第36話 良美と亮介と母親の三人で夕食する

文字数 702文字

「只今っ!」
「こんばんわ、お邪魔します」
元気よく玄関を開けた良美の後から、大柄な亮介が桟を気にしながら頭を下げて入って来た。 
「いらっしゃい」
母親の良枝が笑顔で迎え、良美から受け取った折箱を開いて驚嘆の声を挙げた。
「まあ、立派な塩鯛だこと!」
そう言って、良美が用意した丸い大皿に三人分を取り分けた。
「今日の現場はお寺や神社じゃなかったのね?建前にこんな鯛を出す処は、大きな住宅の家屋じゃないと他には無いんじゃないかしら?」
「我社じゃ社寺関係の仕事の他にも、宮大工集団としての技術を駆使して、和風住宅や数寄屋建築なども手掛けている。総売上の三、四割は民間住宅関係だよ」
「そんなにも?」
「ああ。国産の杉や檜など身体に優しい自然素材を使った家造りだ。化学製品で作られた新建材は一切使わず、断熱材や壁材なども人と環境に優しい自然素材を使って、長く快適に暮らせる住居を提供する訳だよ。丈夫で身体に優しい材料を使えば家は長持ちする。大がかりなメンテナンスをしなくても五、六十年は持つ。適切にメンテを行えば百年は問題無い。我社は宮大工の技を駆使した木造建築の専門会社だ。木造住宅は木の温もりに溢れているし、室内の調湿作用やクリーンな空気も魅力的だよ」
「まるで良いとこだらけの宣伝文句ね」
良美が茶化すと亮介が真面目に答えた。
「ただ、シロアリにちょっと弱い処が有るのがマイナスかな。それに、値段がどうしても高くなる。基本仕様として自然素材を使った家で坪あたり八十万から百万円。純和風の本格住宅だと百万から三百万円ぐらいが目安だから、やっぱり高いと思うよ、俺も」
「なんだ、良いとこだけじゃないんだ」
三人は和やかに笑い合った。
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