第8話 タロット占い

文字数 1,694文字

 占いの始めは先輩が手袋、肘まである物、を脱ぐのが合図だった。
「さ、手を貸して。それも片手じゃなく両手だ」
 聞き覚えのある様なセリフに思わず苦笑が漏れる。
「フフフ、笑った。結構かわいい笑顔ね」
 両手を差し出すと最初に右手を包み込む様に両手で挟まれる。柔らかい指先から手のひらが順に触れていく。
「努力をしている手ね。でも、まだ戸惑いみたいなのを感じるわ」
 触れられている間、終始ドキドキが収まらない。対して、先輩は顔色一つ変えずに淡々と言葉を重ねていく。
「じゃあ、いくわね」
 カードを机に広げて、両手で楕円を描くようにかき回す。
 左手でカード一つに纏めると次に三等分にして、順番を変えて積み上げた。
「ヘキサグラムスプレッドで占うわね。さっきの子は色々と面倒だったけど」
 裏返しのカードを正三角形と逆三角形で並べると最後の七枚目を中央に置いた。形は六芒星に一つの点が置かれたような感じ。
「一枚目、過去の貴方は……」
 先輩からは一番奥、俺からは一番手前のカードが捲られた。
「フーレ?」
 俺と向かい合ったカードには一番上に漢字、一番下には英語が表記されていた。絵柄は崖の近くに男、それもピエロの様な格好している、が立っている。
「フール。愚者の逆位置か。なるほど」
 じーっと先輩の顔を眺めていると先輩は口を開く。
「大体だけど、カードのイメージと正位置は同じで逆位置は逆と覚えて貰っていいわ。それと貴方は受験に失敗したでしょ」
 ズキリと胸が鋭利な刃で突かれ、切り裂かれるような感覚に襲われる。気にしていないつもりだったが、触れなかったのはそういう事だったのかと今思う。
「別に悪い意味じゃないわ。この学園に入る事で貴方はどん底から再生し、希望を得たわ。この先はこれからの貴方の頑張り次第ね」
「次に現在の貴方は……」
 二番目に置かれたカードに手を掛けられた。
「ホイールオブフォーチュン。運命の輪の正位置ね。意味は運命の出会い、幸運、成功、一目惚れ、新しい恋の芽生え、環境の変化による問題の解決。なるほど」
 一目惚れでは無いけど、中原さんや目の前の取手先輩が頭に浮かぶ。それから、問題の解決か。
「心当たりがありそうね。問題の解決はさっきの話から続いているわ。運命の出会いは広場での出会いかな? 他の子の占いの結果と重なる部分なのよ、その出会いは。もっともその子は君とは違った運命の出会いなんだけど。あともう一つは部活関係ね。ライバルの登場と言ってもいいんじゃないかな? その結果、仲間との関係がギクシャクするかもしれないけど」
 さっきから自分の心が見透かされているかの様にズバズバと言い当てられている。もしかして、カードの声が聞こえるのは真実なのか?
「三枚目、未来の貴方は」
 ペラ。見るからに良くなさそうな絵が目に飛び込んだ。
「面白いわね。カードが語るには正位置、逆位置どちらでも良いみたい。デビル。悪魔の逆位置ね。何度も言うけど悪い意味じゃないわよ。カードが語り掛けるのはオカルトへの理解や盲目。嫌でもオカルトと言う物を信じなくてはいけない場面があるわ。場合によってはそれが貴方の運命を決定づけるかも、ね」
 含みを持たせるような笑みは占い師としてのものなのか。不安が心を埋めていく。
「既に話は触れているから、後は気持ち次第と言っておきましょう」
 四枚目のカードが捲られる。
「私は貴方に道を示しましょう」
 出たカードは二頭の馬か何かが車輪の付いた箱を引いている。
「チャリオット、戦車の正位置ですか。結構強い意味を持つカードです。ストレングス、力にも少し似ていますが、カードが告げる違いが勝利という結末ですね。こちらは恋愛面では無く、部活での勝利を意味している様です。努力を怠らない様に信じた道を進みなさい。それがきっと実を結びます」
 その後はあんまり覚えていない。取手先輩が言うには頭に残らなかった言葉を思い出そうとする必要は無い。良い事さえ覚えていればいいと笑顔で言ってくれた。けど、いつかは色々な事に決着を着ける日が来るのだろう。
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