第101話 善意の第三者 終 ~責任の取り方~ Bパート 

文字数 9,698文字


 ただ、みんな何かを考えているのか誰も口を開く様子が無い中、殺伐とした空気だけは充満している気がする。
 本当なら今は統括会だから関係ない話をする訳には行かないとは思うけれど、彩風さんがお昼に言っていた、優希君の方から何の用があって雪野さんの所へ出向いたのかとか、もう私には何の未練もないのかとか、聞きたい事がたくさんあったりもする。
 でも優希君の頬が赤い事とか、何を聞いても知りたくなかった答えが返ってきそうな気がして、私の方からは何も聞けない。
 だから一番無難で、すぐに決まりそうなことから確認しようと口を開く。
「終業式の日の統括会の話ってどうするの? そもそも統括会としてのあいさつの時間、あるの?」
「ああ。その辺りは毎月の全校集会とほとんど変わりは無いから、また原稿用紙1枚分程度で良いからお願いできるか?」
 七月はテスト期間と重なった上に、終業式も目前だと言う事もあって全校集会自体が無かったのだけれど、基本的には毎月一回第一月曜日に行われる全校集会の時に、統括会から10分弱の割り当て時間で一言挨拶があるのだ。
「分かった。じゃあ原稿用紙、また終業式直前に渡せば良い?」
「ああ。それで十分だ。岡本さんの字も、文面もとても読みやすいから助かるよ」
「……」
 私と倉本君の短いやり取りで決まってしまって、本来なら良い事のはずなのに、それ以降また無言になってしまう。
 そのまま時間だけが過ぎてしまうのかと、アナログ時計から出る秒針の音が耳につき始めた時、
「あの。ワタシに終業式の時に、お時間を頂けませんか?」
 優希君の腕を握ったままの雪野さんが、目を赤くしているのを隠す素振りも見せずに倉本君にお願いをする。
 私は雪野さんが何を言い出すのかはなんとなく分かってはいたのだけれど、倉本君が普段から口にしている事に、嘘偽りが無いのなら認める事は無いと思い、黙って事の成り行きを聞く事にする。
「それはどう言う理由でだ?」
 やっぱり管理者を目指しているからなのか、頭ごなしに否定するわけじゃなくて、ちゃんと耳を傾けるようにはしてくれる。
「ワタシは全校生徒に謝らないといけないんです」
 それだけを言って、涙するのを耐えるためなのか優希君の腕を握る手に力が入るのが遠目に見ても分かる。
「それは本当に雪野

が悪いのか? だから雪野が謝らないと駄目なのか?」
 そして辛抱強く雪野さんの話を聞く倉本君の顔に、疲れがにじみ出ているのがやっぱり垣間見える。
「……ワタシの友達が生徒たちに迷惑をかけていました。それを知らなかったとは言えよく確かめもせずに一緒になって周りに迷惑をかけてしまいました。生徒の模範となる統括会の役員としてワタシは恥ずかしいんです」
 そう言って雪野さんが泣き出してしまう。
「雪野の言い分は分かった。だけどその理由じゃ雪野の為に終業式の時間を取ることは認められない」
「なんで」――ですかっ!
 ハッキリと倉本君が断ってくれて、ほっと胸を撫で下ろした瞬間、二方向から抗議の声が上がる。
 そして――
「冬ちゃんが自分から謝りたいって言ってるんだから、自分で謝らせれば良いじゃない」
 ――私の隣に座る彩風さんが、剣呑さをそのまま言葉に変えて倉本君に言い返す。
「霧華っ! 今は俺は雪野と喋ってるから黙ってくれ――雪野。雪野の役員としての自覚はある意味立派だと思う。だが、今まで何度も言ってる通り、俺たちは一つのチームで、頼りないのは分かるが俺が代表として会長をしてる。だから雪野の行動に、間違いに最後まで気付けなかった俺たち全員の責任だ。だから俺が雪野の分も合わせて、統括会の挨拶の時に一緒に謝る――岡本さん。原稿用紙二枚になっても良いからその分の言葉、文章をお願いしても良いか?」
「分かった。こっちで考えるよ」
 本当に。自分の部下と言うか、後輩の責任をうまく説明した上にためらいなく責任を取ると言えるのだから、その点においてはすごい人なんだなって素直に思える。
「何で冬ちゃんの尻ぬぐいばっかり、清くんと愛先輩がしないといけないの? これだけ好き勝手して好き勝手言って副会長まで振り回した挙げ句、アタシや愛先輩が怖い思いまでして『いい加減にしろっ霧華! 感情だけで物を喋るな。俺たちは何度も同じチームだって言って来ただろ。それとも何か? ちょっと気に入らない所があるからと言って、霧華は相手もせずに放っておくのかっ!』――」
 前みたいに“帰れっ!”とまでは言わなかったけれど、最終的に責任を取らないといけない倉本君や、雪野さんとの噂の事で私がとても辛い思いをしている事を、彩風さんが気にしてくれている事が、どうして分からないのだろうか。
「倉本君言い過ぎ! 何で彩風さんに対してそこまでキツく言うの? 倉本君や私の事を気にしてくれているの、倉本君ならちゃんと分かっているんじゃないの?」
 私は前みたいに彩風さんが涙してしまわない様に、彩風さんを後ろから抱きしめるようにしながら、倉本君をたしなめる。
「分かってはいるが、雪野だって同じ統括会のメンバー――」
「――だから何? だから彩風さんには強く当たっても良いって言う事? それこそ彩風さんも私たちと同じ統括会メンバーなんじゃないの? なのにどうして彩風さんだけはそんな言い方なの?」
 そして倉本君の言い訳を途中で唾棄(だき)――とまでは言わないけれど、切り捨てさせてもらう。
 そんな訳の分からない矛盾で女の子が涙しないといけないなんて、女である私は絶対納得しない。
 私は倉本君に抗議の目を向ける。
「……悪かった」
 私のキツめの言葉に折れたのか、私の抗議の視線に折れたのか、倉本君が短く一言謝る。
「倉本君。これで二回目だからね」
 そして私が三回目は無いよって言う意味で牽制したところで
「岡本先輩はワタシが憎いんじゃないんですか? ワタシが謝って統括会を降りたら良いって思ってるんじゃないんですか?」
 「ちょっと雪野さん!」
 雪野さんが私の心を勝手に決めつけるのを、優希君が慌てて止めに入る。
「雪野。岡本さんはそんなこと考えてないし、本音で言えばここにいるメンバー誰一人雪野のことを辞めさせ――」
 そして同じチームだと言っていた倉本君の意見も汲み取って、優希君に続いて倉本君が言い終えるまで待とうと一度は、いや、初めはそう思っていた――けれど、
「ちょっと雪野さん。何で私の意見、気持ちを勝手に決めつけんの? 私がいつそんな事言ったよ」
 前々から薄々とは感じていたけれど、彩風さんに言うのと雪野さんに言うのとではあまりにも言い方や、声のトーンが違い過ぎる。
 その事が我慢ならなかった私は、再び倉本君の言葉を(さえぎ)ってしまう。
「……」
 だけれど私の方を親の仇でも見るかのような目つきで見て来るだけで、口は開かない。
「私がいつ雪野さんの事を邪険にしたよ? 倉本君の言う通りじゃなくても、優希君の方が言い易いんなら、話を聞いてもらえば良いって私、ちゃんとあの時言ったよね」
 なのに腕組んで歩いたり、お弁当作ってきたり、私の好きな人に勝手に口付けまでして……好き放題して。
 一方私は人の気持ちは強制できないからって、我慢してきたり出来る限りの譲歩もして来たのに。
「その後の事も、ちゃんと全校生徒の前で謝るなんて事は認めないって言ったよね。しかもその事は倉本君もさっき言ったばかりよね」
 私と優希君の初めてをいくつも奪っておいて、絶対に悲劇のヒロイン気取りなんてさせない。
「これらのどこに、私が雪野さんの事を憎んでいるとか、統括会を降りて欲しいと思ったのか言ってみなよ」
 倉本君にどう思われようがそんな事はどうだっていい。これ以上優希君に嫌われたくない気持ちはすごく強い。
 だけれどそれ以上に、こうも倉本君の中で、彩風さんと雪野さんの扱いの差が露骨なのも気に入らないし、今はまだ私とお付き合いをしているのに今も、優希君に触れっぱなしなのも気に入らない。
「……いつもいつもそうやって自分の方が立場は上だって誇示出来て、何もかも岡本先輩の思い通りにいって満足ですか? 『ちょっと冬ちゃん! 愛先輩になんて失礼な事を言うの?! 今すぐ謝っ――』間違っていたから責任を取る。それのどこがおかしいんですか?! 世の中みんなそうやって社会は回ってるんじゃないんですかっ!」
 途中で彩風さんが激高して口を挟むのを、私が彩風さんの肩を叩いて止める。
 そして雪野さんの考えを最後まで聞くのを
「……」
 やっぱり優希君が嬉しそうにしてくれる。でも、もうすぐしたらその笑顔すらも雪野さんの方に向いてしまうのかと思うと、とてもじゃ無いけれど私の方に微笑み返す余裕なんてない。

「私は認めないよ。雪野さんが降りる事も、誰かと交代する事も。私

優希君は認めない」
 それでも前にも言った通り、一部メンバーは卒業してしまった先輩の為に入れ替わってはいるけれど二年間書記をしてきて、みんなの頑張りを見て来て、その分の記録もつけて来ている。そのみんなの頑張りにケチをつけるような事は、私と優希君は認めない。
「認めないって、ワタシに無責任な人で居ろって事ですか! 知らなかったとは言え、ここまで話が大きくなってしまったとなれば、ワタシが辞めるのが筋なんじゃないんですか!」
「ここまで話が大きくなったって、雪野さん。なんか関係あんの?」
 朝、優希君から聞いた雪野さんの友達の“停学”の事だとは思うけれど、雪野さんの話は今朝の一限目の時の保健室での聞き取りの時も含めて、全く触れられる事が無かったのだ。
「――それについては、来週月曜日に公表になる学校側の処分を、先に俺の方から伝える」
 私と雪野さんの言葉に答える形で倉本君の口から伝えられたのは、

①今回の主犯の生徒、二年の男子サッカー部の生徒がもう既に今日から初学期終了までの実質4日
 間、学校側からの停学処分。
②残り加担していた四人の先輩女子生徒は親の呼び出しと厳重注意。そして今年度の学校側から
 の“指定校”を含む“推薦”の取り消し
③顧問・部員の連帯責任として、今年度の園芸部の部活禁止

 の三つだった。
「ちょっと待って! 園芸部の部活停止って……今回園芸部って被害者じゃない!」
「……」
 思わず上げた声に対して、優希君が優しい表情を浮かべてくれるけれど、それって優珠希ちゃんや御国さんの力に私はなれなかっ――
 ――これは確認だけだから。これからする質問に対して答えた岡本さんが気に病んだり、責任を感じたりする必要は全くないから――
 ――途中で穂高先生の言葉を思い出す。
「それでも今回の件で、真っ先に気付いて止めなければいけなかった顧問が機能していなかった。だからそう言う意味では園芸部の部員が絡んでいる以上、加害者にもなりうると言うのが学校側の見解だ――そしてそれは決して該当生徒二人だけの責任じゃない。そうなる前に止められなかった、周りに知らせると言った事をしなかった周りの責任にもなるんだ。それが連帯責任だと言う事は雪野にも分かるな」 
(同調圧力:無圧・他圧)
 前半部分は思わず声を上げた私に、後半部分はあくまで一人の責任じゃ無いって言う事を雪野さんに言い含めようとする倉本君。
 ひょっとして倉本君が時折見せる疲れた表情は、これだけの話をするために私たちが揉めている間に、一人で学校側と交渉して、話をして、引き出したんじゃないのか。
 だからこの騒ぎの間にもほとんど顔を見る事も無かったし、見たとしても私への相談事と言うか、倉本君の弱音を聞いた時くらいしか姿を見なかったんじゃないのか。
 本当に、本当に。倉本君は指導者として一人で頑張り過ぎだと思うけれど……私が力になりたくて力になったとしたら、倉本君が勘違いをしてしまう。
 それに倉本君の“俺の力になって欲しい”と言うお願いを聞く形になってしまう。分かっているのに、協力できない……私はどうしたら良いんだろう。
 私は一人悩みに対して深みにはまりつつある一方、頭の固い雪野さんは自責する。
「それって言い換えてしまえば、友達のワタシが気付いてきちんと止めてさえいれば……」
 そして再び泣き出すのを、隣に座っている優希君が雪野さんの両肩を優しく抱いてなだめるのを、内唇(うちくちびる)を強く噛んで感情が爆発してしまわない様に必死で押さえつける。

 ――(こう)の所有物を、(おつ)が盗んで、(へい)に譲渡した場合、盗んだ事を
    知らなければ(へい)は善意の第三者であり、(おつ)の共犯とはみなされない――
 こんな時なのに、感情的には今すぐ雪野さんには目の前から消えて欲しいとまで思っているのに、でも私と優希君の同じ意見を雪野さんの為なんかで変えたくもなくて……揺れに揺れる私の心の中、
「もう見てらんない。冬ちゃん自身が自分で辞める。降りるって言ってるのに、それをアタシ達が止める必要あるの?」
 ――良いですか? “無知は罪”と言う考え方は、
            

であると思って下さい――
「ほらやっぱり。霧ちゃんはそう思ってたんじゃないですか」
 一方でこのまま、頭は固くても不器用でまっすぐな雪野さんを一人ぼっちにもしたくなくて、そんな私の貪欲とも言える感情の中、急速に私の頭が動き出す。
 初めは“鼎談(ていだん)”の時に教頭先生が言っていた『善意の第三者』の意味を調べてみた時には、例え的にも意味的にも当てはまらないと思っていたのだけれど、役割を変えて、キャストも、
 (こう)を女子グループであり、園芸部の先輩女子。
 (おつ)をサッカー部の男子である雪野さんの友達。
 (へい)を雪野さん自身。
 と当てはめ替えてみる。
「……」
 今まで何回かあった雪野さんの友達が働いていた暴力の事は、丙である雪野さんは本当に知らなかったのは言うまでもない。そうでないとあの徹底した“暴力の否定”をしていた雪野さんの考え方にも説明が付かない。
 その上強い言葉で決めつけてしまうなら、雪野さんが自分で少し調べたら分かるような“誰が”“いつ”“どこで”などの具体的な話は何一つ誰の口からも出てきていない。
 雪野さんから聞いているのは『ワタシの友達から、バイトしている人がいるって聞きました』と『協力してくれています』の二つだけだ。
 たったそれだけでも丙である雪野さんに対する、乙であるサッカー部男子の悪意が見え隠れしている事に気付く。
「……」
 しかも雪野さんと私たち統括会メンバーですら、雪野さんの暴力を完全否定しているにも拘らず、雪野さんの友達なら当然雪野さんの性格を知っていても不思議じゃないのに噂を訂正する話すら聞いた事が無い。
 これは私を慕ってくれている可愛い後輩の話だから疑う訳がない。
 しかも雪野さんに至っては友達だからと言う事で、こっちが危ういとまで思う程に無条件で信じるくらい信頼しているはずなのに、その事を意に介していないかのような無反応さにも悪意を感じる。 (50話+89話:連結)
 更にそれぞれの話を耳にしていたとしても、甲である女子グループは、私としては到底認められる事では無いけれど、あくまで部活内での事、先輩として後輩の指導の一環だと言っていた。
 もしこの事を今、目の前にいる雪野さんが私に対してした、園芸部のあの二人にしていた暴力を目に、耳にしていたら、注意するなり、行動していた事は今、自責してる姿を見ても明らかなはずだ。
 なのに甲である女子グループと、乙である雪野さんの友達の間に、何らかの繋がりがあるのにもかかわらず、何もかもが丙である雪野さんには伝えられていない。
 たとえ雪野さんであったとしても、この状況で責任を押し付けられるのは納得が行かない。
 そんな悲劇のヒロインなんて私は絶対に認めない。
 そして乙である雪野さんの友達は、これもまた出どころは分からないけれど御国さんがバイトしている事を理由にして、強請(ゆす)っていた。そしてその事もまた雪野さんには何も知らされていない。知らされていればさっきと同じで、“暴力の

”の雪野さんが黙っているわけがない。
 この学校はバイトは認めていないけれど、家の手伝いをどうこう言う事はしない。むしろ率先して親に感謝しろと言う教えまであるくらいなのだ。 (2話)
 その証拠に何度か先生に話を聞かれる際に、職員室のパーティション内で、私が家の事をしないといけないと言った際も、あの担任の巻本先生もそっちを考慮する素振りすら見せてくれていたはずなのだ。
 だからもしそれで言われるなら私なんて真っ黒だ。
 つまりちゃんと見てみると、甲と乙では行動は一貫していると言うか同じだけれど、その理由は全く違う。
「……愛先輩?」
「どうせ邪魔なワタシをどうやって降ろすか考えてるんじゃないですか?」
 じゃあ甲と乙に何の関係もないかと言うと、そう言う訳でも無い。
 でないと火曜日の男子生徒の“お礼参り”の予告に対して、水曜日に園芸部に顔を出したのは一見全く関係のない、私の足を蹴った女子グループであって、あの男子生徒じゃなかった事に説明がつきにくい。
 更にその証拠として、水曜日に現れた園芸部の女子生徒たちは私の目の前で“昨日の協力者”とハッキリ言ったのだ。
「違うよ。そうじゃなくて愛美さんは今、雪野さんを守るために考えてくれてる」
「……」
 つまり明確に甲と乙には繋がりがあって、でも甲と丙には直接の繋がりは無いし、乙の行動を丙は何も知らない。
 だとしたら、法律ですらも丙に対しては共犯者とはみなされないと、調べた辞書には書いてあった。
 その上で教頭先生からは前もって“無知は罪ではない”と“この場合は当てはまらない”と言いきっているのを聞いている。
 つまり、バイトをしている、していないの話においても甲と乙は真実を知っていた可能性が高い。
 なのに雪野さんの態度を見ても分かるように、それが過ちであるにもかかわらず、知らされたのは、昨日の夕方か今朝から停学になっていると言う友達の話と、空白になった机を見てからの可能性が非常に高い。
 言い換えるとそれまでは友達の言う事をそのまま信じて、本当の話は知らなかったと言う事になるんじゃないのか。
「愛先輩……すごい集中力」
 そして今回は倉本君と彩風さんの二人で交渉をするようにと、私を省く前提での話の持って行き方。それに教頭先生が倉本君に言ったらしい、統括会としてのあるべき姿として、雪野さんの事をどうにかする事に集中する様にと、校内の暴力事件・噂の話は学校側で対処すると言う話。
 あの時も同じ事を思ったけれど、ほんの少しだけ視点を変えることが出来れば……やっぱり雪野さんを守るように、守れるように知恵を絞れ。そっちに集中しろと言っているようにしか聞こえなくなる。
 その全ての事を踏まえて結論を出すとすれば、
「誰が何と言おうと雪野さんの交代は認めない。今回の騒動に関して全く責任の無い雪野さんが辞める理由はどこにも見当たらない」
 私と優希君。それに

に学校側と意見が一致してしまう。
「……」
 私の意見と言うか、最後の結論が変わらなかった事に、いつの間にか雪野さんから離れていた優希君が、やっぱり嬉しそうに私の方を見てくれている。
「何でですかっ! 愛先輩の乙女心は分かりますけど、これだけまわりに迷惑をかけた上にアタシ達にも冤罪をかけられたんですよ! その上で冬ちゃんが自分で辞めたいって言ってるんですから、もう良いじゃないですか! せめてその結論になった理由を聞かせて下さい!」
 本当なら水曜日に約束した通り、この統括会で彩風さんにはちゃんと説明する約束だったのだけれど
「……」
 教頭先生があそこまで鼎談(ていだん)の時に私に言っておいて、匂わせておいても交渉の場には立たせないと言っていた事を考えると、まだ私が気付いていない意図があるのか、純粋にみんなで頭をひね――
 ――俺は管理者に向いてないのかもな―― (90話)
 まさかとは思うけれど、ノーヒントで管理者として倉本君に考えさせるつもりなのか。
 この学校は倉本君に対して厳しすぎるんじゃないのか。私ならノーヒントで解答にたどり着けるとは到底思えない。
 それとも“上位管理職”と言うのはこんな事まで求められると言うのか。
 私は教頭先生が何を考えているのか、その片鱗だけでも知りたくて、
「倉本君に聞きたいんだけれど、火曜日だっけ? 私に相談してくれた雪野さんとの事、誰かに相談しても良いとかなんかそう言うような事、言われた?」
 教頭先生と倉本君の間で交わされたであろう会話を教えてもらう事にする。
「いや、みんなで相談して下さいとは言われたが、特にそれらしい事は良いも悪いも無かったな」
 けれどそう言う話は一切していないのか。私には交渉の席には同席出来ないと言われて、倉本君には何もなし。
 その上での――答えが分かった時点で、担任の先生を通す必要はありませんから、私か養護教諭に答えを述べて下さい――あの教頭先生の言葉。   (82話)
 何となく今、私の中にある答えで良いのかは分からないけれど、とにもかくにも私が何かしらの答えを持って来るところまでは予想している気がする。
 そこまで頭の中をまとめたところで
「今度統括会じゃない所で、二人きり……いや、中条さんもいる時に説明するね」
 この場での明言を避ける事にする。
「……分かりました。今日中に中条さんにも言いたいので、中条さんにアタシが伝えるって事で、今日の夜に改めて電話しても良いですか?」
 私が倉本君に質問した後で答えたから察してくれたのか、この後、優希君とゆっくりお話をしたいって伝えておいたのを汲んでくれたのか、彩風さんが夜に改めて電話をくれると言う。だからその時に私が説明すると返事をしようとした時に、
「そうやってまた、岡本先輩はみんなに秘密を作るんですね」
 まるであの時の服装チェックの事を言っているような口ぶりで、何の事情も知らない雪野さんが私を煽って来る。
「さっき愛先輩が集中して考えてくれていた姿を見てたんじゃないの? なのにまだそんな事言うの?」
「それだって岡本先輩が何を考えていたのか分からないじゃないですか」
 そしてさっき優希君が言ってくれていた事に

、何も耳を傾けていない雪野さん。
「そう思うだけの事が、冬ちゃんの中にあるって事じゃない」
 そして彩風さんも、雪野さんの自責が抜けきっていない事を落としてしまっている。
「今のはさすがに雪野さんが悪いって」
 優希君が言葉

で止める。
 だけれど雪野さんとしては、想いを伝えた優希君が私の方に付く形になったのが悔しかったのか、
「どうしてワタシの気持ちを伝えたのに、岡本先輩の味方をするんですか? ワタシの優希先輩を好きな気持ち、ワタシの

を優希先輩自身の

感じ取ってくれたんじゃないんですか?『ちょっと冬ちゃんっ!!』ワタシ、優希先輩からの返事を言葉じゃなくて、ココで待っていますから。ワタシ、優希先輩に精一杯尽くしますから、一人にしないで下さい」
 私がいる目の前で、雪野さんが自分の唇を指さしながら改めてみんなの前で優希君に告白する。

 そして私は漠然と雪野さんが告白したら、優希君の気持ちも聞かないで勝手に優希君の気持ちも決めつけてしまうんだと、とことんまで優希君の話を聞かないんだなって思って見ていた。

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
               「愛先輩……」
          統括会後半、荒れに荒れる役員室内
         「……もう愛美さん。僕の事嫌いに――」
           入り乱れる5人の感情と、ココロ
      「……ひょっとして。お父さんも浮気した事あるの?」
             思いも寄らなかった事実

    『大丈夫。どんな事があっても愛さんの心はわたしが守るんだよ』

         102話 好きと好きの強さ ~男女の心根~
 
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