんに言おうか言うまいか迷っていたんだけど、今回は言わないとダメだから言おうと思うんだけれど――」
 私に何か言いたい事があったのか。私もやっぱりまだまだだな。
 実際朱先輩に助けられてばかりだし。そんな私の気持ちとは全く関係なく
「――たまには愛さんもワガママになって良いと思うんだよ。むしろワガママにならないと駄目だと思うんだよ――」
 朱先輩が私の事を優しい表情で見てくる。
「私、今でも幸せですし、両親にも感謝していますよ」
 これ以上何にワガママになると言うのか。
 例え家族で一緒に過ごす時間が短くても、大切なのはその短い時間をどう過ごすかだと思う。これは前にも一度同じような事をお父さん相手に思った事もあるけれど、この考え方は私は変えないと思う。だって、ずっと一緒にいても先週の慶のように一言も会話が無いんじゃ家族が一緒にいるってなかなか言えないと思う。でも、週末しか帰って来なくても、両親ともどれだけ疲れていても、時間が少なくても私や慶と会話する時間を必ず取ってくれる。
 これだけは朱先輩に教えてもらったんじゃない。私自身が肌で感じた事だから。
「本当に愛さんは良い子なんだよ」
「ちょ、ちょっと! 朱先輩どうしたんですか?」
 私が両親の事を考えていると、感極まったかのように私を抱きしめてくる。
「わたしはこの先学校で愛さんがなんて言われたとしても、愛さんの味方だから。愛さんを一番に応援するって決めてるんだよ」
 拗れる統括会の事、今日は話してないけれど不安を取り除けないままになっている蒼ちゃんの事。それにどうしてあそこまで敵意をむき出しにされているのか分からない金髪の子の事など色々あるけれど、朱先輩の一言と未だ止む気配のない雨音が今だけは私を楽にしてくれた。

「今日夜ご飯一緒できない?」
 暫くして朱先輩が提案してくる。もう少し朱先輩といたいって思っていた私は、もう帰っているであろうお母さんに今日は外でご飯を食べる旨の連絡をする。お母さんは女の子の夜道は危ないから早く帰ってきて欲しいとだけ言って了承してくれた。
「愛さんと久しぶりの夕食なんだよ」
 さっきまでの朱先輩が嘘のように、まるで少女みたいに楽しそうに夕食を作り出す。
「私もお邪魔でなければ手伝いますよ」
 実際の所あのお弁当を見ていると、私が手伝うとクオリティーが下がりそうではあるけれど。
「お客さんはゆっくりしているもんなんだよ。でも次は愛さんと一緒に作るからね」
 やんわりと私の提案を断ったかと思ったら、そうか次回もあるんだ。
 それはまた嬉しい返事だった。

 楽しそうに先輩が作ってくれたのは魚介類をふんだんに使ったアヒージョだった。
「愛さんはもっともっときれいになるんだから、おしゃれなご飯も食べないとね」
 そう言って食べ易い様に少し薄めに切ったフランスパンも添えられる。
 私は作ったこともないし、作れるとも思えないけれど、
「すごくおいしい」
 ご飯じゃなくて、パンが進むのもなるほどだと思う。
「ちなみにこれ作るの難しくないからね。基本はオリーブオイル・唐辛子・ニンニクと貝類・甲殻類があれば作れるんだよ」
 説明だけを聞けば作れそうな気もする。
 ホント私も朱先輩みたいに少女みたいな綺麗な人になりたいな。
 一通り夕食もごちそうになり、雨が降っていてもう天文薄明位の明るさしか残ってないけれど、いつもより暗くなるのも早いと言う事で朱先輩の家からお暇する事にする。
「愛さん本当に送って行かなくて大丈夫?」
「まだ少しは明るいし、人通りの多い所歩きますから」
 朱先輩が私の心配をしてくれるけれど、それだと朱先輩が帰る時には真っ暗になってしまう。
「じゃあまた何かあったら連絡してね。本当にいつでも、何時でも良いからね。今日みたいなのは駄目だよ」
 そう言って本当にいつもと変わらないやり取りをして帰路につく。



「おかえり愛美」
「うんお母さんもお帰り。今日はお母さん帰って来てくれたのにごめんね」
 2人で“おかえり”を言い合う。そこに“ただいま”は無いけれど、これも良いなって思える。
「慶は?」
「今お勉強させてるわよ」
 そうか、私がいないって事は慶はお母さんと二人でご飯だったのか……慶からしたらさぞ居心地が悪かっただろう
「愛美、先にお風呂入ってきなさいな」
 お母さんにそう言われて、取り敢えず先にお風呂に入る事にする。
「でも良かった。愛美もちゃんと息抜き出来てるのね」
 二人ともお風呂から上がった後、少し二人で話がしたいと言う事で一旦私の部屋に移動する。
「大丈夫だよ。私もちゃんと自分の時間は持ててるよ」
「それでも平日は家のこと全部愛美に押し付けてしまってるじゃない」
 お母さんは私たちのために頑張ってくれているんだから気にしなくて良いのに。
「私は押し付けられているなんて思ったことないよ」
 私はもう子供と言う年齢でもない。出来る事があれば手伝うくらいは普通だと思う。
「本当に愛美はどこに出しても恥ずかしくない娘に育ってくれたわよ」

 そう言ってお母さんが目頭を押さえる。
「ちょっとそれは言い過ぎだよ」
 私は学校ではたわいもない話をして、時に友達から呆れられたり普通だよ。
「そんな愛美に私たちから感謝の気持ち」
 そう言ってお母さんが私にネックレスケースを渡してくれる。
「こんなのもらえないよ。これってお母さんでも使えるじゃない」
 ケースを開けると小さなハート形の宝石みたいなのがはめ込まれたネックレスが入っていた。
「これはお母さんじゃ使えないのよ。自分の誕生石を身に付けておくと幸せになれるって言うじゃない?」
 もう本当に……私は両親に大切に育てられているのは分かっているのに
「私は本当に幸せだよ」
 どうして私はここまで大切にされるのだろう。
「親なら娘には幸せになってほしいに決まってるじゃない」
 私の疑問に答えるかのように母親は私を見つめる。
 こんなこと言われたら、両親の前ではやっぱり笑顔でいたい。悲しい顔、泣いている顔は見せたくない。でも一つだけ
「慶の事は?」
 口は悪いけれど、慶も大切な家族には変わりないのだ。
「慶にはね。誰かを幸せにしてあげられる男の子になって欲しいのよ。お父さんみたいにね」
 私がこの家の子供で良かったと心から思えた瞬間だった。
 学校には付けて行く事は出来ないけれど、大切なものになったのは言うまでもなく。
「それじゃあお母さんはもう寝るわね」
「うんありがとうお母さん」
 私は嬉しさの余韻に浸りながら、夢の中へと旅立った。

(解説)
https://novel.daysneo.com/author/blue_water/active_reports/4072319bdc3032d04111c5eba5c90e01.html
―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――

        「蒼依さんひどいよね。あたしたちに内緒でさ」
         蒼ちゃんの意思とは関係なく広がっている噂
          「あの戸塚君と付き合うのに相談?」
                同調の恐怖
          「“姫”もテスト勉強は必要なしですか」
                広がる悪意
            今回だけは愛美だけでお願い。
             そこにある真意とは……


         22話 重ならない視点 <甘えか思いやりか>
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