第2話 「吐露」

文字数 2,933文字

なぁ……?
…………。
おい? 聞こえてねえのかよぉ? アンタだよ?
……な、何でしょうか?
アンタ、何でこんな時間のこんな場所にいんだよ?
その質問あなたにそのまま返すわ……?

ケッ、腹の立つお姉さんだな。まぁいい。

此処はな、滅多に人も来ねえし静かだから俺がこの町で唯一、

心の底から落ち着ける場所なんだ。

あら奇遇ね、ワタシもよ。

この管理されてない寂れた感じがワタシに合うの。

そうかよ。お姉さん、変な人だなアンタ。

…………。


(――せっかく彼が話かけてくれたんだからワタシも)


聞いてもいいかしら? 君、何か家庭の事情でもあるのかしら?

見りゃ大体わかるか……。察しが良いなお姉さん。

こんな所で会ったのもいわゆる邂逅(かいこう)って奴か?


黙っててもしゃあねぇしな、まぁいいか話すぜ?

《邂逅》

思いがけない出会い。偶然の出会い。

――ウチにすぐ暴力を振るう、最低なクソでゴミみたいなオヤジが居んだよ。

そいつのせいで母さんは逃げ出し、俺は取り残されたんだ。

そもそも、何で母さんは奴と結婚したんかわからん。

昔から淑女(しゅくじょ)にとって危険な男って魅力的なのか知らんけどよ。

んで、俺はまだ17。

ケンカにはある程度自信あんだけど、奴は半端なく強えんだ。



この際、ハッキリ言うけどヤクザだ。

力じゃ敵わんし、住む場所も他にねえから、

かつて母さんと3人で暮らしてた奴の家に、今は俺1人で暮らしてる状態だ。

……暮らしてるという表現は間違いかもしれんけどな。


まぁ、そんなところだ。よくある珍しくもない話だろ?

話してくれて、ありがとう。

じゃあ俺も聞くけどよぉ? そういうアンタはどうしたんだよ。

昨日もそうだし、この世の終わりみてえな顔してよ?

ワタシもね……。小学生の頃に両親が離婚してね、理由は聞いてないの。

片親である母親に育ててもらったわ。


迷惑はかけまいと小学校・中学校と勉強だけは必死に頑張って市内で1番の高校へ進学して、卒業後すぐ就職したの。



――本当は学校の先生になりたくて行きたい大学あったんだけど……、

金銭的な問題とか、その他種々(しゅじゅ)の問題で断念したの。


就職したその会社は所謂(いわゆる)ブラック企業。

毎日激務で精神的に追い込まれて一時は自殺も考えたりしたわ……。



だけど、母親を残す訳にはいかないと思ってね。

(わら)にも(すが)る気持ちで思い切って転職したの。

学歴が功を奏して、思いのほかスグ決まったわ。

それが今の会社。最初は良かったの。

色んな仕事を任されて自分の存在価値を噛みしめて、必要とされる日々に充実してたわ。

……だけど、そのうち範囲を超えた仕事も次々任される様になって、次第にミスも多くなってきてね。

断れない性格も、ミスする自分も悪いんだけど。

そうね……。世間一般的に見て、いじめられているわ。

大人のイジメ”よ。もう流石に疲れちゃってね。

ここも辞めようと思ってるんだけど、もうこの年齢で再就職先なんてって考えちゃうの。

それに去年、唯一支えであった母親も亡くなってね。

それもあって正直、行動するのが億劫(おっくう)になっちゃってるの。

厄年って知ってるかしら?

災難や不幸がある年齢のことなんだけど、女って30代の間はほとんど厄年なのよ。

特に33歳はその字の通り散々な目に遭うらしいの。そんなところかしら。

どう……? ワタシもよくある話よね。

(この女……。一瞬だけど話終わった後、少しマシな顔したぞ。何だっけ?

 ――“カタルシス効果だ!) 


《カタルシス効果》

心の苦悩や怒りを言葉にして表現し、吐き出す事で取り除くこと。

(俺みてえなガキに話す位だ。よっぽどなんだな。

 ――そういや昔母さん言ってたな……)



《幼少期の回想へ》




「えーん! 帽子返してよ!」

「ヘヘッ、やーだよ♪」


 女の子に悪戯する男の子の母親が慌てて駆け寄る。


「あぁー、こらっ□□っ! ちょっとこっち来なさいっ! △△ちゃんごめんね!」

「ちぇっ……」


「どうしてそんな事するの、駄目でしょ!

 お友達に優しくって、いつも言ってるでしょ! あんた男の子なんだからいい?


男の子に優しく、女の子にはもっと優しく”よ」

「はぁーーいっ!」 




《回想終了》


(――女の子っていう相手じゃないけど、どっかの物語みたいに助けてやるか? 

 他にやることもねぇし……。

人間は一生のうちに逢うべき人には必ず逢える

 しかも一瞬も早過ぎず一瞬も遅過ぎないときに”か。


本に書いてあったこの言葉思い出したぜ。俺にとってこの女もそうなのかよ……)

もう、お互いの事情を話した仲だ。名前くらい名乗っておくぜ。


俺は策也。“かなどめ策也(さくや)”ってんだ。アンタは?

日下部(くさかべ)よ。

下の名前は?
……。
急にどうしたんだよ?
…………(ボソボソ)
あぁ? 聞こえねえよ?
………………£@。
んんっ? 何だって? もう一回。
……………………。















らら……。

日下部 らら

おぅ、よろしくな“らら”さん!
聞いてなんとも思わないの?
あぁ? 何とも思わねぇよ。
そう……ワタシ、自分の名前嫌いなのよ。意味なんて知らないけど。

いや、そもそも意味なんて無いのよ、ただ響きだけで付けたのよきっと。


“らら”なんて何かメルヘンチックでキャラクターみたいでしょ。

こんなオバさんで“らら”って名乗る度、もうそれだけで嫌よ。

今じゃキラキラネームっていうのかしら? 昔からあるのよ。

(何か、とりあえず嘘でも良いこと言ってやらんとダメだな、こりゃ……(すさ)んでる)

かわいらしい名前じゃねえか。俺は良いと思うぜ。

もしかしたら、ちゃんと理由みたいのあったのかもしれんぞ? 


それに自分の事、もうオバさんだとか卑屈になるのやめようぜ。

(……こんなところか)

あら、優しいのね。

それに大人になってからそんな事言われたのはじめてよ。

年離れてるのに、策也君の方がずっと立派だわ。

(言葉選びは、間違ってなかったようだな)

当たり前よ! 今はまだガキだけどよ。

大人になったら、俺はもっと半端ねえ奴になるんだ。

そんじょそこらの大人じゃねえぞ。

だからよ、ららさん。

その半端ねえ奴になる俺の第一歩を見たくねえか?

(うわっ、勢いで思わず口走ってしまったぜ。


 ――言った以上、後には引けねぇ!)

どういう事かしら?
俺が、ららさんの今の状況を打破する手伝いをしてやる。
……えっ?

まぁ、今はまだ何をどうするか何も決めてねぇけど。

これから此処で会って解決法を考えるんだ。

そんな事……。

まぁ、出来るかどうかわからんけどよ。

やろうとしなければ、多分ずっとそのままだぜ?

策也君、学校は大丈夫なの?
学校? んなとこ行ってねぇよ。

そう……そうよね。


その割にといったら失礼だけど、言葉や考えしっかりしてるのね。

そうか?

そう思ったんなら恐らくそれは全部“漫画知識”だ。

漫画?

あぁ、小さい頃から漫画が好きでな。

色んなジャンル問わず、(しらみ)潰しに読み(あさ)ってたんだ。

漫画知識侮れないぜ?

あら、頼もしいわね。

おぅ、男は頼られてなんぼのもんだ。

まぁ、頼られないと動かんけどよ。そういう生き物らしいぜ。

今日は夜も更けたしもう寒いな。アンタ明日も朝から仕事だろ?

じゃあ、また明日な。

……えぇ。


(大の大人が本当に少年に頼っていいのかしら……)

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登場人物紹介

京 策也(かなどめ さくや)17歳

ヤクザの父親のもとに生まれ、母親は逃げ出している。

オッドアイのイケメンで顔立ちは上の上。

幾何学模様(アーガイル柄)のファッションが好み。

学校へは行っていない。

偉人の名言や漫画知識を武器に周囲を魅力していく。

日下部 らら(くさかべ らら)32歳

両親は幼少期に離婚し、母親は他界。

自分の名前が嫌いでマイナスオーラを纏う。

学歴は良いが、仕事はイマイチ。胸は大きい。

谷宮 理麗(たにみや りれい)17歳

策也と幼馴染。小6で転校になるも親の都合で、地元に帰ってくる。

言動から尻軽女の雰囲気が滲み出ているが……?


帯刀 龍一郎(たてわき りゅういちろう)51歳

独身。ららが所属するシステム部の上長。

ららに対し地位を乱用し、横暴な立ち振る舞いをする。

狡猾な性格だが、会社には貢献している。

袴田 禰音(はかまだ ねおん)12歳

理麗が小学6年生の時に転校した学校のクラスメート。

妙に女の子に慣れており、巧みな会話で引き付ける。

佐野 護(さの まもる)28歳

ららの配置転換先【開発部】の社員。

どこか抜けているが誠実な弟キャラ。

サイバーイントリーグの店員 ??歳

片メガネ型コンピューターを装着している。素性が一切不明。

客の思考を分析し、最善策を提供する。

独自のソフトウェアを開発し、エンジニア・プログラマーの世界で暗躍している。


京 鋭士(かなどめ えいじ)43歳。

策也の父親で、正真正銘のヤクザ。

すぐに暴力をふるう為、妻に逃げ出される。

策也を組へ引き入れようとしている。

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