マリア様が訊いてる(テーマ:マリア[登場人物名指定])

文字数 2,028文字

 昔々あるところに、マリアという名の女の子がおりました。
 マリアは現在二十歳。東京都の大田区に住んでいます。全然「昔々あるところに」じゃねえじゃねぇか殺すぞゴラ、と何処かで誰かがツッこんでいますが、地球は大きくて丸いので、たいした問題ではありません。
 マリアはたいそう綺麗な女の子です。その容姿は華麗にして可憐、エレガントにしてビューティフルで、まるでフランスで作られた日本人形のよう。
 男の子達にはモテモテ、女の子達からの信頼も厚く、動物からだって慕われる。当然蚊にも刺されやすい。
 そんなマリアですが、近頃気になっていることがあります。
 それは、自分の名前のことです。

 自分の名前の由来というものを、マリアは知りません。
 この前友達たちとその話題になったときに、だからマリアは会話に加わることができませんでした。
 つまらなかったので、そっと友達の携帯から友達の彼氏に「わたし実は浮気してるんだ☆」と送ってみたのですが「それでも君が好き☆」とか返ってきやがったので、思わず携帯をへし折りました。パカッと開ける関節の部分を逆に曲げると、意外と簡単にへし折れて、骨を折るような感触がとても小気味良いのです。いえ別に作者の性癖やストレス解消法とは微塵も関係ありません。

 ともかく、マリアは自分の名前の由来に興味を持ちました。そもそも日本人なのにマリアと名付けられたことをこそまず疑問に思うべきだと主張する向きもありますが、そういう人は明日の昼頃東京湾に浮いているところを発見されるはずなので、たいした問題ではありません。

 マリアは母親に聞いてみることにしました。

「ねえお母さま。どうして私にマリアと名付けてくださったの? 私としては、きっと聖母マリアからじゃないかと思うのだけれど」
「あのねマリア。人に質問するときは、まず検索エンジンとかでよく調べてからにしないと、教えて君、って言われて嫌われてしまうのよ」

 マリアは検索エンジンに「マリアという名前の由来」と打ち込んで検索をかけてみましたが、よくわからない二つのサイトと、「マリア様がみてる」というコバルト文庫小説へのプロモーションリンクが一つ引っ掛かっただけでした。これはどうやら「マリみて」の名で親しまれ、一部の人に絶大な支持を受けている百合系小説であるようなのですが、全巻読破しアニメまで見ても、マリアには自分の名前の由来がわかりませんでした。

「お母さま、お母さま、自分で調べたのだけれどわからないの。教えてくださらないかしら。どうして私の名前はマリアなの?」
「よくやったわマリア。でもお父さまが決めた名前だから、実は私は知らないの。不甲斐ない母を許してねテヘ」

 マリアはジャンプ強パンチから屈み弱パンチ、続いて昇龍拳のコンボで母を倒すと、今度は父親に聞いてみることにしました。

「ねえお父さま。どうして私にマリアと名付けてくださったの? 私としては、きっと聖母マリアからじゃないかと思うのだけれど」
「あのねマリア。自分の仮説を主張するときは根拠となるデータを示してからでないと、似非科学者と言われて糾弾されてしまうんだよ」

 マリアは、自分が聖母マリアのように慈愛溢れる人間であることを示すため、色恋にかまけて人生を見失っている友人達を破局させたり、勉強をしないで単位をとっている哀れな学生の成績を零点に改竄してやったりしました。

「お父さま、お父さま、ねえ私って聖母マリアみたいでしょう? 教えてくださらないかしら。どうして私の名前はマリアなの?」
「なんて優しい子なんだマリア。でもお爺さまが決めた名前だから、実は私は知らないんだ。不甲斐ない父を許してぐはあ」

 言い終える前に鳩尾への強烈なエルボーで父を沈めると、今度は祖父に聞いてみることにしました。

「ねえお爺さま。どうして私にマリアと名付けてくださったの? 私としては、きっと聖母マリアからじゃないかと思うのだけれど」
「あのねマリア。今ちょうどいいところだから、終わるまで待ってはくれないかね」

 競馬中継を見ながらマリアの方を見向きもせずに、祖父はそう言って手を振りました。祖父は競馬が大好きなのです。
 マリアは手早くテレビを窓から投げ捨て、あまつさえ唾を吐きかけてからまた言いました。

「お爺さま、お爺さま、終わったわ。教えてくださらないかしら。どうして私の名前はマリアなの?」
「それはねマリア。競馬の大レースである有馬記念の『有馬』を逆さまから呼」
「待って」

 マリアは祖父の腕を捻りあげると、首筋に何処から取り出したのか肉厚のナイフを突きつけました。

 にっこり笑って、

「きっと聖母マリアからじゃないかと思うのだけれど、どうかしら?」
「はっはっは、そのとおりさ!」

 祖父は朗らかに答えました。

 今日もお空は青くって、世界はとっても平和です。
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