第9話 「違和感」

文字数 2,857文字

《翌日》


【株式会社 アラガンス システム部】

日下部の奴、すっぽかしやがって……。 

連絡もつかない、クソがっ!

あやつのせいで私がとんだ恥だ。灸を据えて目にモノ見せてやる。

「Trrrrrrrrrr」 《通話》 
帯刀代理! 本社の社長からお電話です。

(あのメールの件か……?)

――お電話代わりました。帯刀です。


帯刀君、事態は既にお分かりかね?

えっ……? あっ、いえ何かございましたか?

(一体何をおっしゃっているんだ?)

どうやら張本人である君は事態を把握していないようだね。

少し話そう。ヘリで今すぐソチラに向かう。30分位で着くだろう。

お手数をおかけします。







帯刀君、まずは何も聞かずコレを見てくれ。
ららが撮影に成功した一部始終の動画を見せられる帯刀。
ハッ……!
では確認しよう。コレは事実かね?
……。
質問に答えたまえ。
――はい。

君には期待していただけ失望した。

次期の人事で君の昇格も視野に入れていたのだが誠に残念だ。

こんな事、先方が望んだことなのか?

いえ……私はただ。

馬鹿者! 戯言は結構だ。

一昔前はザラにあったと思うが、もうそんな時代とっくには終わった。

近年パワーハラスメント行為は社会問題となり如実に表沙汰となるのだぞ。

私が積み重ねてきたものをないがしろにする気か!

世間からブラック企業だの揶揄やゆされ企業価値が下落するんだ。


幸い、まだおおやけになっていない、が。このままこちらが下手に隠してしまうと、

株主総会・マスメディアに公表されかねない立場なのだ。



君の処分が”懲戒免職”という形で片が付く。


何か異議申し立てはあるかな?

そんな……社長っ!

では決まりだ。ご苦労。

金輪際こんりんざい関わらないでくれ。一刻も早く私の視界から消えろ。

(側近に連れ出される)

(日下部という社員の裏に相当頭のいい奴がいる。

 今後の待遇を考えねばならんのぉ……)

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



策也の工作が功を奏し、ららの元上司、“帯刀たてわき 龍一郎”は懲戒免職となり、

事あるごとに噂話をしていた連中も、社内調査によって嫌がらせが浮き彫りとなり依願退職していった。


本社の上層部は、ららと面談し謝罪の意、具体的な誠意を形にして謝礼した上、

話し合いの末、部署移動を取り計らい、これからも勤続することになった。

策也が考え得る最高のシナリオで幕を閉じ、その日はそのまま退勤となり、

会社の外では策也が待ってくれていた。


《今日の経緯を策也に話しながら四苦八苦公園へと向かった2人》

それは、良かった。本当に良かった。


(……正直こんなにうまくいくとは逆に怖いぜ)

ホント、策也君のお陰だよ。

まともでない人間の相手を、まともにすることはない

――戦国武将・伊達政宗の言葉だ。

当事者として身にしみる。その通りね。

ありがとう。覚えておくわ。

あっ、そうだ。俺、

近日中にあの家、出ることにしたよ。

そっか、でも策也君ならどこだって大丈夫な気がする。



……そういえば、ワタシ策也君に何かお礼しなくちゃ!

別にんなもんいいんだよ。俺が言い始めて俺がしたこと。


――そうだな、俺は俺の可能性を広げてそれを確信したんだ。それで十分だ。

で、でも……。

いいんだよ。

じゃあ、その“礼をしたい”って気持ちで十分だぜ。

…………。

そ、そうだわ! 策也君、ちょっと手を出して?
ん? あぁ。
《顔を赤らめながら、策也の手を自分の胸に引き寄せるらら》



ムニュ”……。




なっ!?

今、私が思いついて出来るのはこれくらい……よ。

それとも、オバさんのじゃ嫌だったかな?

ぜ、全然イヤじゃないってか、不器用にも程があんだろららさん?

"感謝は、形にしないと伝わらない"

ってテレビの人が言ってたわ。

――わぁったよ!

その気持ちと、この感触確かに受け取りました!

《それからベンチに座り、他愛もない話をする2人》








……あれ、策也かな? 誰と話してんだろ?

策也は1人っ子だからお姉さんではないとすると誰?

何かすごい楽しそう。何か良い感じじゃん。 何、あの女?

ムカつくわ。よしっ……!







ちょっと!

おっと何だ急にっ!


……理麗じゃねえか。

策也はね、あたしのカ・レ・シなの!

近づかないでくれる? シッ、シッ!

なっ、おいっ、ちょっ!
……。

あら、それはそうとも知らずごめんなさいね。

オバさんが邪魔して申し訳ないわ。

策也君、ワタシ帰るわね……。それじゃ。

おい、ちょっと! 違う! ら……!
ら? らって何よ?

ふざけんなよ? 理麗てめえ!

昔みたいに、吐くまで泣かせてやろうかオラッ!

何よ、そんな怖い顔しなくていいじゃなーい!

何か問題でも~? っていうか、何~? 誰~? あの女。

今のお前に話す必要はない。

ちょっと、こっち来いオラッ!

痛い、離してっ! 何? 説教でもするつもり?

お前、この間もそうだったけど、昔はそんな奴じゃなかっただろ!?

もっと純粋で、控えめで静かな女だった!

あたしを全部を知った様な事、勝手に言わないでよ。

何も知らないくせに。昔から悪い女だったわよ。知らなかった?

辛い事でもあったのかよ?

引っ越ししてから何があったんだよ?







……ズズッ。


《鼻水をすすりながら、策也の胸にすがって泣きつく》

おいおい、どうした。

覚えてる……?

5年位前の今頃だったかな、電話で話したよね?

あぁ……あん時か。他愛もない話したな。

あの時、実は辛くて助けて欲しかったの。

でも策也に迷惑かけたくないから、言えなくて。

本当は今も言うつもりなんてなかったんだけど、

女の人と仲良くしてるの見たらついイライラしちゃって……。





――思い出したぞ!

あの時の電話口のお前、そういえば何か違和感あったんだ!

何でその時、言ってくれなかったんだよ!

すぐにでも助けてやったのによ。


かくいう、俺ももっと踏み込むべきだったな……。

策也の性格なら、すぐ来てくれるのは分かってるわ。

でもだからこそ言えなくて。

はぁ……今からでもいい、聞かせてみろよ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【転校 初日】 回想 ~ 理麗 小学6年生 6月








《スクールチャイム音》

おはようみんな! 転校生だぞー!

(口々に)

「えっ、マジ? ホントー!」

入っていいぞー。

○○○市から来ました。谷宮 理麗です。

よろしくお願いします。

ざわざわ……。

みんな仲良くしてくれなー!

では、谷宮さん。あそこの空いてる席が君の席ですよ。







【廊下】《放課後》
ねぇ、谷宮さん!
はい?
僕、袴田はかまだ 禰音ねおんっていうんだけどヨロシクね。
谷宮さんどの辺に引っ越して来たの?

トゥインクル×トゥインクラー

っていうスーパーの近く。

僕ん家と同じ方面だね。

良かったら一緒に帰ろうよ。

(断る理由もないし、せっかく誘ってくれた訳だし)


 いいよ。







女の子に慣れている巧みな会話のやり取りで話を展開する袴田。
――へぇ僕もだよ! 共通点が多いね僕たち。
あっ、わたしん家こっち。
うん。それじゃあ、また明日ね!
また明日。
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登場人物紹介

京 策也(かなどめ さくや)17歳

ヤクザの父親のもとに生まれ、母親は逃げ出している。

オッドアイのイケメンで顔立ちは上の上。

幾何学模様(アーガイル柄)のファッションが好み。

学校へは行っていない。

偉人の名言や漫画知識を武器に周囲を魅力していく。

日下部 らら(くさかべ らら)32歳

両親は幼少期に離婚し、母親は他界。

自分の名前が嫌いでマイナスオーラを纏う。

学歴は良いが、仕事はイマイチ。胸は大きい。

谷宮 理麗(たにみや りれい)17歳

策也と幼馴染。小6で転校になるも親の都合で、地元に帰ってくる。

言動から尻軽女の雰囲気が滲み出ているが……?


帯刀 龍一郎(たてわき りゅういちろう)51歳

独身。ららが所属するシステム部の上長。

ららに対し地位を乱用し、横暴な立ち振る舞いをする。

狡猾な性格だが、会社には貢献している。

袴田 禰音(はかまだ ねおん)12歳

理麗が小学6年生の時に転校した学校のクラスメート。

妙に女の子に慣れており、巧みな会話で引き付ける。

佐野 護(さの まもる)28歳

ららの配置転換先【開発部】の社員。

どこか抜けているが誠実な弟キャラ。

サイバーイントリーグの店員 ??歳

片メガネ型コンピューターを装着している。素性が一切不明。

客の思考を分析し、最善策を提供する。

独自のソフトウェアを開発し、エンジニア・プログラマーの世界で暗躍している。


京 鋭士(かなどめ えいじ)43歳。

策也の父親で、正真正銘のヤクザ。

すぐに暴力をふるう為、妻に逃げ出される。

策也を組へ引き入れようとしている。

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