第12話 兵器の王
文字数 1,236文字
六月四週、週末。
夏の甲子園を目指す予選が始まる。
「いよいよ先輩たちの最後の夏か」
頑張って欲しいという気持ちと早く練習したいという気持ちの両方がある。大半の一年が早く終わって欲しいと思っているだろう。
「オイ、お前ら。試合前に俺達を笑わせろ」
バスを降り、荷物を運ぶ中でキャプテンに呼び止められた。
「え?」
俺と湯村は揃って振り返る。
「面白くなかったら分かっているな?」
脅しの言葉に引き攣った笑いが零れる。横を見れば湯村も片頬だけがつり上がり、目が笑っていない。
……。
試合前ミーティングで失敗し、俺と湯村は拳骨を一発ずつ貰った。周りの目があって手加減されたが、それでもやっぱり痛い。
「イテテ」
観客席に着くと一息つく。頭がまだじんと痛む。理不尽が当たり前なこの状況を仕方ないと思うが、自分が三年になった時に変えればいいと思う。
試合が始まるとこちら側のチームの猛打が初回から相手に襲い掛かる。誰かが打つ度に女子高生の声が響く。
「先輩達、凄いんだな」
湯村の言葉には何か違う意味がありそうだけど、確かに先輩達は凄かった。
試合も終わってみればコールド勝ちし、二回戦に進む事となった。
***
七月一週、週末。
前日にうちの高校が勝って三回戦に進んだ。三日ほど空けて次の試合だが、相手は聖王高校。勝てば八強だが、食堂のテレビを見ても聖王有利だ。
「なんや、また会いに来てくれたんか? 嬉しいわ」
今日の中原はジャージに槍代わりの物干しざおを手にしている。
「相変わらず槍か。拳法はやってないのか?」
中原はキッと眉を吊り上げた。体から溢れる圧も増している。
「もしかして太田君はウチが中華拳法をやってるん思うたん? 残念やけど、ウチがやっているのは巴流槍術やで? 由緒正しき槍術」
ともえ流? 名前と一緒だな。
「まぁ、槍だけじゃなくて体術もやってるんやけどな。相手が居なくても出来る槍をやってるんや」
槍ねぇ。
「ちょっと地味じゃない? 剣、というか刀の方が主流な気がするけど」
中原の瞳がギラリと俺を睨む。背の高さも相まって威圧感が半端ない。
「あのな。槍はな。兵器の王と言われる武器やで。剣なんて持ち運びが楽なだけで、武器としては槍に全然劣るんやで」
あ、これはまずい。
「ちょっと落ち着けよ」
中原はあっと少し恥ずかしそうに俯いた。
「ウチ、ウチの流派をけなされるのちょっと嫌なんや。初めは爺ちゃんがやっててな。それでいつの間にかハマってしまってな」
この時、武術の話題を中原に振るのはまずいと理解した。
(あかん。やってもうた。そんな目でウチを見んといて……)
タタタッ。
中原が回れ右をしてそのまま女子寮に走っていく。同時にドーベルマンの唸り声が耳に入った。
「ヤバっ」
俺も即座に回れ右で男子寮に向かって突っ走る。
俺の記憶では森を抜ければ犬たちは追ってこない、はず。
夏の甲子園を目指す予選が始まる。
「いよいよ先輩たちの最後の夏か」
頑張って欲しいという気持ちと早く練習したいという気持ちの両方がある。大半の一年が早く終わって欲しいと思っているだろう。
「オイ、お前ら。試合前に俺達を笑わせろ」
バスを降り、荷物を運ぶ中でキャプテンに呼び止められた。
「え?」
俺と湯村は揃って振り返る。
「面白くなかったら分かっているな?」
脅しの言葉に引き攣った笑いが零れる。横を見れば湯村も片頬だけがつり上がり、目が笑っていない。
……。
試合前ミーティングで失敗し、俺と湯村は拳骨を一発ずつ貰った。周りの目があって手加減されたが、それでもやっぱり痛い。
「イテテ」
観客席に着くと一息つく。頭がまだじんと痛む。理不尽が当たり前なこの状況を仕方ないと思うが、自分が三年になった時に変えればいいと思う。
試合が始まるとこちら側のチームの猛打が初回から相手に襲い掛かる。誰かが打つ度に女子高生の声が響く。
「先輩達、凄いんだな」
湯村の言葉には何か違う意味がありそうだけど、確かに先輩達は凄かった。
試合も終わってみればコールド勝ちし、二回戦に進む事となった。
***
七月一週、週末。
前日にうちの高校が勝って三回戦に進んだ。三日ほど空けて次の試合だが、相手は聖王高校。勝てば八強だが、食堂のテレビを見ても聖王有利だ。
「なんや、また会いに来てくれたんか? 嬉しいわ」
今日の中原はジャージに槍代わりの物干しざおを手にしている。
「相変わらず槍か。拳法はやってないのか?」
中原はキッと眉を吊り上げた。体から溢れる圧も増している。
「もしかして太田君はウチが中華拳法をやってるん思うたん? 残念やけど、ウチがやっているのは巴流槍術やで? 由緒正しき槍術」
ともえ流? 名前と一緒だな。
「まぁ、槍だけじゃなくて体術もやってるんやけどな。相手が居なくても出来る槍をやってるんや」
槍ねぇ。
「ちょっと地味じゃない? 剣、というか刀の方が主流な気がするけど」
中原の瞳がギラリと俺を睨む。背の高さも相まって威圧感が半端ない。
「あのな。槍はな。兵器の王と言われる武器やで。剣なんて持ち運びが楽なだけで、武器としては槍に全然劣るんやで」
あ、これはまずい。
「ちょっと落ち着けよ」
中原はあっと少し恥ずかしそうに俯いた。
「ウチ、ウチの流派をけなされるのちょっと嫌なんや。初めは爺ちゃんがやっててな。それでいつの間にかハマってしまってな」
この時、武術の話題を中原に振るのはまずいと理解した。
(あかん。やってもうた。そんな目でウチを見んといて……)
タタタッ。
中原が回れ右をしてそのまま女子寮に走っていく。同時にドーベルマンの唸り声が耳に入った。
「ヤバっ」
俺も即座に回れ右で男子寮に向かって突っ走る。
俺の記憶では森を抜ければ犬たちは追ってこない、はず。