第1話 「不平等」

文字数 2,336文字

 ある日の夜、幾何学きかがく模様のセーターを着たオッドアイの少年と、カタギの人間ではない強面の父親が家の中で物音を立て言い争いをしている。

いい加減お前もそろそろ、こっちへ来い。

人手が足らねえんだ。お前は俺に似て、顔がまぁまぁ良いから色んな使い道がある。

そんな、下らねえ世界には行かねえって何度も言ってんだろ! ふざけんなっ!
ガキが誰に、どの口を聞いているんだ!

テメェの顔見ているとイライラすんだよ!

テメェがそんなんだから、母さんが出て行ったんじゃねぇか!

少年は父親の顔面を目掛けて殴りかかるも、容易にかわされてしまう。

おっと、この顔は商売道具でもあるんだ。かすり傷1つ付けるのも許さんぞ。

誰のお陰で、生活が出来ていると思っているんだ?

 次の瞬間、父親は“三日月蹴り”と呼ばれる蹴り技を繰り出し、少年はまともに食らってしまう。


 倒れ込むも父親はそのまま立ち去って行くのであった。









 …………。




(約10分後、痛みが引いて立ち上がる少年。怒り狂う訳でもなく無感情で家を出て行く)


  ・

  ・

  ・

  ・

  ・

  ・




【四苦八苦公園】


 10㎡位の敷地で遊具が無く、2つの朽ちたベンチが向かい合い、

 古く錆び付いた水銀灯がぼんやりと照らす管理が行き届いてない小さな公園。

クソッ! アイツには力で勝てねえぜ。


家から母さんが逃げしてから、

あの最低クソゴミオヤジと取り残されてもう1年位か……?



そりゃ、その息子はグレて当然だろうよ……。

あの最低クソゴミオヤジには勝てんが、

そこら辺のイキがってる連中、ぶん殴ってストレス解消すっかな?

 …………。









――冷静になれ。もうこのご時世、それはマズイ。

今じゃ誰が何処で撮影してるか分からんし、少年院なんて絶対入りたかねぇし、


全く世の中不平等だぜ……。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

【株式会社 アラガンス システム部】


整理されていない机が横並び、書類・ファイルが乱雑状態で雰囲気も悪い部。

地位を乱用し横暴な立ち振る舞いをする上司と、マイナスオーラ漂う冴えないOLがいた。

○○○君っ! あの報告書は一体何だね? 

誤字・脱字だらけだし内容もまるで駄目だ。仕事ナメてるのか?

……申し訳ございません。

君はいつもそれしか言えんのかね?

残ってでも明日の朝までに必ず再提出だぞ! いいか、わかったな?

……はい。

全く君のせいで、退勤時間が5分も遅れてしまったじゃないか。

人の時間を奪うことは殺人と同罪なのだよ? じゃあ私は帰るからね。



――ほら君達。早く帰りなさいよ。

はーい、帯刀(たてわき)代理お疲れ様でーす!
聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームでヒソヒソ話をする同僚達。
ねぇ、あの人また怒られてるよー!
怒られるのが好きで、わざとなんじゃなーい?
単に、バカなだけでしょー?
さぁて、早く終わらせてみんなでケーキバイキング食べに行きましょ?
さんせーい☆

他のシステム部の社員が、

このOLを除き全員退勤したフロアで、1人黙々と報告書を再作成していた。

――やっと終わったわ。2回チェックしたし今度は大丈夫ね。


それにしても本当最近ワタシどうしちゃったのかな?

今更だけどこの仕事、向いてないんじゃないかしら。


気づくとワタシももう32……。

何だか、今日はこのまま家に帰る気分じゃないわ。

気分転換で久しぶりにあの場所にでも行ってみようかしら。

ああいう男の人は女を、容姿・年齢でランク付けしているんだわきっと。

全く、世の中不平等ね……。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 
四苦八苦公園で1人(たたず)んでいる少年。
何か知んねぇけど、やっぱ此処は落ち着くぜ。


…………。 


  ・

  ・

  ・



覇気のない足音が聞こえてくる事に気づき始める。

あぁん?

俺以外にこんな時間の、こんな場所に来るモノ好きが居んのかよ?


しかも何だよアレ、女かよ?

気色悪りぃ。今日はひとまず帰ろ。



  ・

  ・

  ・


ベンチに腰掛けるOL。

久しぶり来たわ。

広くてキレイな公園も良いけど、やっぱりこの寂れた感じが好きなのよね。

ワタシに似てるからかしら……。

――そういえば、さっきの男の子こんな時間の、こんな場所でどうしたのかしら?

いや、人の事心配してる場合じゃないわね。

明日はしっかりしなくちゃ。







次の日 


【株式会社 アラガンス】

報告書は問題なかったみたいだし、さて今日は早く帰って……?
OLに起毛フロアマットをスリッパで駆ける音が近づいてくる。

急だが明日、新規の取引先が来る事になった!

我がシステム部にも見学に来るそうだ。

――だが見ての通りこの有り様では、迎えることなど出来ん。

こないだのミスの件もあるし、私の言いたい事わかるかね?

はい、承知しました……。

おぉ、そうかそうか! いやーすまないねー。

電気と鍵だけ忘れないでくれたまえ。じゃっヨロシク!

ヒソヒソ話をする同僚達。
今の話聞いたぁー? かわいそぉー☆
じゃあ、手伝ってあげればぁー?

冗談じゃないわ!

これからクレセンターズのライブ行くんだから♪

私だって今日は、寂しがり屋の彼のとこ行かなきゃだし♪
別に私達には言われてない訳だしー。
ほっといて、ねぇ早く帰ろ、帰ろっ☆
昨日に続き、他のシステム部の社員が全員退勤したフロアで、1人黙々と片づけを行うOL。

――終わったわ。普段から全員が整理しておけば、わざわざこんな事する必要ないのに。



だけどミスの件を言われちゃ何も言えないわ。

今日もまたあの場所行こうかしら……。


  ・

  ・

  ・




OLが向かった四苦八苦公園には既に少年がベンチで佇んでいた。

ゲッ! 昨日見た女じゃねぇか、何で今日も居んだよ?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

京 策也(かなどめ さくや)17歳

ヤクザの父親のもとに生まれ、母親は逃げ出している。

オッドアイのイケメンで顔立ちは上の上。

幾何学模様(アーガイル柄)のファッションが好み。

学校へは行っていない。

偉人の名言や漫画知識を武器に周囲を魅力していく。

日下部 らら(くさかべ らら)32歳

両親は幼少期に離婚し、母親は他界。

自分の名前が嫌いでマイナスオーラを纏う。

学歴は良いが、仕事はイマイチ。胸は大きい。

谷宮 理麗(たにみや りれい)17歳

策也と幼馴染。小6で転校になるも親の都合で、地元に帰ってくる。

言動から尻軽女の雰囲気が滲み出ているが……?


帯刀 龍一郎(たてわき りゅういちろう)51歳

独身。ららが所属するシステム部の上長。

ららに対し地位を乱用し、横暴な立ち振る舞いをする。

狡猾な性格だが、会社には貢献している。

袴田 禰音(はかまだ ねおん)12歳

理麗が小学6年生の時に転校した学校のクラスメート。

妙に女の子に慣れており、巧みな会話で引き付ける。

佐野 護(さの まもる)28歳

ららの配置転換先【開発部】の社員。

どこか抜けているが誠実な弟キャラ。

サイバーイントリーグの店員 ??歳

片メガネ型コンピューターを装着している。素性が一切不明。

客の思考を分析し、最善策を提供する。

独自のソフトウェアを開発し、エンジニア・プログラマーの世界で暗躍している。


京 鋭士(かなどめ えいじ)43歳。

策也の父親で、正真正銘のヤクザ。

すぐに暴力をふるう為、妻に逃げ出される。

策也を組へ引き入れようとしている。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色