第3話 ボランティア(共通ルート含む)

文字数 1,623文字

 翌日。
 本来ならば練習日に当たるのだが、今日は少し特別な日らしい。
「お前達は食堂で飯が食えるよな? その飯はどう作られているか。それに感謝するのも目的だ」
 という事でゴルトが貰えるボランティアに参加する事になった。内容は田植えだ。学園が所有する田んぼでの作業で、貰える額は一五〇ゴルトと結構馬鹿にできない。
「遠征以外で学園の外に出る事になるとは」
 バスは二台で、六十人ほどが田植え作業に従事する事になった。
「練習休みはいいけど、田植えとは」
 湯村が少しぼやいた。俺はちょっと楽しみだった。
「いいじゃないか。それに一五〇ゴルトは他のボランティアに比べて美味しい」
「そ、そうなんだけどさ」
 バスに揺られる事二十分。目的地に到着した。
「わぁー」
 バスから降りて声を上げたのは一年生だった。山中の田んぼなので棚田が扇状に広がり、冷たそうな水が下ってゆく。
「棚田か。秋や稲が青々と茂る時に来たらさぞ、綺麗な景色になるのだろうな」
「おいおい、インテリかよ。全く山岡は全てに真面目でいけない」
 たなだ? たなださんの田んぼか。
「田んぼの一つ一つは小さいかもしれないが、量が多い。ちんたらやっていると日が暮れちまう。一年や初めての奴は他の先輩達を見たり、先生や農家の方に聞いてやって欲しい。それと、稲は農機具小屋の所に並べてある。自分らで運んでくれ」
 農機具小屋の所には一輪車などの運ぶ道具が幾つも置かれている。先輩たちは慣れているのか一輪車を取りに行く者、稲を取りに行く者に別れて作業を開始しした。
「俺達も始めようか。最初は先輩達を見ながら、多分下の方の田んぼを受け持つことになりそうだけど」
 一輪車では無く、荷車を運ぶと荷台に幾つかの苗のセットを積み込んだ。農道は荷車の通れる幅から、一輪車じゃないと無理な道までが走っている。
「それじゃ俺が引っ張るから誰か支えてくれると助かる」
 それほど急な坂でも無かったが、何かあったらという不安が俺にはあった。というわけでもないが。
「そういえば女子も来ているらしいぞ?」
「知ってる。バスの二台目が校門付近で合流してたから」
 女子生徒がバスを降りた場所は少し離れていた。結構男子生徒と女子生徒を分ける事を徹底しているのが少しおかしくもあった。
「まぁ、遠目でも見られるからね。それにジロジロと見ていては……」
「オイ、貴様ら何、女に現を抜かしている」
 バシッと竹刀を地面に打ち付ける音が響いて背筋を思わず伸ばした。
「なるほど」
 持ち場に付近に着くと荷車を止めた。そこから苗のセットを両手で掴む。
「さてと、少し奥になるけど行くか」
 持ち場に辿り着くと湯村は声を上げた。
「んん? あれ、ちょっと見て欲しい。デカい女子が居る」
 デカい女? 一人だけ、俺の唯一知る、この学園の女子生徒の中原さんが思い浮かんだ。
「どのくらい?」
「一八〇はあるかな」
 すーっと顔を上げてみるとやっぱり、大きな女子生徒というのは中原さんだった。同時に何も知らない風を装う。
「ほんとだ。大きな女子だね」
 複数の女子の中に一人だけ頭一つ以上抜けていた。次に会った時の話のネタにしようか等と考える。
 視線を中原に向けると不意に彼女が顔を上げた。そのままの流れで一瞬、目が合った。
「こっちを見ている? あ、手を振ってる。でも誰に?」
 湯村の手前反応する訳にもいかず無視する形を取ってしまった。
「それにしてもあんまり嬉しそうじゃないな? まさかとは思うけど、男好き?」
「馬鹿野郎!」
 思わず平手で頭を殴りつけると湯村はキッと一瞬だけ俺を睨んだ。
「感動が薄いからてっきり。そうじゃないとしたら、女子寮でも見たのか?」
 僅かに手が止まった。
「流石にドーベルマンの森を抜けられたわけないか」
 ホッとした。湯村は鋭いのかそうでないのか、分からなくて困る。
「さ、作業始めるか」
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