趣味は読書です本当なんです(テーマ:趣味)
文字数 1,633文字
『趣味ハナンダ?』
『趣味は読書です』
『オイ読書ダッテヨ? 聞イタカ?』
『アア聞イタゼ。モウイイ。次ダ次』
『あっ、待ってください! えっと、本当の趣味は……趣味は――うわああああああああっ!!』
壁の向こうから聞こえてきたやりとりに、木村君は青くなりました。
木村君は今、列に並んで、面接の順番を待っているところです。
悲鳴はしばらくすると突然プッツリと途絶え、同時にドサリ、と何かが倒れるような音がしました。それきり、何も聞こえません。
人類は皆、妖怪に飼われています。妖怪達は人間を管理し、優秀な人間を選んであらたに妖怪に変えることによって、支配を維持しています。
人間は、大人になると、妖怪修行を始めるために、妖怪達からの面接を受けます。
面接を受けなかったり落ちた人間は、ニートボールという肉団子に姿を変えられ、迫害の対象にされてしまうのです。
『趣味ハナンダ?』
『私の趣味は映画鑑賞です』
『オイ映画鑑賞ダッテヨ? 聞イタカ?』
『マッタク、趣味ノナイ奴ラ、読書カ映画鑑賞ッテ言エバイイト思ッテイヤガル。聞キ飽キタゼ』
『趣味ノナイツマラン人間ハイラン。次ダ次』
『ぎゃああああああああー』
壁の向こうから聞こえてくる声に、木村君は青くなりました。
木村君の趣味は読書です。本を読むことが大好きで、休日にはよく図書館に出掛けます。週に二冊は本を読み、感想をノートにつけたりしています。
ですが……
『趣味は……えっと、読書です』
『ケェケェケェ! 貴様モカ! 正直ニ言エヨォ!』
『読書ト言エバトリアエズ格好ガツクト思ッテル馬鹿ガァ! オマエミタイナノ見飽キタンダヨォ! 正直ニ言ワネェト無趣味トミナシテニートボールニスルゼェ!』
『う、ううっ! しゅ、趣味は、ゲームとネットと睡眠です。あとフィギュア集めと、声優の――』
『ハァハァハァ! 不採用ォォ!!』
『や、やめてくれぇぇぇぇ! ニートにしないでくれぇぇぇぇ!』
(……い、言えない)
(趣味が読書って言えない……!)
ついに木村君の番になりました。
青い顔で面接室に入ってきた木村君を、妖怪達がじろじろ値踏みします。
「趣味ハ、ナンダ?」
「僕の趣味は……ど、ど――」
妖怪が意地悪くニヤリと笑います。「ドォ?」
「ど、ど……どどい……つ――」
思わず渋い嘘が口から出そうになった瞬間、木村君の中で、様々な光景が走馬灯のように駆け巡りました。
お母さんが泣きながら裁判長にとりすがっています。
(あの子が趣味が読書だなんて言うはずないんです! あの子は嘘をついたりしません! 信じてください!)
近所のおばさんがニュースの画面の中で頷いています。
(ああ、あの子ねェ。なーんか、趣味が読書とか言い逃れそうな子だと思ってたわァ。怖いわァ)
恋人が哀しげに呟きながら去っていきます。
(だってあなた趣味が読書とかはぐらかしてばかりで……ちっともあたしに本音をぶつけてくれなかったじゃないの……)
「ち、違うんだ……」
気付くと木村君は震えながらそう口にしていました。
「アァン?」
「嘘じゃないんだ……本当に読書が趣味なんだ……」
「マタ読書ガ趣味キター!」
「キター!」
「ち、違うんだ! 本当なんだ! 本当に読書が好きなんだ! 何も好きでもないのにとりあえず趣味は読書って言っとけっていう奴らばかりじゃない! 本当なんだ! どうして好きなことを好きって言ったら嘘扱いされるんだよぉ!」
「趣味読書ォ! 趣味読書ォ!」
「ウーソツキ! ウーソツキ!」
「違うんだ! 信じてくれ!! 俺はやってない!!! や、やめろおおおおおおおおお――」
*
ベッドの中でうーんうーんとうなされている木村君。
机の上に乗せられた就活用の面接シート。
趣味の欄に、読書という二文字が、居心地悪そうに並んでいました。
『趣味は読書です』
『オイ読書ダッテヨ? 聞イタカ?』
『アア聞イタゼ。モウイイ。次ダ次』
『あっ、待ってください! えっと、本当の趣味は……趣味は――うわああああああああっ!!』
壁の向こうから聞こえてきたやりとりに、木村君は青くなりました。
木村君は今、列に並んで、面接の順番を待っているところです。
悲鳴はしばらくすると突然プッツリと途絶え、同時にドサリ、と何かが倒れるような音がしました。それきり、何も聞こえません。
人類は皆、妖怪に飼われています。妖怪達は人間を管理し、優秀な人間を選んであらたに妖怪に変えることによって、支配を維持しています。
人間は、大人になると、妖怪修行を始めるために、妖怪達からの面接を受けます。
面接を受けなかったり落ちた人間は、ニートボールという肉団子に姿を変えられ、迫害の対象にされてしまうのです。
『趣味ハナンダ?』
『私の趣味は映画鑑賞です』
『オイ映画鑑賞ダッテヨ? 聞イタカ?』
『マッタク、趣味ノナイ奴ラ、読書カ映画鑑賞ッテ言エバイイト思ッテイヤガル。聞キ飽キタゼ』
『趣味ノナイツマラン人間ハイラン。次ダ次』
『ぎゃああああああああー』
壁の向こうから聞こえてくる声に、木村君は青くなりました。
木村君の趣味は読書です。本を読むことが大好きで、休日にはよく図書館に出掛けます。週に二冊は本を読み、感想をノートにつけたりしています。
ですが……
『趣味は……えっと、読書です』
『ケェケェケェ! 貴様モカ! 正直ニ言エヨォ!』
『読書ト言エバトリアエズ格好ガツクト思ッテル馬鹿ガァ! オマエミタイナノ見飽キタンダヨォ! 正直ニ言ワネェト無趣味トミナシテニートボールニスルゼェ!』
『う、ううっ! しゅ、趣味は、ゲームとネットと睡眠です。あとフィギュア集めと、声優の――』
『ハァハァハァ! 不採用ォォ!!』
『や、やめてくれぇぇぇぇ! ニートにしないでくれぇぇぇぇ!』
(……い、言えない)
(趣味が読書って言えない……!)
ついに木村君の番になりました。
青い顔で面接室に入ってきた木村君を、妖怪達がじろじろ値踏みします。
「趣味ハ、ナンダ?」
「僕の趣味は……ど、ど――」
妖怪が意地悪くニヤリと笑います。「ドォ?」
「ど、ど……どどい……つ――」
思わず渋い嘘が口から出そうになった瞬間、木村君の中で、様々な光景が走馬灯のように駆け巡りました。
お母さんが泣きながら裁判長にとりすがっています。
(あの子が趣味が読書だなんて言うはずないんです! あの子は嘘をついたりしません! 信じてください!)
近所のおばさんがニュースの画面の中で頷いています。
(ああ、あの子ねェ。なーんか、趣味が読書とか言い逃れそうな子だと思ってたわァ。怖いわァ)
恋人が哀しげに呟きながら去っていきます。
(だってあなた趣味が読書とかはぐらかしてばかりで……ちっともあたしに本音をぶつけてくれなかったじゃないの……)
「ち、違うんだ……」
気付くと木村君は震えながらそう口にしていました。
「アァン?」
「嘘じゃないんだ……本当に読書が趣味なんだ……」
「マタ読書ガ趣味キター!」
「キター!」
「ち、違うんだ! 本当なんだ! 本当に読書が好きなんだ! 何も好きでもないのにとりあえず趣味は読書って言っとけっていう奴らばかりじゃない! 本当なんだ! どうして好きなことを好きって言ったら嘘扱いされるんだよぉ!」
「趣味読書ォ! 趣味読書ォ!」
「ウーソツキ! ウーソツキ!」
「違うんだ! 信じてくれ!! 俺はやってない!!! や、やめろおおおおおおおおお――」
*
ベッドの中でうーんうーんとうなされている木村君。
机の上に乗せられた就活用の面接シート。
趣味の欄に、読書という二文字が、居心地悪そうに並んでいました。